マイアミ・インターナショナル・オートドロームで開催された2026年F1第4戦マイアミGPは、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が3戦連続となるポール・トゥ・ウインで締めくくりました。
今回は、アップデート投入で好調さを見せた2チーム、マイアミGPから施行された規則調整、そして5月1日に亡くなったアレックス・ザナルディとの思い出について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。
ザナルディの葬儀がイタリアの修道院で執り行われる。2000人以上が参列、F1やBMWも代表者を派遣
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
5週間のインターバルを挟んでようやく開催された第4戦マイアミGPは、なんといっても5週間の間に各チームが準備したアップデートが勢力図にどのような影響を与えるのか。そして、パワーユニット(PU)関連規則の調整がどのような変化を見せるのかが見どころでした。
アップデート投入で特に好調さを見せていたのはマクラーレンとレッドブルでした。マクラーレンは空力面全体のバランスが良くなって、それがマシンの操りやすさにも繋がっているように見えます。まだ選手権首位メルセデスの領域に完全に届いた訳ではないので課題はまだあるとは思いますが、確かにポテンシャルが上がっていますね。
一方のレッドブルに関しては、正直どこまでクルマが良くなったのかが予測できません。というのも、マックス・フェルスタッペンは速くても、チームメイトのアイザック・ハジャーはそこまで速さを見せていなかったためです。レッドブルはこのマイアミGPで回転式のリヤウイング(通称:マカレナウイング)を投入し、ストレートの多いセクター2&セクター3でタイムを削っていました。
フェルスタッペンのデータを見る限り、彼のクルマは低速コーナーも速かったのですが、セクター1の走りを見るとクルマ自体は低速コーナーに苦しんでいるように見えました。そのため、この低速コーナーでの速さはフェルスタッペンの技でタイムを削っているように感じています。事実、ハジャーは特にセクター1で苦しんでいました。そのため、レッドブルのマシンに関しては、どこまでマシンバランスが改善されたのかが予測しにくい状況です。
マイアミGPの結果を見て、『レッドブルはフェルスタッペン以外には操ることが困難な専用マシンに戻した』という評価もあるようですが、まだインターバル明けの1戦目ですから、その評価は時期尚早かなと感じます。とはいえ、開幕3戦と比較すればレッドブルのクルマが曲がるクルマ、コーナーに対しフロントがしっかりと入るクルマになったのは確かです。その分リヤがピーキーになって、それでも乗りこなせたのがフェルスタッペンだけだったのではないかなと。
ハジャーが低速コーナーで苦しんでいたと先ほどお話ししましたが、リヤタイヤのスライド量のコントロールといった部分でハジャーはかなり苦しんでいた印象です。そのため、レッドブルがフェルスタッペン好みのクルマに仕上げたというよりも、偶然フェルスタッペンだったら上手く抑え込める範囲のマシンになった、という感じでしょうか。レッドブルのマシンの真価を測るためにも、あと数戦はふたりの走りを注視して見ておきたいですね。
■規則調整の難しさと過渡期だからこその面白さ
マイアミGPより、予選において全開走行を増やしてショーの質を向上させること、車両間の速度差による危険を減らすことを主な目的とし、主にパワーユニット/PU関連の規則に調整が入りました。個人的には、今回の調整が入ったことでの変化はそこまで感じることはありませんでした。依然としてスーパークリッピング時(内燃機関の出力で充電すること/出力が回生に回されるので車速は通常時よりも落ちる)のマシンとオーバーテイクモード時のマシンでは速度差は大きかったです。ただ、速度差が大きいからこそ、レース中もオーバーテイクシーンがたくさん見られるようになったというのはあると思います。
とはいえ、速度差が大きいなかで先行するマシンが必要以上に後ろのマシンをブロックしに行くと、2台が接触の可能性は高まります。これについては紳士協定などで無理にブロックしないことを各ドライバーの共通認識にしておかないと、現行の規則のままでは依然として危険が伴うと感じています。ただ一方で、安全を優先するためにマシンの速度差がない規則にすると、今度はオーバーテイクがない、抜けないレースとなってしまうでしょう。オーバーテイクのやりやすさを維持しつつ、速度差をどこまで調整できるのか。とても困難な課題ではありますが、その課題にFIA国際自動車連盟やF1がどのように挑むかは見守りたいです。
ポジティブなのは、F1やFIAがドライバーたちの意見を受け止めて、変化に繋げようという方針、ドライバーの意見を聞く姿勢を、運営側・規則制定側が示したことですね。難しい課題を乗り越えるためにも、コースの外で口撃し合うのではなく、F1、チーム、ドライバーが歩み寄り、安全面とエンターテイメント性の両立を議論し続けることが大切でしょう。彼らにとっては大変な課題ですが、観客・ファンにとっては非常に面白い、過渡期のF1を楽しめるまたとない機会ですね。
余談ですが、現行の規則に最も批判的だったフェルスタッペンは、マイアミGP後に規則の調整について聞かれて「物事は正しい方向に動き始めている」と答えていました。マシンが好調で、手応えを得ている状況になれば、ドライバーは規則に文句は言わないという、わかりやすい実例を目撃した気分になりました(笑)。
■戦い続けた不屈の男。アレックス・ザナルディの生き様
5月1日に、アレックスが亡くなりました。アレックスと私はF1のレギュラー参戦時期は被っていなかったのですが、2001年にCART(のちにチャンプカー・ワールドシリーズへと名称変更後、インディカー/IRLに統合された)で同じグリッドで戦っていました。
彼は、みなさんが抱いているイメージどおり、チャレンジ精神や闘魂という言葉が似合う人でした。ザナルディは1990年代前半のF1参戦期を経て、1996年から3年間チップ・ガナッシ・レーシングからCARTに参戦し、1997年と1998年に2年連続タイトルを獲得しました。その実績を伴って1999年にウイリアムズのシートを得てF1に復帰しましたが、1年でウイリアムズとの契約を打ち切り、1年の休養を経て2001年にCRATに戻りました。
ただ、2001年の彼はCARTで結果が出ない時期が続き、苦しんでいました。アレックスとは違うチームでしたし、そこまで深い関係ではありませんでしたが、私もF1からCARTに来て苦しんでいた時期だったので、あまりにも求められるドライビングスタイルが異なる現状に『F1との違いを埋めるのが難しいよね』という話をたびたびしたことを覚えています。コース上でのアレックスはめちゃくちゃアグレッシブな走りだったのですが、彼の持ち前のアグレッシブさが思うように結果に結びつかないことに悩んでいました。
そして、あの事故です。第16戦ドイツ・ラウジッツリンクでアレックスは序盤からトップを守り、最後のピットを終えてもう少しで優勝という状況でした。そこで、あの大事故が起きてしまいました。私はあの事故の際、彼らの数台後ろを走っており、発生直後に現場を走っていました。正直、何が起きたのかわかりませんでした。クルマを降りて詳細を聞いた際はショックでしたし、その次のオーバルレースの際、コースに入るときに恐怖を抱いたことを覚えています。
その後の彼の復活劇は凄まじく、WTCC世界ツーリングカー選手権での活躍や、ハンドサイクリング転向後のパラリンピックでの金メダル獲得と、アスリートとして素晴らしい実績を残したことは、みなさんもご存知かと思います。そんなアレックスと最後に会ったのは2019年に富士スピードウェイで開催されたスーパーGT×DTM特別交流戦でした。
4号車BMW M4 DTMのドライバーとして富士に来たアレックスに「乗ってみる?」と誘われて、彼の乗るDTMマシンに座らせてもらったことを覚えています。アクセルだけではなく、通常踏力で踏み切る重いブレーキを、腕の力・レバーを押すスタイルで操作する大変さを聞いた際に「この男バケモノだ」と思いました。腕だけでハンドリングからアクセル、ブレーキを操作して、他のマシンと真剣勝負を繰り広げている事実に、人間は極限まで突き詰めるとなんでもできるんだと思うと同時に、人間は自分から“自分の限界や壁”を作ってしまっているのかもしれないと感じさせられた出来事でした。
アレックスは、戦うこと・チャレンジすることがとにかく好きな人でした。アレックスが亡くなったことはとても悲しいですが、最後まで諦めない、戦い続けるというアレックスの生き様は、彼の戦いを見届けたいろいろな人に受け継がれていくでしょう。私も負けられないなと言いますか、いい年齢になっていますが、自分で自分に限界を作らず、いろいろなチャレンジを続けていこうと思います。たくさんの発見や気づき、そして思い出をくれたアレックスには、改めてありがとうと伝えたいと思います。
【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。
・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
[オートスポーツweb 2026年05月11日]
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!
みんなのコメント
正に不屈、諦めない力の権化だよ。
マイアミでのマクラーレンとレッドブルの復調で楽しみが増えた今回のレースだった、アントネッリの勢いを誰が止められるかで前半戦の行方がわかるだろう。
ザナルディとの思い出話は特に興味深かった、CART時代は本当に強かったしF1への未練がなければ連覇し続けていたかもしれない。
その後の事故からの復活とメダリストとしての彼の姿は人間の運命と無限の可能性を考えさせられる。
久しぶりに古いレース映像が観たくなる話だった。