1980年代後半、空油冷GSX-Rをベースに内外のレースを戦っていたヨシムラはそこで培った技術を礎としてチューニング用の“ボンネビルキット”を開発。それを組み込んだのが写真のGSX-R1100である。
文:迫田秀正 写真:平野輝幸
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ヨシムラ「TORNADO 1200 BONNEVILLE」詳細解説
トルネード1200ボンネビルの思想や情報は、1987年に創刊されたヨシムラのファンクラブ会報「POPS CLUB」(隔月刊、200円。会員でなくとも購入できた。1991年頃まで継続)にも都度紹介された。下の写真は1987年秋発行の第3号。
ボンネビルの名の由来や完成即車検を取って日本自動車研究所・谷田部高速周回路(当時)で雑誌/ビデオ媒体がテストしたこと(1回目が9月16日で283.46km/h、2回目が10月27日で291.497km/h、0→400m9.787秒)が記された。
上の写真のライダーは左が当時開発責任者を務めた浅川邦夫さん(現アサカワスピード代表)、右がWorksの真田哲道さん。
下の写真はボンネビル発表後に発刊された第4号からで、浅川さんが富士スピードウェイで300km/hに近づく296.5km/hを記録した時の写真、発表後の評判を紹介。
もう1台作られたパーツ組み込み車(前後17インチとエンジンフルメニュー)での九州下道1500kmツーリングを紹介。使いやすさも特筆としていた。
アルミフレームは無加工だが、前後足まわりを変更してディメンションを独自のものとしている。
TTF-1やデイトナを走るレーサーを彷彿させ、止まっていてさえ速さを感じさせる。凄みと力強さが存分に伝わってくる黒いGSX-R1100は、かつてヨシムラが販売したトルネード1200ボンネビルキットを組み込んだスペシャルマシンである。
同キットは、エンジン、シャシー、そしてスペシャルという3ブロックのパーツ群で構成され、あるブロックを全体で買うことも個別に購入することも可能とされた。バイカーズステーション誌では、1989年3月号(No.18)においてその詳細を紹介。試乗と撮影を行った車両はヨシムラジャパンが開発を行ったテストマシンであり、細部まで徹底的にチューンナップが施されている。
また、ワークスレーサーが使うのと同じマグネシウムボディのミクニ製フラットバルブキャブレターを装着するとともに、取材に合わせて外装パーツをブラック+赤のピンストライプにペイントしてくれたという、実にスペシャルな一台である。
レース活動やパーツの販売に加え、公道を走れるコンプリート車を販売するという考えをヨシムラは抱いており、ボンネビルキットはその実現に向けた第一歩であった。その発売が知られると多くの注文があったそうだが、レース活動の多忙さから完成車の製作依頼に対応できず、実際にコンプリート車として世に出されたのはごく少数(一説には3台)、しかも非常に高価だったという。
つけ加えると、取材車の仕様で売るなら価格はという問いに対し、"工賃など計算しにくい部分もあるが500万円前後"という返答があったと当時の記事にある。時間をそこに戻せるなら、ぜひ買いたいと思う読者もきっといるだろう。
ヨシムラ「TORNADO 1200 BONNEVILLE」各部解説
ベースモデルは1987年型GSX-R1100で、空油冷DOHC4バルブ並列4気筒は、58mmのストロークはそのままに、STDのΦ76mmより2mm大径なΦ78mmピストンにより、1052.5→1108.6ccに排気量を増大。
ST-2カムシャフトやバルブスプリングセットなどフルキットを装着しており、後述する吸排気系と相まって、最高出力はSTDの130PSから40PS増となる170PSに引き上げられる。
"ヨシムラGSX-R"のロゴを持つタイミングカバー、中央の盛り上がった部分に"ヨシムラ"の文字を刻んだスタータークラッチカバーは、レーサーから外して取り付けたものだ。
キャブレターは、ミクニと共同開発したΦ40mmで、ヨシムラワークスが使うのと同じマグネシウムボディだ。このキャブが特別なのは本体の材質だけでなく、スライドバルブの1個ずつに手作業で8個のベアリングを装着(4基で計32個のベアリングを使っている)、あらゆる状況で確実な作動を実現、優れたレスポンスを得ていることだ。
これはスペシャルパーツとして限定販売され、価格は120万円前後とのことだった。エアクリーナーは持たず、非常に短いエアファンネルを装着。
排気系は受注生産とされたフルチタンのヨシムラ・サイクロンで、上のエンジンの写真でわかるように4本のエキパイにはサブチャンバーのデュプレックス(Duplex:2重の、2倍の、という意味を持つ形容詞)を備える。
カウリングに隠れるエキパイや集合部、コネクティングパイプなどは地色のままとされるが、サイレンサーやエンドパイプは全体の色調に合わせて黒とされる。
なお、ヨシムラ製マフラーが材質をオールステンレスとしたのは1990年、チタンやカーボンなどを量産の市販品に使うようになったのは1992年からで、ボンネビルが登場した1980年代後半、チタンはレーサーなどごく限られたマシンにしか使われなかった。
右上に見えるのは後述するヨシムラ・ショーワのリヤショックユニットにホースで接続されるリザーバータンクで、ダイヤルによって圧側減衰力が変化。今日では一般的なシステムだが、当時は実に高級な装備だった。
オイルパンから出た太いメッシュホースがフレームの左右ダウンチューブを追従するように立ち上がり、赤×青のフィッティングで180度向きを変えてオイルクーラーに至る風景はヨシムラレーサーを思わせる。ボンネビル・シャシーキットにステアリングダンパーの設定はないが、撮影車はRG500用を取り付けている。
ベース車のクラッチは油圧作動だが、ボンネビルではワイヤ式に変更。微妙な操作感で優れるからで、クラッチカバーの内側にアルミのスペーサーを装着、ワイヤ作動用のラック&ピニオンを収めるスペースを得ている。
STDエンジンはドライブスプロケットカバーにクラッチ用マスターシリンダーから伸びるオイルホースを連結、同所にクラッチを作動させるロッドを押すピストンを置くが、ワイヤ式にするとこれらが不要になる。そのためボンネビルはエンジンオイルのリザーバータンクを逆側に配している。
文字盤の白い速度/回転計はSTD、それを支持するスポンジのパネルはキットパーツ。ヨシムラ・ショーワのΦ41mm正立フロントフォークは、トップキャップに筒内を大気圧に揃えるエアバルブとプリロード調整部を備える。ステムのトップブリッジも専用で、フォークオフセットを32→35mmに大きくしている。クリップオンハンドルはヨシムラオリジナル。
アルミ製の燃料タンクは、底部にエアボックスを回避する逃げを持ち、容量は19L。逃げを持たない24L容量も選べた。
左右ステップはアルミ削り出しで、シフトパターンは1up/4downの逆チェンジだ。固定ボルトの頭をブラケットとツライチにしているのがヨシムラらしい。
フロントブレーキは、ヨシムラのロゴを持つアルミ製ディスクハブとΦ310mm鋳鉄ディスクに、ニッシンの対向式異径4ピストンキャリパーを組み合わせる。リヤブレーキはSTDを維持するが、制動力や反応が甘くなるよう調整している。
リヤショックはアルミから削り出したというショーワのレース用で、プリロードと伸縮両減衰力可変式。スペシャルパーツで価格は50万円弱だった。
『ヨシムラコンプリート』誕生までの系譜
1985年から1986年にかけてヨシムラはTTF-1、F-3参戦で培った能力を市販モデルへフィードバックするべくトライを重ねている。当時の保安基準などによりキットパーツ販売とはなったが後の「1200ボンネビル」への挑戦はこの時期からスタートしていたのだ。
上の写真手前は、辻本選手が駆って1985年全日本ロードレースTTF-1の王座に輝いたレーサー。奥は、当時のカタログにある言葉を借りれば、「ヨシムラはサーキットで得たノウハウを、喜んでストリートライダーと分かちあいます」という考えから開発され1985年型GSX-R750を基とするトルネードF-1のプロトタイプ車両。
トルネードF-1のプロト。風洞実験により形状を決めたカウルや歪みを抑えたスクリーン、重量をSTDの半分としたアルミタンクや、その後部に装着されて流れるようなラインを作るシートカウルといった外装のほか、アルミ製バックステップ、外径をΦ300→310mmに拡大したフロント用フローティングディスク、丸穴を開けたスパウトホイールなどからなる「シャシー・パーツ」の装着が公道仕様の基本となる。
ヨシムラ製パーツを使って一基一基を手作業で組み上げた130PS「ステージ2コンプリートエンジン」や、オリジナルのステアリングシステム+クリップオンハンドル、フォークスプリング、ヨシムラ・カヤバ製リヤショックなどで構成される車体用セットアップキットも用意された。
上下の2台は1985年型のGSX-R(400cc)にレースキットパーツを組んだものだが、チューンナップの度合いは両車で異なり、上は国際A/B級ライダーに向けて開発された「ステージIII」、下はノービスを対象とした「ステージII」だ。
上の2車に通じるデザインの外装や前後輪に加え、左右ステップ、リヤブレーキ、排気系などを交換することで、レーサーの外観を公道に持ち込むモデルも企画。ただ前照灯が片側一眼で当時は車検が取れず、実現できなかった。
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みんなのコメント
あのフロントフォークはちょっと前までは入手可能だったんですよね
Φ41のSHOWA正立フロントフォークとしてパーツメーカーから販売
ポン付けではなくプロ中のプロが走りの為にセッティングするとヨシムラボンネビルのような超高性能マシーンを正しく支える前足になるんでしょうねぇ~