2026年8月2日、WRC第10戦ラリー・フィンランドを制したのはサミ・パヤリ/マルコ・サルミネン組のGR YARIS Rally1だった。しかも2位ソルベルグ、3位エバンス。表彰台はトヨタが独占である。勝田は6位フィニッシュ。そしてラリー・フィンランドといえば。サービスパークを構えるのは「ユヴァスキュラ」、トヨタとこの街の関係は深くて強い。TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team (TGR-WRT)の本拠地が置かれ、トヨタはここで世界初となる「水素サウナ」を作っている。祝勝の話から今後のスケジュール、サウナの紹介につなげたい。なぜベストカーでサウナなのか。本企画担当編集が好きだからです。
文:ベストカーWeb編集部、画像:TOYOTA GAZOO Racing/トヨタ自動車
パヤリが母国で初制覇 表彰台はトヨタが独占
まずはラリーの結果からお届けします。
2026年8月2日(日)、ラリーフィンランド最終日デイ4の舞台は、今大会最長となる30.02kmの「ヒモス-ヤムサ」を2本。デイ3を終えて2番手に46.4秒差をつけていた24歳のサミ・パヤリは、SS19であえて確実性を優先して4番手タイム、パワーステージとなったSS20も5番手タイムで淡々とまとめ切った。トータルタイム2時間27分58秒0。2位オリバー・ソルベルグに26.7秒差をつけての、母国ラリー初優勝である。
前戦ラリー・エストニアでのWRC初優勝に続く2連勝。しかもこの1勝は、フィンランド人ドライバーによるWRC通算200勝目という記念すべき数字でもあった。開催75周年の節目に、地元の大観衆の前で、だ。「自分が『1000湖ラリー』の勝者になれたのは信じられない」というパヤリのコメントには、伝説的なドライバーたちの走りを見て育った若者の実感がそのまま出ている。
2位ソルベルグ、3位エルフィン・エバンス。トヨタは昨年に続いて表彰台を独占した。そのエバンスはデイ3で自らのミスによりマシンを大破させながら、メカニックの手でわずか30分で息を吹き返している。この話は、あとでもう一度出てくる。
一方、総合5位を走行中だった勝田貴元はSS20で岩を避けようとしてラインを外し、木に接触。総合6位に終わり、ドライバー選手権は2位から3位へと後退した。選手権はエバンスが201点で首位、パヤリが171点で2位、勝田が160点で3位。マニュファクチャラー選手権ではトヨタが514点、ヒョンデに174点差をつけている。さらにチーム代表のヤリ-マティ・ラトバラがGR Yaris Rally2でRC2クラス優勝・総合8位というオマケまで付いた。まさにトヨタ祭りである。
モリゾウが読み上げた交換パーツと、あの「追伸」
さて、この勝利についてTGR-WRT会長・豊田章男氏——モリゾウが出したコメントが、実にモリゾウらしかった。
「サミ、マルコ、2連勝そして母国での優勝おめでとう!」と切り出したあと、彼が真っ先に讃えたのは、優勝したパヤリでも、選手権首位を守ったエバンスでもなかった。メカニックである。
「ユヴァスキュラの表彰台に6人で乗ってくれたことも本当に素晴らしいことだと思います。地元ファンの皆さまに何よりのお礼ができました。これは33号車のメカたちの力がなかったら実現していなかったことです。彼らは地面に3回転もしてボロボロになったクルマを、たった30分で蘇らせ、何のペナルティもなくエルフィンたちを勝負の道に戻してくれました」
そのうえで、モリゾウはわざわざ交換部品を一つずつ読み上げてみせる。
「こうしたメカの活躍はWRCでは良く聞く話ですが、交換したパーツが『前後バンパー、サイドパネル、ボンネット、リアゲート、左ヘッドライト、右ドア』と聞くと、彼らの技が本当にすごいものだと感心します。メカのみんな、ありがとうございました」
これ、がんばって交換したメカニックはうれしいコメントでしょうねー。そして最後に、こんな追伸が付く。
「追伸 ヤリ-マティもRally2優勝おめでとう!新しいカラーリングは気に入った?最初は私からの提案を少し嫌がっていたけど…笑」
——監督のラトバラを軽くいじって締める。この距離感が、いまの「GR値0む」の雰囲気を、たぶん一番よく表している。
マニュファクチャラー選手権
TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team 514ポイント
Hyundai Shell Mobis World Rally Team 340ポイント
TOYOTA GAZOO Racing WRT2 184ポイント
M-Sport Ford World Rally Team 130ポイント
ドライバー選手権
エルフィン・エバンス(トヨタ)201ポイント
サミ・パヤリ(トヨタ)171ポイント
勝田貴元(トヨタ)160ポイント
オリバー・ソルベルグ(トヨタ)156ポイント
セバスチャン・オジエ(トヨタ)139ポイント
アドリアン・フォルモー(ヒョンデ)129ポイント
ティエリー・ヌービル(ヒョンデ)125ポイント
エサペッカ・ラッピ 25ポイント
ヘイデン・パッドン 21ポイント
ジョシュ・マッカーリーン 21ポイント
(※Rd.10ラリーフィンランド終了時点/今期は全14戦なのであと4戦(パラグアイ、チリ、イタリア、サウジアラビア/すべてグラベル))
なぜクルマ屋がサウナを作ったのか?
さて、本記事の本題(?)はここからだ。
「ユヴァスキュラ」は、TGR-WRTが本拠を構える街である。そしてこの街とトヨタの関係は、モータースポーツの枠をはみ出している。
2023年、ユヴァスキュラ市とTGR-WRT、そしてトヨタ・モビリティ基金(理事長:豊田章男)が連携し、翌2024年に「Central Finland Mobility Foundation(Cefmof)」が設立された。その目的は、水素を活用したユヴァスキュラ市のカーボンニュートラル化を支援すること。クルマを速く走らせるための組織ではない。街をどうするか、という話である。
そのCefmofの働きかけによって、トヨタはある企業と出会う。フィンランド・ムーラメに本社と主力工場を構える、サウナ/スパ機器の世界的リーダー、「Harvia(ハルビア)」だ。
両社は、昨年(2025年)6月3日、世界初(発表時点、ハルビア・トヨタ調べ)となる水素燃焼技術を活用した「水素サウナ」のコンセプトモデルを共同開発したと発表した。同年6月の「ワールド・サウナ・フォーラム」で披露され、7月31日~8月2日のラリー・フィンランド開催期間中にはユヴァスキュラ市内で実演が行われた。つまり昨年のラリーウィーク、あの街ではGR YARISが林道を跳んでいるすぐかたわらで、トヨタの水素サウナが湯気を上げていたわけである。
水素の炎が石を焼き、ロウリュが立ちのぼる
技術の話をしよう。……といっても、原理はいたってシンプルだ。水素は燃やしてもCO2を出さない。出るのは水蒸気と暖かい空気だけ。閉じた木の小屋の中で人が裸で座るというサウナの用途と、この特性は思いのほか相性がいい。フィンランドといえばラリー大国でありサウナ大国、そして環境先進国でもある。ここで「よし水素サウナを作って広めよう」となるのは、いたって自然な流れなのだ(そうか?)。
両社が狙ったのは、伝統的なスモークサウナ——薪を焚き、煙で石を温めるフィンランドサウナの原点——が持つ「柔らかく心地よい熱」の再現である。水素サウナストーブでは、水素の炎と暖気がサウナストーンの隙間を通り抜け、石を全方向から均等に加熱する。ムラなく芯まで焼かれた石に水をかければ、あの「ロウリュ」が立ちのぼる、という寸法だ。
ハルビアのイノベーション&テクノロジー部門責任者ティモ・ハルヴィア氏は「トヨタの水素燃焼技術に関する深い知見により、安全かつ効率的に水素をクリーンエネルギーとして活用することができました」とコメントしている。伝統を守りながら未来を見据える——その姿勢において、サウナ屋とクルマ屋の思想はわりと近い(近い!)。
考えてみれば、水素エンジンのカローラをスーパー耐久で走らせ続けてきたのがトヨタである。「燃やして使う水素」の実戦ノウハウの蓄積量は、おそらく世界屈指だ。それをサウナストーブに転用したというのは、突飛なようでいて、実は筋が通っている。
サウナこそ「水素社会」の入り口である
トヨタ水素ファクトリーの山形光正プレジデントは、発表時にこう述べている。「ユバスキュラ市は、トヨタとTGR-WRTが長年にわたり協力してきた重要な地域です。本プロジェクトは、豊田章男会長の強い意思のもとに築かれてきた地域社会との信頼関係の延長線上にあります」。
——「豊田章男会長の強い意思」。ここに、この記事の答えが書いてある。ラリーで勝つために通っていたはずの街で、市と財団を作り、地元のサウナメーカーと組み、水素ストーブを焚いてみせる。メカニックの交換パーツを読み上げる視線と、街のカーボンニュートラルを本気で考えるこの動きは、まったく同じ場所から出ている。モリゾウは「勝つこと」と「その土地の人と長く付き合うこと」を一緒に考えているのだ。
トヨタは水素を「つくる/はこぶ/ためる/つかう」の4領域で捉えている。FCEVも商用車も発電も、どれも重要だ。ただ、生活者から見れば、まだどこか遠い。しかしサウナは違う。フィンランドにおいてサウナは趣味ではなく生活インフラそのものだ。そこに水素が入り込めば、「水素=クルマの燃料」という枠は一気に広がる。日常の中で水素の炎に温められる経験は、水素を身近にしてくれるだろう。
パヤリの母国初優勝も、世界初の水素サウナも、根っこは同じところにある。トヨタはユヴァスキュラという街に長年通い続け、根付き、地元と信頼を積み上げてきた。サウナ事業はそういった道程に生まれた果実のひとつといえる。こういうところはクルマ好き、モータースポーツ好きとしても素直に評価したい。
なおWRC2026シーズンもいよいよ大詰め。次戦は8月27~30日のラリー・デル・パラグアイ。粘土質の赤土グラベルが待っている。スコア次第で年間タイトルが決まる可能性もある。北欧から南米へ飛び、決戦のラリー開催まで1ヶ月弱、モリゾウが言うところの「少しでも夏休みを楽しんでください」である。ユヴァスキュラのサウナで、しっかりととのってから南米へ向かってほしい。
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