35年続いたホンダ VT系エンジンの原点
リアルタイムを知る人にとっては、ホンダ VT250Fが「打倒2スト」(その実態はヤマハ RZ250)を目指したスーパースポーツモデルだったのは改めて言うまでもないだろう。
一方、VT250Fのエンジンは、ツーリングモデルのゼルビス、アメリカンのVツインマグナ、ネイキッドのVTRと様々なモデルに活用され、近年では「扱いやすく、壊れない」というイメージで語られることが多い。
【画像15点】コムスターホイールにインボードディスク「当時の最先端が満載だったVT250F」
しかし、VT250F用に新開発された水冷90度V型2気筒は、V型4気筒の世界GPマシン・NR500のコンセプトを継承した、超高回転高出力型のとんでもないエンジンだったのだ(ちなみに市販量産車として250cc水冷90度V型エンジンはこれが世界初)。
いかにそのエンジンが当時のライダーに衝撃を与えたのか? 以下『別冊モーターサイクリスト1982年7月号』のレポートを紹介しよう。
誰もが使える高回転エンジン「1万4000近くまで回るも、振動は無い」
試乗したライダーの声からもわかるように、とにかくよく回り、パワーの出ているエンジンである。確かに、DOHC4バルブという高回転高出力化のためのひとつの常識はもちろんのこと、水冷システム、1次振動を解消する90度V型のシリンダーレイアウトなど、高性能化のためのコンポーネンツをすべて網羅したエンジンといってもいい。
そして、その内部のレイアウトは、カットイラストでもわかるようにVF750のそれに酷似している。4気筒と2気筒、シャフトとチェーンの違いこそあれ、基本的にはまったく同じ内容をもつ高性能エンジンだ。
VF750の際も述べたように、水冷90度V型エンジンは、高出力化はもちろん、低振動化、コンパクト化を目指した新しいスーパースポーツ用エンジンであり、これは排気量がかわっても、同じコンセプトをつらぬける新時代の高性能エンジンのひとつのカタチということになる。
それでは内部をのぞいてみよう。前後シリンダーの挟み角は90度、各気筒吸排気2本ずつのカムシャフトを駆動するDOHC、そして吸排気2本ずつの4バルブ、またロッカーアームを介したバルブ作動、オートカムチェーンテンショナーと、VFのそれを踏襲している。バルブクリアランスの調整をヘッド横のアジャストスクリューで行なっているのもVFと同じで、しいてあげるならカムチェーンがVFのサイレントチェーンから、コンベンショナルなローラーチェーンになっているぐらいだろうか。
そのボアストロークは60×44mmのショートストロークで、スズキ GSX250、ホンダ CB250Dなどの62×41.2mmにつぐオーバースクエア。最高出力発生回転数の1万1000rpmでは16.1m/秒のピストンスピードとなり、ほぼ20m/秒が限界とされる4サイクルエンジンの例にあてはめれば、まだまだ余力を残している。
レッドゾーンは1万2500rpmで、この時はまだ18.3m/秒、試乗レポートにある1万4000rpmでさえ20.5m/秒というピストンスピードであり、このあたりでやっと限界を迎えようかという高回転型である。ちなみに、往年のGPレーサー、500ccクラスのRC181(並列4気筒)が57×48mmで85ps/1万2000rpm以上というデータで、この時のピストンスピードが19.2m/秒、リッターあたり170psとなる。
走りやすさを十分に満足させた現代のVT250Fがリッターあたり140psを実現しているのは、その後にNRが登場して500ccクラスながら、2万rpmを超える回転数を可能としているところからも納得できようというものだが、それにしても技術の進歩とは素晴らしいものである。
そして、VTのこの高回転を現実のものとしている大きな要素として、90度V型配置があげられる。ピストンスピードの限界だけならCB250Dなどのほうが余裕あるわけだが、もうひとつ振動という問題がある。1万何千も回すのはいいが、ライダーやフレームに耐えがたい振動が出たのでは元も子もない。
ここでバランサーの必要性が生じてくることになるところが、90度V型の場合、1次振動を大きく減少させることができるので、同じ回転数でもまったくストレスのないエンジンとすることが可能となる。これによって、並列2気筒ではエンジン自体が自粛しているオーバー1万rpmといったような高回転域を、まったく実用域として使えるのがVTの大きな強みといえるだろう。
それでいてバランサーはいらず、クランク幅をコンパクトにおさめられるV型配置となれば、水冷化による重量増をもカバーできるわけで、NRのもたらした高回転高出力V型エンジンのノウハウは、かなりの部分で我々に恩恵をもたらしているということになるだろう。
エンジン内部の注目される新機構もある。VFで採用された油圧式クラッチはこのVTにも取り入れられ、メインテナンスがほとんどすべて不要となっている。また、遊星ギア式チェンジ機構というのも新しい。これは、通常シフトドラムとシフトスピンドルが別々に配置されてスペースをとってしまうのを嫌ったもので、シフトドラムと同軸のシャフトがそのままチェンジリンクに連結され、クランクケースの小型化が可能となる。シリンダ一のV型配置で左右幅を縮めたVTの、さらなるコンパクト化へのチャレンジであるといえるだろう。
「16インチホイールの採用」VT250Fは車体も革新的だった
その他、車体まわりへの新機構もある。リヤのプロリンクサス、フロントのベンチレーテッドディスクなど、一連のニューモデルに採用されたメカニズムも贅沢に盛り込まれているし、VFで行なわれたコンピューターによるフレーム基本構造の設計なども同じく行なわれている。
そして、車体まわりの最大の注目点は、フロントの16インチホイールといえる。チェンジダイレクション、いわゆる左右の切りかえしに、軽快感をもたらすこの16インチホイールは、もちろんNRなどから採用されはじめたもの。フロントホイールの回転マスを小さくし、ジャイロモーメント(コマが立っていようとする、軸方向に安定しようとする力と考えてもらえばよい)を抑えることができるため、通常の18インチに比べてクイックなハンドリングがもたらされる。
また前輪の接地感の増加や、制動力のアップなども考えられるもので、スズキのターボや500cc GPレーサーなどにも好んで採用されはじめており、今後ロードスポーツ車への装着が次第に進められていくものと思われるメカニズムだ。またアルミプレートのブーメランタイプコムスターなど、CBX系とVF系そしてVT独自のメカニズムがうまく組み合わされた格好となっており、このあたりがホンダの考える近未来構成ということになるのだろう。
これで車体の乾燥重量は149kgとなり、4サイクル250cc2気筒ロードスポーツクラスの中では最軽量。35psのハイパワーと相まって、パワーウエイトレシオも4.26kg/psとこのクラス最高の値。ライバルRZ250の3.97kg/psには及ばないものの、5~6kg/psが大半のこのクラスの中ではかなりのデータといえるだろう。リッターあたりの馬力にしても100~110psがいいところであった250ccでの140psは群を抜いている。
以上のように、水冷90度V型、DOHC4バルブで類のない高回転高出力高性能エンジンを実現し、それでいて従来のエンジンに比べて小型、スリム、コンパクトを達成するというVT250F。そして車体まわりの新機軸の組み合わせ。4サイクルでRZを打ち負かすパフォーマンスと商品性を実現させることが、最大の目標であったともいわれるVTの戦略は、このスペックデータを見るかぎり、かなりの部分で達成されているのではないだろうか。
そして、今年(註:1982年)中にも……と噂されるVF750のスーパースポーツバージョンの弟分としてもこのVT250Fが集める注目は大きいはずだ。これでVF750セイバー/マグナ、VT250FそしてGL系と、充実を進めている、ホンダのV型エンジンの今後はますます面白くなりそうだ……。そんな予想をさせるVT250Fでもある。
レポート●古井頼太 写真●ホンダ/八重洲出版 編集●上野茂岐
当記事は『別冊モーターサイクリスト1982年7月号』を再編集したものとなります。
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みんなのコメント
しかし、2代目で女性向けにモデルチェンジしたのが、ある意味失敗だったと思う。
3代目は更に軟弱なデザインになった。いくら女性が増えたって、この手に乗る女性は軟弱なデザインなんか好まないんだよね・・・。まあ、それでも売れに売れた訳だけど・・・。