試運転2か月で営業許可
去る2025年6月1日、中国中車青島四方機車車両(CRRC)製のインドネシア通勤鉄道(KCI)向け新型車両CLI-125型がついにデビューした。まずは、初回契約分の3編成が一斉に営業投入され、ジャカルタコタ~ボゴール間、及びカンプンバンダン~チカラン間で運行を開始している。
短い8両編成の旧型車両の置き換えを進め、輸送力増強を図る。これらは2023年にKCIが予定していた中古車両導入が政府方針として不可となったことを受け、その代替えとして、納期1年程度の新車を輸入で賄うことに端を発する。3編成36両が入札方式にて、2023年12月末に約7830億ルピアで契約された。
そして、納期通りに第1編成は1月30日にジャカルタ、タンジュンプリオク港に到着。第2、第3編成も3月9日に到着した。第1編成は早くも2月10日には日中の本線試運転をスタートし、所定の試験項目、4000kmの走り込みをクリアし、4月末には運輸省からの営業許可を取得した。
日本車独占崩す132両導入
初回契約の後、あわせて予定されていた旧型車両の機器更新(レトロフィット)の縮小(152両から24両)を受けて、緊急性を要することから、入札を経ない特命随意で8編成96両が約2兆2000億ルピアで2024年5月に追加契約された。
追加契約分も今年4月以降、毎月2編成ペースで到着しており、このままいけば7月までに全数の調達が完了し、順次運行を開始する。
2019年以降、ジャカルタ首都圏においてKCIは全てのコミューターラインを日本から渡った中古車両のみでオペレーションしており、その数は1000両にも及んでいた。しかし、老朽化が進み、2024年末にKCIは127両を経年廃車として計上している。
CRRC製のCLI-125型はこれとほぼ同数の132両が導入され、そっくりそのまま置き換えるかたちになる。日本型車両の独壇場ともいえたジャカルタ首都圏だが、年内までにそのシェアが下がることになる。
INKA遅延で崩れた需給計画
それにしても1年という短納期、さらには各種試験から運用開始までの早さに日本の鉄道関係者も驚きを隠せない様子だ。鉄道車両の受注から落成まで、通常なら早くても2年はかかるなか、どうしてそんなスケジューリングになったのか。
KCIはこの新車とは別にインドネシアの車両メーカー、INKAに16編成192両(CLI-225型)を2023年3月に発注している。この計画はコロナ禍、そのほかの理由で発注自体が遅れており、2022年末にはラッシュ時の混雑率が2019年並みに戻っていたことから、KCIはその穴埋めとして中古車を導入する計画を立てた。しかし、それが実行出来なかったことで、中古車並みの短納期での新車契約となったのである。
また、KCIは創立以来、自社で調達した車両は全て中古車両であり、いわば「オーダーメイド」での車両発注の経験がない。よって、いわば自動車のように、発注すればすぐに納車されるという気持ちでいるのではないかという見方もある。
総合車両の失注劇とその代償
しかし、ジャカルタ首都圏の都市鉄道は「日本の牙城」である。
開発援助の時代から、民間協力、ビジネスベースの現在まで、中心は日本だった。そして、近年ではJR東日本とKCIは連携協定を結び、さまざまな協力関係のなかにある。よって、輸入による新車調達は当初、JR東日本系列の総合車両製作所が有力と見られていた。
価格、納期、導入後の保証もKCIの希望にマッチしていた。これは、当時同社で製造されていた総武快速・横須賀線用のE235系の減産分をジャカルタ向けに振り分け、ほぼそのままの規格・仕様で輸出、短納期と低コストを実現するという奇策だった。
しかし、大詰めといったところで、当初予定した金額をオーバーした。国内向けと同じ製品を同じ価格で輸出するという部分でサプライヤーの合意が得られなかった模様である。その結果、入札方式となり、CRRCに受注されてしまったという格好である。
欧州規格流用の迅速対応
もっともCRRCといえど、この短納期を達成するために、既存のプラットフォームを最大限に活用し、カスタマイズは最小限に済ましている。
CLI-125型(CRRC側の呼称はSFM138)は中国で「B型」と呼ばれる一般的な地下鉄車両を原設計としており、同時期に製造されていた中国国内向けの車両とほぼ同じ車体である。高速鉄道には日本の規格を採用したCRRCだが、都市鉄道にはシーメンスなどとの長い協業の歴史から、規格やシステムは欧州仕様に近くなっている。韓国が車体長20m、片側4ドアという日本の通勤型規格に拘っているのとは対照的である。
よって、CLI-125型の車体長は19.5mと在来車両よりやや短く、車体幅は3000mmと、インドネシア運輸省規格よりも10mm広くなっている(日本型と比べると200mmも広い)。車両間の貫通路も広く、立ち席スペースとなっている為、車体は短いがトータルでの定員はほぼ変わらない。
納期1年という条件で契約している都合、イニシアチブはメーカー側が握っており、全てをインドネシア向けの規格に合わせることは不可能だ。日本が画策した「E235系輸出」でも運輸省の承認 (床下の車両限界などが異なる為) を特別に取っていた。
今回、営業開始したCLI-125型第1編成の客室ドア窓に2024年8月製造の刻印を見つけた。ちょうど2024年10月下旬ごろから12月上旬にかけてはKCIの乗務員を招聘した現車講習がCRRC工場内で実施されており、この9月末頃には第1編成が落成していたことがわかる。実際の製造工程は1年を切っていたことになる。
ただ、生産設備が自動化され、年間生産両数1000両を越える工場である。何といっても車両構体がホバークラフトの原理で、工場内を流れてくるというのだから、設計さえ済ませてしまえば、造作ないことなのかもしれない。
独日中製の部品混成構成
一方で、前面及び内装デザイン、連結器、冷房容量、バネ上昇式パンタグラフ、ブレーキチョッパの設置等にKCIの要求仕様が反映されていることが見て取れる。
中国のレール幅は標準軌(1435mm)に対し、インドネシアは日本と同じ狭軌(1067mm)である。よって、台車のカスタマイズは必須であるが、ブレーキを新幹線車両のように、車輪はめ込み式の外付けディスクブレーキとし、主電動機の艤装スペースを確保している。
主要電機品はCRRC株洲時代電機製、コンプレッサー及びブレーキはドイツ、クノールブレムゼ、パンタグラフは日本の東洋電機製造の中国合弁会社、成都永貴東洋軌道交通装備製である。
ちなみに、クノールブレムゼはINKA製のCLI-225型にも採用されており、「漁夫の利」を得た格好である。
標準軌試験線の限界
先述のとおり、車両は現地到着後、すぐに立ち上げ整備が行われ、わずか10日後には日中の本線試運転を実施している。新車の、まして第1編成となれば通常、大なり、小なりトラブルが付き物である。
実際に走らせてみると、想定外の事象は必ず発生する。そういった問題をひとつひとつ潰して、ようやく白日のもと本線を走らせられるようになるわけだが、そのようなプロセスがないまま、いきなりの試運転には関係者誰もが驚いた。日本のメーカーなら怖くてこんなこと出来ないはずである。
が、端から見る限りでは、トラブルが出ている様子はなく、そのまま連日の走り込み試験に移行した。そして、3か月後には運輸省許可を取得。まるで、従来の中古車両の運用開始までのスケジューリングである(中古車両の場合、理論上は細かい調整無しに、そのまま走らせることが出来るため)。
CRRCは広大な工場内に周回の試験線を持っていて、出荷前に必要な検査、試験を完了させることが出来、このように納品後、すぐに走らせることが出来るのが売りである。ただ、この試験線は標準軌で敷かれているため、このような手順を踏むことは出来ないはずである。
現車講習に参加した乗務員によると、狭軌の線路長はそんなに長くなく、数百mを行ったきり来たりさせるくらいしかしていないという。となると、AIなどを用いて緻密なシミュレーションでも行っているのかもしれない。
日本常識を覆す現実
「追求卓越誠信四方」――KCIデポック電車区内に設置されたCRRC職員詰所の一角に掲げてある標語だ。ここにはCRRCの職員20名前後が常駐し、CLI-125型の立ち上げ準備に勤しんでいる。
第2編成以降の試運転は同時に終日2編成を走らせ、運輸省認可も取るという体制だ。驚異的な生産能力のみならず、現地での車両立ち上げにもリソースを惜しみなく投じている。まさに「追求卓越」。スピードと高い品質で高速鉄道だけではなく、インドネジアの在来線市場をがっちり囲い込んで行かんとする意気込みを感じる。
未だに日本国内では中国製車両に対し、安かろう悪かろうという通説が罷り通っているが、
「日本の常識は世界の非常識」
である。そもそも、いい加減な対応がもはや通用しないことは、CRRC側が一番良くわかっているはずだ。東南アジアでも、特にタイやインドネシアの都市鉄道事業者のオペレーション能力は飛躍的に高まっており、契約書の精査、そして品質見極めの力が付いている。何かミスがあれば、すぐにクレームになる。しかも、このような事業者はその後の部品サプライなどで優良顧客になるため、手厚く対応する。「誠信四方」である。
ちなみに、この詰所の壁1枚を隔てて、INKA製のCLI-225系立ち上げチームの詰所がある。日系メーカー機器が多数採用されているため、当然、日本人の出入りもある。ただ、出張ペースで各社から数名程度の派遣であり、「追求卓越誠信四方」の前に心もとない。
ODA抜きの政治舞台
4月22日に開催された鉄道電化100周年記念式典にはCRRCがスポンサーのひとつに名を連ねており、現地法人であるCRRC Sifang Indoneaiaの社長も出席した。そして、国営企業副大臣は
「今後、日本からの中古車両は購入しない。今、我々は新車を導入出来る。ひとつは中国から、そして最も期待しているのが、INKA社製のもうひとつの新車だ。100年を経て、ついに国産化を果たした」
とスピーチした。新車を自前で導入出来ること自体はすばらしいことである。しかし、過去、50年近くに渡って数千億円規模の技術協力、そして円借款協力を含む、
「日本との政府開発援助(ODA)の上に今があるという文脈」
が完全に欠落していた。鉄道関係者も出席しているなか、インドネシア、中国の政治パフォーマンスになってしまっている。
KCIアスド社長も、このスピード感で車両を調達出来るのはCRRCの他にないと賞賛している。日本側にも説明責任があるだろう、そしてこの状況でそれが出来るのは、当地日本国大使館のみである。
政府無関心の日イ関係
中古車両導入可否の議論の最中にも、大使館をはじめとした日本の政府機関はインドネシア側が決めることとして、一切関わろうとしてこなかった。今回のINKA製の国産新型車両、CLI-225型の件にしても同様だった。
民間活動に官は口出ししないといわれればそれまでだが、ジャカルタ首都圏の都市鉄道網は
「日イ友好の旗印」
だ。電車運行100周年にお祝いの一言くらいビデオメッセージでも出せなかったのだろうか。せめてCLI-225型プロジェクトに従事してきたメーカー技術者たちに労いの一言くらいあってもよいのではないか。そうでなければ彼らが報われない。
日本政府、国交省はインドネシアは鉄道輸出の重要市場であると引き続き示しており、本来、無関心を貫けるほど、プライオリティが低いとはいえない。大使館には各省庁から出向した分野ごとのアタッシェが配置されており、インドネシア政府、各省庁等との調整役を果たしている。にもかかわらず、式典そのものの存在を知らなかったとはどういうことか。政府が掲げる鉄道インフラ輸出戦略に実際に貢献しているのは、メーカーであり、鉄道事業者である。大手商社やコンサルが関わる税金ありきのODAが全てではない。重要なのは、
「護送船団方式のODAが終わった後にいかにして、民間ベースで日系企業の参入障壁をいかに下げるか」
である。日本政府、国交省、外務省も、ODA以外にはまるで興味がないように見える。対中国、日本の国益を語るのは自由だが、中国の先進技術、潤沢なリソースを見くびってはいないか。まずは過去の歴史を学び、今、目の前で何が起きているのか、日本側がまずは知るべきである。(高木聡(アジアン鉄道ライター))
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みんなのコメント
これからは日本インドネシア間の協力や技術援助は無かった事に。
火を吹く中国製電動スクーターでいい国ですから。
協力するから裏切る。
全ての協力をやめてみれば結果が出ますよ。
金の協力は徹底的にしないことです。
日中を天秤にかけて少しでも有利に契約しようとの思惑もありそうだよね。
最近の欧州のように日本製が良いと言ってくれる国と信頼関係を築けばいい