現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > 開発エンジニアに訊く「アルピーヌ A110」秘話【A110 国内テスト 動画レポート付き】

ここから本文です

開発エンジニアに訊く「アルピーヌ A110」秘話【A110 国内テスト 動画レポート付き】

掲載 更新 1

ALPINE Cars

Chief Vehicle Engineer

開発エンジニアに訊く「アルピーヌ A110」秘話【A110 国内テスト 動画レポート付き】

Jean-Pascal DAUCE

アルピーヌ カーズ

チーフ ヴィークル エンジニア

ジャン-パスカル・ドース

アルピーヌ A110の鍵を握る男

デビューからある程度の時間は経過しているものの、相変わらず世界中で評価が高い「アルピーヌ A110」。先ほど本サイトでは、島下泰久氏による強化仕様の「A110S」を掲載したばかりだが、そのほかにもワンメイクレース用の「A110 カップ」や国際ラリー競技向けの「A110 ラリー」を加えるなど、派生モデルも着々と準備し、そのブランド性も含めてアピールし続けている。

こうして高く評価されているのも基本設計はもちろん、基本理念が明確なことこそ理由だろう。オリジナルのA110のコンセプトを現代流に解釈し、それを最新技術で完成させるという考えがなければ、ここまで評価されないと個人的には思っている。筆者も心底このA110に惚れているひとりだ。軽くて機敏、そしてちょうどいいパフォーマンスを存分に振り回して遊べるのは、もはやこれ1台しかないとすら思えてしまうほど、久々の人馬一体感に感動を覚えたほどである。

そこで、アルピーヌ A110の開発時にチーフ ビークル エンジニアを務める、ジャン-パスカル・ドース氏に会った際、その狙いを聞こうと思い、素朴な疑問も含めてインタビューを試みた。

ベンチマークはオリジナルのA110

Q:新型A110を造るにあたって、まず重要視したことは何でしょうか?

A:コンパクトで軽量。そこから生まれるドライビングプレジャー。旧型に見られたものをそのまま新しく解釈して行き着いつきました。コンセプトですね。速さとかハイパワーは別です。オリジナルのA110もそうでしたから。サーキットで一番速いクルマを造りたいとは思っていませんでした。今の環境にあった(時代に見合った)A110を造りたかった。だから乗り心地の良さも重要視しました。

Q:ベンチマークにしたライバル車はありますか? 例えばポルシェとか?

A:通常は、セグメントから決めていくのが普通ですが、アルピーヌは違います。オリジナルのA110があって、それを半年間くらい乗って、何が良い、何がだめ、今の環境に合わせるために何をすればいいのかという作業を進めました。ベンチマークとして確かにポルシェは意識しました。だからといってコピーしたわけではありません。そういうクルマを知った上で、どういうスポーツカーを造るのかを決めました。これは余談ですが、その中で実はドライビングプレジャーが得られるクルマとして、トヨタ86の評価は高かったですね。

Q:新型のA110は、乗り心地が良く、ハンドリングはクイックでテールスライドしやすい印象を受けました。オリジナルもそういうクルマだったんですか?

A:当時のクルマは、ブレーキもハンドルもアシストがありません。当然ですが、とにかくシンプルです。軽量&コンパクトであることに利点があります。このクルマだったら、なんでも出来ると。当時、ポルシェやフェラーリなど、パワフルなクルマを相手にして、小さい排気量で好きなように走り、操りやすくしたことで、そうしたライバルを相手にレースで5台抜きした例があります。理由は軽量かつシンプル。A110の凄さはそこです。だから伝説になったんです。

何故、ミッドシップなのか?

Q:はじめてミッドシップを造って苦労したことはありますか? シミュレーターのような最新機器を使いましたか?

A:特にエンジンがミッドシップになったからといって、さほど難しくはありませんでした。FFの逆転です。フロントからリヤに持っていっただけです。しかし、困難だったのは、重量を抑えることでした。クラッシュテストもクリアしなければならなかったですし、オールアルミニウムのシャシーとボディの生産性も難しかったですね。もちろん、シミュレーターは使いました。しかも、かなり利用しました。強度計算や組み立て、生産ラインを組むことまでほぼすべてシミュレーションしました。ただし、実車ができてからは、完全に人間が進めました。フィーリング、つまり感覚です。これがA110にとって重要でした。

Q:テストに費やした時間はどれくらいですか?

A:多いとしか言えないですね。ものすごく時間と距離を稼ぎました。しかも、さまざまなルートを。ルノーの開発を進める時に使うワインディングや、低ミュー路の試験、高速ではナルドのテストコースのほか、主要サーキット、オープンロードなど、ほぼすべて走りました。それもフィーリングを重要視して。

Q:ところで、マニュアル トランスミッションの設定は考えなかったのですか?

A:当初から決めていたんです、DCT(デュアル クラッチ式)でいくと。最新のマーケットを見たときに、アメリカでも98%、アジアは95~98%が2ペダル、即ちATです。ヨーロッパだけMTが多い。しかも、DCTになってから凄い勢いで普及していっています。予算的にもひとつしか造れないと思い、DCT=ATになるので、素晴らしいDCTを造ろうと決めました。シフトアップ&ダウンが最高のものにしようと、ギア比の設定も入念に決めました。ほかのブランド、ポルシェなども、すでにDCTに移行していますし。我々は小さいメーカーですから。本音でいえば、9割は成功だと思っています。あとの1割はMTが用意できなくて残念かな・・と、個人的にはですけど。しかし、マーケットは無視できませんからね。

9年掛けてレストアしたA110

Q:ドースさんは、オリジナルのA110を持っているとお聞きしています。そのうえで新型を造ることで葛藤などありましたか?

A:自分でオリジナルのA110を買って、9年間かけてレストアしましたから、A110にはものすごく想い入れがあります。とはいえ、新型を造るにあたり、モダンで前向きに考えなければいけない、と。とにかく求めたのはドライビングプレジャー、軽量化によって得られるものです。しかし、多くのA110ファンから、本来ならオリジナルと同じようにボディは樹脂だろうと、アルミじゃないと指摘されました。でも、そうじゃないと私は思った。アルミは軽量化につながるだけでなく、質感も上がる。長い後ろのフェンダーもきれいに造れるメリットがありましたから。アルミを選んだからできたことは沢山あります。それにミッドシップにしたことでコンパクトに仕上げられました。本音で言えば、ダブルウイッシュボーンのアームの長さがもう少し欲しかったですけどね。しかし、そうすると色々なところで変わってしまうし、何しろ重量も変わってくる。そうした葛藤はありつつも、旧型A110をリスペクトしながら、新しいA110に仕上がったと思います。

Q:オリジナルA110に対する印象をもう少し聞かせてください。

A:オープンロードでよく乗りますが、オリジナルは本当にリスペクトできるクルマです。今のA110よりも旧型のほうがハンドリングは良いんじゃないかと思うくらいです。しかも旧型は乗り心地も良いんです。満点に近い! やっぱりシンプルさが効いています。エンジンも下からトルクがあって扱いやすい。さすがにエンジンをかけた瞬間はガソリンくさいですけど・・・。うちには新旧2台のA110が揃っていますが、日曜日に奥さんと2台で出かけるときは、当然、彼女は新型を選びます。両方乗れますけどね。今のクルマは使い勝手もいいですから、当然ですけれど。

最初はワンボディ、ワンカラーだけでいく予定だった

Q:ところで、A110にはピュアとリネージがありますが、開発時、どういう割合になると思いましたか?

A:最初、プロジェクトのとき、ワングレード、ワンエンジン、ワンミッション、ワンカラーだけでした。それを、ずっと言っていました。オプションも用意しはじめたらキリがないから必要ないとも。我々も収拾がつかなくなる。でも、私が一度離れて去年も戻ってきたらカラーは3色用意されていました。マーケティング部がブルーだけでは、と思ったようですね。グレードを2つ用意したのは、エンスージアストのためにピュアを、普段使いなどもするオーナー用にリネージを設定しました。割合に関しては、当初だいたい5対5だと思っていましたが、本国では6対4でリネージ、日本は逆です。それはアルピーヌに対する世界観、イメージで受け入れられているようです。どちらもアルピーヌには違いありません。アルピーヌ=良い車だと。大した差ではありません。今後もバリエーションが出ても同様でしょう。

F1ドライバーをも気に入らせたエピソード

Q:開発時など面白いエピソードはありましたか?

A:開発も最終段階に入った頃、テスト走行を兼ねてF1GPのピットに寄ったことがありました。そうしたら、みんな出てきて。その時にカルロス・サインツがF1のスーツを脱いでこちらに向かってきました。そして「俺のアルピーヌは何処だ!」と言い出して一緒にドライブに出ることになって、15~20分くらい走りました。その時、ほとんど悪路ばかりだったんですが、サインツは一切、真っ直ぐに走ることはありませんでしたね。すべてドリフトしながら曲がって行くんです。しかも斜めに走りながら「最高! 最高!」と叫びながら。「このブレーキペダルの感触がちょうどいい! ステアリングは最高だし、クルマを操るのが楽! とか、そういうことを言いながら自在に操っていましたね。

それと、エリック・コマスにも乗ってらいました。一緒にドライブすると、彼は即答で「買いますと!」。私は、分かりましたと返答しましたが、その後、納車まで15ヵ月かかることを伝えると、前倒しにできないかと熱心に交渉してきました。なぜ、コマスがこれほど急いでいたのかというと、自身の結婚式に間に合わせたかったからです。それくらい欲しいと。結局、納車は間に合わないので、代わりのアルピーヌを貸して、結婚式の記念写真を撮影しました。

F1ドライバーでも、このアルピーヌなら個人のお金で買いたいと思うようで、それくらい皆に褒められます。

A110Sが出ても公道派ならこちらがオススメ

アルピーヌA110とは、プロをも惹き込む魅力がある証しだろう。パワーはそれほどでなくても、コントロール性を活かした走りを楽しめる、今では他に類を見ない1台に仕上がっていると私は痛感している。何故なら、アルピーヌに乗っていると、例え相手がフェラーリやポルシェであろうと、峠くらいなら負ける気がしないと思わせるからである。こういった名車は、そう滅多に出会わない。強化モデルのA110 Sも相当良さそうだが、従来型のA110の乗り心地の良さを知ってしまうと・・・。実に悩ましいが、いずれにしても素晴らしいスポーツカーであることは間違いない。

TEXT/野口 優(Masaru NOGUCHI)

PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

https://www.youtube.com/watch?v=CFmV0XI29Rs

【SPECIFICATIONS】

アルピーヌ A110 ピュア

ボディサイズ:全長4205×全幅1800×全高1250mm

ホイールベース:2420mm

トレッド:前1555 後1550mm

車両重量:1110kg

前後重量配分:44:56

エンジン:直列4気筒DOHC16バルブ+ターボ

ボア×ストローク:79.7×90.1mm

総排気量:1798cc

最高出力:185kW(252ps)/6000rpm

最大トルク:320Nm/2000rpm

トランスミッション:7速DCT

駆動方式:RWD

サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン

ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク

タイヤサイズ:前205/40R18 後235/40R18

最高速度:250km/h

0 -100km/h加速:4.5秒

0 – 400m加速:12.7秒

【問い合わせ】

アルピーヌ コール

TEL 0800-1238-110

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

優れた燃費が自慢[アコード]!! [レクサスES]と比較した明確な違い
優れた燃費が自慢[アコード]!! [レクサスES]と比較した明確な違い
ベストカーWeb
レッドブル&HRC密着:フロントタイヤへの熱入れを苦手にするRB20。弱点が露呈し初日は2台とも下位に沈む
レッドブル&HRC密着:フロントタイヤへの熱入れを苦手にするRB20。弱点が露呈し初日は2台とも下位に沈む
AUTOSPORT web
タイトルに王手のフェルスタッペンが苦戦、ミディアムで17番手「タイヤが機能せず氷の上を走っているよう」/F1第22戦
タイトルに王手のフェルスタッペンが苦戦、ミディアムで17番手「タイヤが機能せず氷の上を走っているよう」/F1第22戦
AUTOSPORT web
見かけ倒しでもいいじゃん! ルックスと性能が釣り合わないスポーツモデル5選
見かけ倒しでもいいじゃん! ルックスと性能が釣り合わないスポーツモデル5選
ベストカーWeb
2025年WEC暫定エントリーリストが発表。ハイパーカーは2社が撤退もLMGT3と同数の18台が参戦
2025年WEC暫定エントリーリストが発表。ハイパーカーは2社が撤退もLMGT3と同数の18台が参戦
AUTOSPORT web
【角田裕毅F1第22戦展望】昨年の反省をもとにセットアップを2種類用意。FP2で「だいたいの方向性は見つかった」
【角田裕毅F1第22戦展望】昨年の反省をもとにセットアップを2種類用意。FP2で「だいたいの方向性は見つかった」
AUTOSPORT web
不要or必要? やっちゃったらおじさん認定!? 「古い」「ダサい」といわれがちな [時代遅れ]な運転法
不要or必要? やっちゃったらおじさん認定!? 「古い」「ダサい」といわれがちな [時代遅れ]な運転法
ベストカーWeb
勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
AUTOSPORT web
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
ベストカーWeb
荒野にポツンと1軒のカフェ!?…25ドルでキャンプサイトを確保。オーストラリアはトレイルも何もかもナメてかかってはいけません!【豪州釣りキャンの旅_10】
荒野にポツンと1軒のカフェ!?…25ドルでキャンプサイトを確保。オーストラリアはトレイルも何もかもナメてかかってはいけません!【豪州釣りキャンの旅_10】
Auto Messe Web
ローソン初日15番手「路面コンディションに苦労。今日の学習を役立て、トップ10に食い込みたい」/F1第22戦
ローソン初日15番手「路面コンディションに苦労。今日の学習を役立て、トップ10に食い込みたい」/F1第22戦
AUTOSPORT web
ボッタス、PUエレメント交換で5グリッド降格が決定。RB勢はエキゾーストを交換/F1第22戦
ボッタス、PUエレメント交換で5グリッド降格が決定。RB勢はエキゾーストを交換/F1第22戦
AUTOSPORT web
タナクが王座目指して猛加速。僚機2台はクラッシュ&失速、トヨタに選手権逆転の光明【ラリージャパン デイ2】
タナクが王座目指して猛加速。僚機2台はクラッシュ&失速、トヨタに選手権逆転の光明【ラリージャパン デイ2】
AUTOSPORT web
燃費と運転体験の両立 フォルクスワーゲン・ゴルフ GTEへ試乗 電気で最長130km走れるHV!
燃費と運転体験の両立 フォルクスワーゲン・ゴルフ GTEへ試乗 電気で最長130km走れるHV!
AUTOCAR JAPAN
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
Auto Messe Web
角田裕毅 初日10番手「一日のなかで状況を好転させ、方向性を見出した。Q3進出のため調整を続ける」/F1第22戦
角田裕毅 初日10番手「一日のなかで状況を好転させ、方向性を見出した。Q3進出のため調整を続ける」/F1第22戦
AUTOSPORT web
イモトアヤコ、600万円超の「“オシャ”ハイエース 」購入! 「車中泊楽しそう」「テンション上がる」反響多数のゴードンミラー「GMLVAN V-01」とは
イモトアヤコ、600万円超の「“オシャ”ハイエース 」購入! 「車中泊楽しそう」「テンション上がる」反響多数のゴードンミラー「GMLVAN V-01」とは
くるまのニュース
日産、英国のゼロ・エミッション義務化に「早急」な対応求める 政府目標は「時代遅れ」と批判
日産、英国のゼロ・エミッション義務化に「早急」な対応求める 政府目標は「時代遅れ」と批判
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

1件
  •  車好きな人がしっかりとした信念を持って作っているのは嬉しい事だなあ、売れてればいいけど、さすがにまだ見た事ないわ
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村