ボディサイズを感じさせない軽快さを存分に満喫
わが国でも絶大な人気を誇るBMWアルピナ。「洗練の極み」と称され、現代車の中では格別に「コニサー(通人)好み」と認知されているこのブランドは、実際にステアリングを握って走らせてみないと本質に触れられないクルマの最たる例と言えるだろう。今回は、これまで半世紀近い歴史を刻んできたBMWアルピナ生来のフォーマットによって開発された最後の完全ニューモデル、G26系「D4Sグランクーペ」をドライブする機会に恵まれた。
BMWアルピナのガソリンとディーゼル、選ぶべきは? 「B4」と「D4S」を乗り比べて考察してみました
BMWアルピナ最後のニューモデルのディーゼル版とは?
BMWの現行型「4シリーズ」(クーペG22系/カブリオレG23系/グランクーペG26系)をベースとするBMWアルピナは、まずはガソリン版「B4グランクーペ」を2022年3月30日、東京・品川区内の特設会場にて初公開。この発表会はドイツ本国を含む全世界にオンライン発信され、事実上のワールドプレミアとなった。
この代からのB4は、BMW本家の「M4」と直接バッティングする2ドアクーペやカブリオレは廃され、4ドアのB4グランクーペのみのラインナップとなった。
パワートレインは、先代「B4Sビターボ」と同じくS58型直列6気筒DOHC 24バルブの2977ccである。当代最新の排出ガス後処理技術を備えた新しいエキゾーストシステム、およびエンジン制御ソフトウェアをリニューアルしたことによって、先代B4Sに対して最高出力は33psアップとなる495ps、最大トルクは30Nmアップに相当する730Nmに到達。独ZF社との共同開発による8速スウィッチトロニックATが組み合わされ、0-100km/hの発進加速は3.7秒。巡航最高速度は301km/hに達する。
くわえて同じ2022年の6月には、2993ccの直6DOHC 24バルブのコモンレールディーゼル+ツインターボエンジンに48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせ、355psの最高出力と730Nmの最大トルクを獲得したディーゼル版「D4Sグランクーペ」も、世界各国のマーケットで受注開始となった。
こちらも8速スウィッチトロニックATが組み合わされ、0-100km/h発進加速は4.8秒、巡航最高速度は270km/hをマークするとうたわれている。
そして、B4/D4Sに共通する目覚ましい走行性能に対応するため、駆動方式は4WDの「アルラッド」のみとされた。アルラッドのシステムはBMWの「xDrive」システムをベースに開発したものながら、前後の駆動配分はアルピナ独自のリア寄りセッティングが施されたという。
さらにリアアクスルにも、アルピナ独自のチューンによるLSDを装着することでトラクションを最適化。「アルピナマジック」とも称される卓越したサスペンションチューンと合わせて、優れた俊敏性とスタビリティ、快適性を両立したとアピールされている。
今回、軽井沢周辺で行われた試乗会にてステアリングを握るチャンスを与えられたのは、D4Sグランクーペ。今やBMWアルピナの独壇場となった感もあるチューンドディーゼルの最新モデルが、アルピナ開発陣のうたい文句のようなできばえを示しているのかを確かめてみることにしよう。
生涯記憶に刻んでおきたい、秀逸なアルピナマジック
生まれついてのそこつ者である筆者は、この試乗を前に車両の周囲をじっくり検分することもなくコックピットに収まり、STARTボタンによるエンジン始動は着座してから。そして、まずはコクピットドリルも兼ねて敷地内をゆっくり走らせてみたのだが、じつはこの段階ではガソリン版のB4Sに乗っているとばかり思いこんでいた。
しかし、撮影の都合でエンジンをアイドリング状態にしたままいったん降車し、車外から「カラカラカラ」というかすかなサウンドを聞きつけて、ようやくトランクリッドに取り付けられた、小さな「D4S」の車名バッヂを確認するに至ったのだ。
自分自身の感覚レベルの低さを白状してでも言いたかったのは、新型D4Sグランクーペの直列6気筒ディーゼルエンジンが、じつに洗練されていることである。
可変タービン・ジオメトリーを採用する2基のターボチャージャーは、アルピナの手練れによって調律を施され、1750rpmから2750rpmの高範囲にわたって730Nmもの最大トルクをみなぎらせる。
先代D4から継承された、ディーゼルの得意分野である豊かなトルクを誇るうえに、48Vマイルドハイブリッドのモーターアシストが加わったことによって、とくに低速域ではスロットルを軽く踏み込んだだけで、とてもレスポンシブ。中速域以降も力強く、スロットルを踏めば踏んだだけ、じつに軽快にスピードを乗せてゆく。
そしてワインディングでドライバーを魅了するのは「ディーゼルなのに」なんて前置きを一切必要としない、素晴らしい直6サウンドである。
内燃機関の喜びを全身体感できるパワーユニット
あくまで私見ながら、6気筒ディーゼル+ツインターボのサウンドや加速感は、1990年代アルピナの名作「B10ビターボ」を連想させる。ディーゼル/ガソリンを問わず、今これほど内燃機関の喜びを全身体感できるパワーユニットは、ほかにはないかもしれないとさえ思ってしまうのだ。
この極上の内燃機関を支えるのが、「素晴らしい」というほかないシャシーの絶妙なセットアップだろう。高速コーナーの続く軽井沢インター周辺のワインディングロードでは、良識から逸脱しない程度のスピード域であっても、ボディサイズを感じさせない軽快さを存分に満喫できる。
D4Sグランクーペの車両重量は、1970kg。姉にあたる「B8グランクーペ」の2140kgから比較すれば軽いとはいえ、もはや2トン級にも及ぶ堂々たる体躯。しかしながら、その身のこなしは軽快そのものである。また操舵フィールは非常にナチュラルなので、ハンドリングがとても扱いやすいのも大きな美点かと思われる。
軽快なハンドリングは、どうしても乗り心地の硬さに直結してしまうのが物理的な常識なのだろう。しかも、幹線道路から少し外れた軽井沢の生活道路は、路面状況がお世辞にも良いとは言えない。アスファルトの割れや一部剥がれたところも散見できる。
ところが、そんな荒れた道であっても、D4Sグランクーペは不快な突き上げなどをまるで感じさせることもなく、感応性の高いステアリングにかすかな振動を伝えてくるのみ。くわえて、アルピナ独自の細かいチューニングによって上手く設えられたアルラッド(All-Rad:4WD)システムもよく働き、730Nmの極太トルクを急速に振り出しても、姿勢を乱すようなことはない。
こうして走らせていると、BMWアルピナを語る際にしばしば登場する「アルピナマジック」という言葉が、否応なしに脳裏をよぎってくる。
本家BMWのキャッチフレーズ「駆け抜ける喜び」を、本質的なレベルからさらにブラッシュアップしたようなハンドリング。そして、極太/超扁平のハイグリップタイヤを履いているとは思えないほどに快適な乗り心地。この二律背反的テーゼを、凄まじいまでの高次元で両立したサスペンションセットによる「妙なる調和」が、1台のクルマとして結集したかに感じられるのだ。
かくしてテストドライブを終えてしまえば、結局はまたアルピナのマジカルな魅力に平伏させられていることに気がつく。しかしその分だけ、2025年末と言われる現行BMWアルピナの終焉が、もはや遠くないことも実感させられてしまう。
だからこそ、BMWアルピナに新車として乗るという僥倖を、記憶に刻んでおきたいのである。
●アルピナD4Sグランクーペ ・車両価格(消費税込):1280万円 ・全長:4792mm ・全幅:1850mm ・全高:1440mm ・ホイールベース:2856mm ・車両重量:1970kg ・エンジン形式:直列6気筒DOHCターボチャージャー ・排気量:2993cc ・エンジン配置:フロント ・駆動方式:全輪駆動 ・変速機:8速 ・最高出力:355ps/4000~4200rpm ・最大トルク:730Nm/1750~2750rpm ・0-100km/h:4.8秒 ・最高速度:270km/h ・ラゲッジ容量:475L ・燃料タンク容量:59L ・タイヤ:(前)255/35ZR20、(後)285/30ZR20 ・ホイール:(前)8.5Jx20、(後)10Jx20
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みんなのコメント
井之頭五郎ふうに言うと「悪くない」