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「環境問題?なんすかそれ」の時代に「1台売るだけで赤字」 全然伝わらなかった“世界初” 初代プリウスが尊い

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「環境問題?なんすかそれ」の時代に「1台売るだけで赤字」 全然伝わらなかった“世界初” 初代プリウスが尊い

ハイブリッド車の研究・開発は1960年代にスタート

電気とガソリンなど、複数の動力源を組み合わせたハイブリッド車。いまではすっかり当たり前の存在となりましたが、その“世界初の量産モデル”こそ、1997年に登場したトヨタの初代プリウスです。ただ、トヨタが莫大なコストと情熱を注ぎ込んだにもかかわらず、当初は苦戦しました。

【え…!】これがプリウスより早い「世界初の市販ハイブリッド車」です(写真)

 欧米では古くから環境問題に対する議論が盛んに行われ、1960年代から欧米の自動車メーカー各社ともにハイブリッド車の開発に取り掛かろうとしていたものの、まだまだ前向きな姿勢とはいえませんでした。

 そんな中、日本において環境対策をふまえた新たな自動車の研究・開発にいち早く取り組んだのが、ほかでもないトヨタでした。1960年代には「ニューエンジンとエネルギー問題」を研究テーマとして立ち上げ、1968年に後のハイブリッド車につながる試作をスタートさせます。1971年には「バス用のハイブリッドエンジン」を試作ユニットとして公開しました。

 その後も研究を続け、1975年の東京モーターショーには、センチュリーにガスタービンエンジンを搭載したハイブリッド実験車を参考出品しました。さらに1977年の東京モーターショーには、ガスタービンエンジン、発電機、モーターによるハイブリッドシステムをスポーツ800に搭載させ、再び参考出品しました。

 右肩上がりのモータリゼーション活況期において、トヨタは国内外の自動車メーカーに先んじて「環境と乗りもの」の問題に積極的に取り組んでいたのです。

「世界初の市販ハイブリッド車」は量産されずに消えた…

 その後、日本ではダイハツ、マツダが、欧米ではメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、アウディ、ボルボなどがハイブリッド車の研究・開発に積極的に乗り出しますが、いずれも量産化には至らず、一般ユーザーにとってはまだまだ「ハイブリッド車、なんすかそれ?」の時代が続きます。

 そんな中、1994年にアウディが乗用車では世界初のハイブリッド車として「アウディ80 duo」の市販をスタート。しかし、高額な販売価格がネックとなり、量産には至らず、アウディブランドの環境問題への立場表明を示すだけで姿を消しました。

「リッター30キロ」を掲げたプリウスのプロトタイプ車

「アウディ80 duo」の登場翌年にあたる1995年、トヨタが東京モーターショーにプリウスのプロトタイプとなる「プリウスコンセプト」を参考出品。高効率のD-4エンジンと電動モーターを組み合わせた「TOYOTA EMS」という独自開発のハイブリッドシステムを搭載し、「同クラス車の約2倍の低燃費、リッター30キロ実現を目指す」として発表されました。

 当時としてはかなり真新しかった「人に優しい」機能も多数搭載し、相応の注目を浴びました。しかし、これは自動車業界内の専門家や関係者に限った話で、肝心の一般ユーザーの間では「なんのことやらサッパリ」という人が多かったのも実情でした。

「リッター28キロ」の噂だけが先行

 プリウスコンセプトの発表から2年後の1997年、トヨタは「21世紀に間に合いました。」のキャッチコピーとともに、世界初の量産型ハイブリッド車として初代プリウスをリリースします。

 この発売前から、さすがにマスコミも大きく注目を寄せましたが、実態がイマイチよくわからないハイブリッド車を前に、公式では発表されていない情報もまことしやかに出回るようになりました。

 やがて「リッター28キロ走るらしい」「価格はガソリン車の数倍に及ぶ」など、噂だけが一人歩きし始めます。発売時のスペックが市場の想像より低いとなれば、酷評を受けること必至です。実際、当初は「リッター28キロ」に及ばず、担当者はヒヤヒヤだったそうですが、なんとか1997年のリリースまでにクリアし、初代プリウスの発売にこぎつけました。

「1台売るだけで赤字」

 しかし、一般ユーザーの反応は想像以上に冷ややかなものでした。その最大の理由は、販売価格にありました。初代の販売価格は215万円で、車格が近いカローラの約1.5倍だったのです。燃費が良いといっても、価格ばかりが目立って一般ユーザーにはなかなか伝わりません。

 一方で、この215万円という価格は、ここまでのトヨタの研究・開発にかけた莫大な費用を考えれば破格の安値でした。噂では「215万円はバッテリーの価格だけで、他のパーツなどの費用は乗っていない」「1台売れるだけで赤字」ともいわれていました。それでもトヨタは、プリウスおよびハイブリッド車の普及を目指し、「21世紀へゴー(5)」として215万円という価格に設定したといわれています。

2代目で評価が広まり、3代目で爆発的ヒット

 結果的に初代プリウスは、6年間で国内では累計6万台程度の販売となり、芳しい成績を収めることはできませんでした。

 しかし、アメリカ市場で評価を受け始めた2代目プリウスをきっかけに、日本でも3代目プリウスが爆発的なヒットを記録し、今日まで続く絶大な支持に繋がりました。また、プリウスが先陣を切ったことで、他メーカーもハイブリッド車を開発していったことを考えれば、国内外の自動車業界に与えた影響は計り知れないでしょう。

「環境と乗りもの」の問題は、各メーカーがいつか必ず取り組むべき課題だったでしょう。しかし、もしトヨタがいち早く取り組み、初代プリウスを発表していなければ、量産ハイブリッド車の登場は、さらに長い将来の話だったかもしれません。そう思うと、プリウスは自動車発明以来の革命的モデルだったのだと痛感します。(松田義人(ライター・編集者))

文:乗りものニュース 松田義人(ライター・編集者)
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みんなのコメント

82件
  • ノリさん
    当時は殆ど見向きされなかったハイブリッドだけど、今では新車販売の半分以上がハイブリッド車だと聞くと、この第一歩は途轍もなく大きな一歩だと思う。
  • yah********
    初代の頃はエコ運転に徹するようなおとなしい運転をする人が殆どだったが3代目以降はお察しの通り。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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