ドイツ生まれの新型ロケットランチャー
ドイツの防衛企業ラインメタル社は、2024年6月にフランスの首都パリで開催された武器見本市「ユーロサトリ2024」において、新しい軍用トラックベースの多連装ロケットランチャー「GMARS」を発表しました。
【画像】これがHIMARSの射撃シーンです。めったに見られない弾体も
GMARSは「Global Mobile Artillery Rocket System(グローバル機動ロケット砲システム)」の略です。8輪4軸の大型軍用トラック「HX」の荷台に、起倒式のランチャーを組み合わせた車両で、そのランチャーには6連装一組のロケット弾コンテナが2つ搭載できます。
ランチャーにセットできるのは、射程70kmの誘導ロケット「GMLRS」6発か、射程300kmの地対地ミサイル「ATACMS」1発が収納されたコンテナで、それぞれがGPSや慣性航法装置を併用した誘導能力を持っているため、長射程・精密誘導でのピンポイント攻撃が可能です。
また、将来的には地上発射巡航ミサイルや、小口径122mmロケット弾を搭載するコンテナに対応することも予定されているそうなので、運用する弾頭の進歩によって、その攻撃力も向上することが期待できます。
車体サイズは全長9.8m、全幅2.5m、全高3.9mと、日本の10t大型トラックと同程度ですが、弾薬などを積載した戦闘時の最大重量は40tにもなります。ただ、重量物運搬を前提とした軍用トラックがベースなので、最大速度100km/hで路上走行することができ、最大走行距離も約700kmあります。その機動性の高さから単独での迅速な展開と、射撃後の速やかな陣地転換が可能です。
GMARSの一番の特徴は、開発をドイツのラインメタル社単独では行わず、アメリカのロッキード・マーチン社と共同で行った点でしょう。このコラボレーションは国際間の共同開発というだけでなく、ヨーロッパの安全保障の枠組みを見据えた新しい流れともいえるかもしれません。
タイヤ駆動ロケット砲の復権はウクライナ戦か
GMLRSのようなトラックベースのロケットランチャーは、軍事の世界では古くから存在します。ただ、搭載するロケット弾の長射程・精密誘導化によって、旧来のロケットランチャーよりも遠くの目標を正確に攻撃できるようになりつつあります。これにより、前線部隊への火力支援だけでなく、後方の敵司令部や部隊集結地点を少数で、かつピンポイント攻撃できる新たな兵器へと進化しました。
その具体例を示したのが、現在もロシアの侵略によって戦闘が続くウクライナ紛争です。ウクライナ軍はアメリカから供与されたHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System:高機動ロケット砲システム)を運用しています。同軍の配備数は約30両と、少数ながらも多くの戦果を上げています。
HIMARSの特徴は攻撃能力だけでなく、高い機動性による生存性の高さも挙げられます。トラックベースの車両のため、小振りで機動性に富んでいます。これによってウクライナ軍は移動・射撃・離脱の一連の流れを短時間で行い、敵のロシア軍に車両の存在を察知されずに攻撃を成功させています。
こうした特性から、ウクライナで活躍しているHIMARSですが、その一方で他のヨーロッパ諸国では、このようなトラックベースの精密射撃可能な長距離ロケット砲システムをこれまで運用していませんでした。そのため、エストニア、イタリア、ラトビア、リトアニアがHIMARSの導入をウクライナ危機後に決定。そのほかに複数の防衛企業が新しいトラックベースや装輪式のロケット砲システムをこの地域の各国軍隊に提案しています。
なお、このようなトラック型の高性能ロケットランチャーには、前出のGMARSのほかに、ドイツとフランスの合併企業KNDS社による「EuroPULS」や、韓国のハンファ・エアロスペース社が手掛けたK239「 チョンム」などがあります。
共同開発した理由は弾薬にあり
実は、今回のGMARSでラインメタル社が手を組んだロッキード・マーチン社は、HIMARSの製造を担っているため、GMARSのランチャー部分もロッキード・マーチン製のものが使われているそうです。
これは開発期間の短縮と開発リスクの低減を狙ったように思えますが、メーカー担当者によるとその一番のメリットは、HIMARSやその履帯式ロケットランチャーMLRSとの弾薬共有化だそうです。
HIMARSは、もともとはMLRS(Multiple Launch Rocket System:多連装ロケットシステム)の縮小軽量版ともいえる存在で、そこで使用される弾薬は共有化されており、メーカーではMFOM(MLRS Family of Munitions:MLRSファミリー弾薬)と呼ぶほどに規格化されたものとなっています。
MLRSはフィンランド、フランス、ドイツ、イタリアなどNATO(北大西洋条約機構)加盟国を中心に多数の国で運用されており、すでに多くのMFOMが備蓄され、運用のためのインフラも整っています。これらを共用できるというのは、GMARSにとって他の新型ロケット砲システムにない大きなメリットといえるでしょう。
本来なら国産の独自弾薬を開発するというのは、自国の運用に合わせた独自仕様を作ることができるだけでなく、自国の防衛産業を育成するという点においても大きなメリットがあります。
しかしウクライナ紛争の教訓として、戦時には膨大な弾薬を消費することから、継続して戦い続けるには、同盟国どうしで弾薬を融通できた方が、メリットが大きいのです。以上の観点から、弾薬や装備品の共通化は、今後の起きるかもしれない戦争に備えるための、兵站面での必須条件といえるでしょう。
GMARSの弾薬共通化については、ラインメタルの担当者も「欧州諸国のグローバルな相互運用性を確立できる」と説明していました。今回のドイツとアメリカの防衛企業による共同開発は、今後の兵器開発と運用において「相互運用性」という要素がいかに重要になるかを証明する事例となるかもしれません。
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