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欧州が「日本の軽自動車」にひれ伏す日! 1.5万ユーロ以下が絶滅寸前、市場を壊した“制度疲労”の正体とは

掲載 更新 118
欧州が「日本の軽自動車」にひれ伏す日! 1.5万ユーロ以下が絶滅寸前、市場を壊した“制度疲労”の正体とは

軽規格に学ぶ欧州の構造転換

 ロイター通信によれば、米国の自動車専門メディア「オートモーティブ・ニュース」がイタリア・トリノで開催した会議で、ステランティス会長ジョン・エルカン氏が発言した。

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 エルカン氏は

「欧州は日本の軽自動車のような小型で安価な車両を開発する必要がある」

と述べたという。背景には、欧州域内での規制強化が車両価格を押し上げ、消費者の購買意欲を阻害しているという認識がある。

 また、2025年7月15日付でルノーの最高経営責任者(CEO)を退任予定のルカ・デメオ氏も、2024年2月のジュネーブモーターショーで類似の見解を示した。欧州市場で販売される小型車について、車両規格の柔軟化と税制優遇を検討すべきと提案している。

 こうした一連の発言の背後には、日本の軽自動車制度を成功モデルと捉える視点がある。欧州の自動車産業が、日本の軽自動車制度を参考にし、制度の一部を模倣・導入する可能性も見えてきた。これは、車両設計のみならず制度面も含めた構造的転換の兆しともいえる。

 本稿では、日本の軽自動車市場を単なる商品群ではなく、制度と一体化した「制度パッケージ」として捉える。その上で、日本が築いてきた制度設計と商品開発を、海外市場へどのように輸出できるのか、その可能性を検討する。

マイクロEV再定義の胎動

 かつての欧州市場には、手頃な価格で誰にでも届く小型車が多く存在していた――。

 ステランティス傘下のフィアットは、1936年に初代「フィアット500(チンクエチェント)」を発売。ふたり乗りの小型車「500A」は、イタリア語でハツカネズミを意味する「トポリーノ」の愛称で親しまれた。1957年には、479ccエンジンを搭載した2代目500を投入。日本ではルパン三世の愛車として知られ、今なお多くの愛好家を惹きつけている。フィアット500の大衆的人気は、フィアットをイタリアを代表する巨大企業へと押し上げる原動力となった。

 しかし現在、欧州市場からは安価な小型車が姿を消しつつある。エルカン氏の指摘によれば、2019年には販売車両のうち、1万5000ユーロ(約250万円)未満のモデルは49車種、販売台数は約100万台にのぼった。だが現在は、該当する車種はひとつのみ、台数も10万台未満に縮小している。背景には、

・環境規制
・安全基準の強化

がある。これにより、小型車が過剰なコストを負担せざるを得なくなり、市場から排除される結果を招いた。こうした空白に対し、フィアットは2023年7月、往年の「トポリーノ」をマイクロEVとして再び投入。ルノーも「5(サンク)」の名称を復活させ、小型EVの再定義に動いている。

 両社が目指すのは、単なる復刻ではない。過去の成功モデルをベースに、小型車の新たな意味と価値を問い直す試みである。

小型車の販売比率2割

 欧州市場で小型車の価格が高騰している背景には、厳格な安全基準の存在がある。各種の衝突試験に加え、歩行者保護性能の確保が義務付けられている。2022年以降は、

・先進運転支援システム(ADAS)
・自動ブレーキ
・レーンキープアシスト
・ドライバー異常検知機能

の搭載が義務化された。これらが車両価格を押し上げる要因となっている。

 一方で、小型車の販売台数は減少傾向にある。メーカーにとっては、設備投資や開発費の回収が難しく、結果として価格上昇の悪循環に陥っている。欧州自動車工業会(ACEA)によれば、欧州の新車販売に占める小型車(A・Bセグメント)の比率は約2割にとどまり、ここ10年あまりで縮小が続いている。

 小型車市場が縮小し、空白地帯になりつつあるとの危機感が、ステランティスやルノーによる小型車復権の動きを促したと考えられる。

 都市交通が地下鉄やトラム、バスなどで整備されても、人々は移動の自由を求める。その選択肢として乗用車の需要は根強い。特に

「小さく、安く、使える」

小型車には、欧州の都市部で依然として潜在的なニーズが存在している。

 しかし現実には、車両価格や維持費の高騰に加え、駐車規制の強化といった障壁が立ちはだかっている。こうした要因が販売増加につながらない理由となっている。

 さらに、若年層を中心にクルマ離れの傾向が進んでいる。EVのサブスクリプションサービスやマイクロモビリティといった代替手段への関心は高まっているものの、小型車市場の縮小を食い止める決定打には至っていない。

日本モデル参考の新車戦略

 2025年5月、ステランティスのエルカン氏とルノーのルカ・デメオ氏は、欧州連合(EU)に対し車体サイズに応じた異なる規制の導入を求めた。小型車への規制負担を軽減する狙いである。

 この提案は、日本の軽自動車制度パッケージを連想させる。車体サイズごとに規制を変えることで、設計思想を根本から変えられる。

・燃費基準
・衝突安全性
・型式認証

を階層化し、規格やルールを整備すれば、新たなカテゴリーとして具体的な輪郭が描ける。

 エルカン氏はさらに、欧州の日本の軽自動車に相当する車両を「eカー」と呼べると述べた。

「日本に市場シェア40%を持つ軽自動車があるなら、欧州がeカーを持たない理由はない」

とも発言している。日本の軽自動車制度を参考にしたリバースエンジニアリング(製品やシステムを分解して、その構造や設計思想などを明らかにする手法)の側面もある。

 日本の軽自動車規格は1949(昭和24)年に制定され、1976年と1990(平成2)年に排気量の見直しが行われた。現行の規格は1998年10月に制定されたもので、全長3400mm以下、全幅1480mm以下、全高2000mm以下、排気量660cc以下、定員4人以下、貨物積載量350kg以下と定められている。

 こうした軽規格を基盤に、単なる電動化ではなく、制度パッケージとしての欧州版eカー構想が示唆されたと考えられる。日本の軽自動車が築いた制度パッケージと酷似する内容である。

小型車再評価の地域戦略

 グローバル経済はブロック経済化の兆しを強めている。これにより従来のグローバル戦略モデルは機能不全に陥りつつある。為替リスクや関税政策、物流のボトルネックが経済的破綻を招く要因となっている。

 これに代わって注目されるのが、ローカルニーズに根ざしたモデルだ。地域設計主義への転換が進んでいる。特に小型車は、南米やアセアンなどの市場で利益を生み出す構造が期待されており、再評価の余地が大きい。

 ステランティスも開発の主軸をグローバルからローカルへと移行させている。エルカン氏は、新CEOのアントニオ・フィローザ氏を自動車産業がグローバルから多地域へ移行する時代に適任と評価している。フィローザ氏は南米のアルゼンチンやブラジル、北米市場の統括経験があり、規制や関税、政治対応において世界動向と合致していることが強調されている。

 一方、欧州がeカーの立ち上げを模索するなかで、日本の軽自動車がコスト面や理論面で適応できるかは疑問が残る。欧州の厳しい安全基準を考慮すると、軽自動車そのものの欧州市場参入は高いハードルが立ちはだかる。

 そのため、軽自動車単体の輸出ではなく、軽自動車の制度パッケージを輸出し、規格化していく道が現実的だ。もし欧州のニーズに合った新たな制度が誕生すれば、日本勢は軽モデルをベースにした開発で優位性を示すことが可能になるだろう。

 中国にも軽自動車に近い小型車規格が存在し、その存在は脅威となっている。微型車や小微型電動車と呼ばれ、ホイールベースは2000mmから2300mm、全長は3650mm以内で全幅に規制はない。

 上海通用五菱汽車の「宏光(ホンガン)ミニ」はこのカテゴリーに属するEVで、日本円で約50万円で販売されている。中国ではほかにも多数の低価格小型EVが市場に出回っている。

公共性を軸にした制度再編

 欧州メーカーは、低価格の中国製EVに対抗するため、制度の見直しと価格戦略の転換を迫られている。同時に、従来の

・豪華さ
・SUV志向
・性能至上主義

から脱却することが不可欠となる。軽量・低価格・省機能といった方向性は、自動車を消費財として再定義する可能性を秘める。

 これまで欧州市場では、排ガス規制や安全基準の統一が一定の成果を挙げてきた。しかしその一方で、小型・低価格車の設計自由度を著しく制約し、そのひずみがいま顕在化している。この状況を打破するには、製品単体の再設計にとどまらず、制度全体の再構築が必要だ。認証制度、税制、インフラ整備、そして技術基準の適用範囲を含めた包括的な政策判断が求められる。

 特に注目すべきは、制度そのものが小型車の持続可能性を妨げてきた可能性である。この視点を欠いたままでは、どんな新車種も市場から再び排除されるリスクを抱える。制度の転換には、行政・産業界・消費者の三者による合意形成が欠かせない。とりわけ重要なのは、自動車産業自身による

「技術選好や製品戦略への内省」

である。市場動向や規制対応を名目にした高価格化の流れは、購買層の実態と乖離を生んできた。小型車の再評価は、産業の価値観そのものを問い直す作業である。最終的に問われるのは、自動車という輸送手段を、地域の交通文脈にどう適合させていくかという視点だ。

 小型車の再構築は、低所得層や都市居住者、高齢者など、多様な需要に応える有力な選択肢となる。ここでカギとなるのは、

「すべての人に移動手段としてのアクセスを保障する」

という公共性の視点である。その公共性を担保するために、制度と製品のあいだに新たな均衡点をどう設計するかが問われている。

軽自動車制度の世界的波及

 軽自動車思想が最終的に欧州市場に根付くかは未知数だ。ただし、単なる製品ではなく、それを支える制度設計が消費者の選択肢として不可欠であることは確かだ。

 EUが抜本的な制度見直しを進め、自動車メーカーが戦略転換を果たして初めて、消費者に真の選択肢が提供される。期待されるのは月額500ユーロ(約8万4000円)以下のモビリティだ。

 その実現に向けて、日本の軽自動車制度パッケージがベストプラクティスとして機能し、消費者に選ばれる日が訪れる可能性は十分にある。(成家千春(自動車経済ライター))

文:Merkmal 成家千春(自動車経済ライター)
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みんなのコメント

118件
  • jin********
    歳を重ね多人数で使用する事も遠出する事も大きく減り、良い車に乗りたいとの欲も無くなり軽自動車でもいいかなと思い始めた今日この頃。
  • zab********
    今更?気がついたの(笑)過去には巨大なテールフィンが付いたアメ車をバカにしてたクセに…ハッキリ言って昨今のSUVブームも「巨大なテールフィンが付いたアメ車」みたいに終焉しそうだな、巷でもアウトドアスポーツもやらない、豪雪地帯や砂漠を走るわけでもないのに無駄にデカいSUVが多すぎる、燃費も悪い、タイヤの価格も高い、車重が重いから道路を傷める…より大きく立派に見えてゴージャスな無駄だらけの車に乗る時代は終わるよ。中東情勢が悪化したらまた原油高…皆が皆、アウトバーンを200km以上で走るわけでも、過酷な自然環境で極限の走行性能必要じゃなかろうに。燃費が悪い車には高い税金を課すべきだ!環境負荷高いンだから、皆同じ小さい車に乗るようになれば、全体的に省資源になる
    その意味でも軽自動車規格は優秀だと思いますがね
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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