これまでカッコイイと信じてきたことが、時代の変化とともにカッコ悪くなっていくことがある。また自分自身も年齢を重ねていくと、それまでの自分のこだわりを恥ずかしく感じることもある。しかし世の中がどう移り変わろうと、何歳になろうと、本質的な部分の価値観さえ揺らがなければ、カッコイイことは時代の変化を乗り越えていけるはずだ。
ステーションワゴンという欧州的選択
文・若林葉子/写真・市 健治
ステーションワゴンとはもともとアメリカで鉄道の駅からホテルなどの目的地まで人と荷物を運ぶためのクルマのことを指した。ステーションワゴン、エステート、ブレーク、サバーバンなど地域によって呼び名はさまざまだが、要はセダンをベースに後部を拡大し、広い荷室を設けた2ボックスカーのことだ。今ではすっかりSUVにその座を奪われたが、かつて日本でもステーションワゴンが一世を風靡した時代があった。
その火付け役となったのは言うまでもなく、1989年に登場したスバルの初代レガシィ・ツーリングワゴンだ。特に、ハイパワーなターボエンジンと4WDを組み合わせた「GT」モデルは人気を博した。それまで商用車の延長でしかなかったワゴンをこのクルマは荷物も積める「俊足」のサルーンへと変え、日本のステーションワゴン市場を切り拓いたのだ。
――という事実に間違いはないのだが、日本でのステーションワゴンの人気を考える上でもう一つ忘れてならないのは片岡義男の小説ではないだろうか。聞き齧りではあるが、彼の小説に出てくるクルマの実に6割以上がステーションワゴンだそうである。最初に買うなら『まずはとにかく一台のステーションワゴンだ』、と氏は言う。人に見せびらかしたり、スピードを見せつけたりするのでなく、自動車を実用的に使い倒す。それでいて形としてもカッコよく、乗る人のスタイルを感じさせるクルマ。それまで日本人が気づかずにいた、ステーションワゴンが持つ佳き素性を描き出して見せた。私より少し上の世代にとって、片岡義男の小説はバイブルであり、氏の小説によって潜在的にステーションワゴンの魅力を植え付けられたはずである。
バブル世代でない私がステーションワゴンと言って思い出すのは、サニー・カリフォルニアとボルボ・エステートだ。今にもアメリカ西海岸の風が吹いてきそうなサニー・カリフォルニアからは豊かで輝くような未来が見えるようだったし、仕事先で会うカメラマンが乗るボルボには、腕一本で生きる職業人のカッコ良さが体現されていた。
そんなステーションワゴンは最初ミニバンに、そして今やすっかりSUVに取って代わられ、日本車ではラインアップを探すのさえ難しくなった。レガシィ・アウトバック生産終了のニュースは日本でのこのカテゴリーの衰退を象徴するものと言えるだろう。
これは日本だけのことでなく、アメリカにおけるステーションワゴンの新車販売シェアは過去5年間、1%前後で推移しており、うち実に9割ほどをクロスオーバーでもあるレガシィ・アウトバックが占めているという。
一方、ヨーロッパは少し事情が異なる。2024年のステーションワゴンの新車販売台数は市場の約8%(前年比+4.1%)を占め、緩やかではあるが安定したシェアを維持していると言える。ステーションワゴンはものを運ぶ実用性は当然だが、SUVより重心が低いことで直進安定性や、走行性能に優れている。またSUVより軽く、空気抵抗が少ないことが燃費にも反映される。アウトバーンのような高速道路を有していることも、ヨーロッパでステーションワゴンが受け入れられている理由のひとつかもしれない。
市場が縮小していくなか、ヨーロッパのプレミアム・ブランドが未だにステーションワゴンをそのラインアップに載せているのは、セダンとワゴンが同一のプラットフォームで設計できるという合理性もあるけれど、ステーションワゴンがプレミアム・ブランドにとっては欠かせない「知的でスマート」というイメージを、アピールする重要なピースであるからなのだろう。
ステーションワゴンは必要なものはすべて積めるけれど、大き過ぎない。かといってミニバンほど快適性に振り切ることなく、走行性能も悪くない。SUVほど華やかではないが、控えめながらもこだわりが感じられる。求め過ぎず、諦めてもいない。うん、なんだかいかにも賢そうではないか。
いま私たちの世代がステーションワゴンを選ぶ理由は郷愁だけじゃない。ライフスタイルをアップデートするために、選ぶべき一手なのである。
Yoko Wakabayashi
OLを経て、2005年からahead編集部在籍。2017年1月から3年半、編集長を務める。2009年から計6回ラリーレイドモンゴルに出場し全て完走。2015年にはダカールラリーにHINO TEAM SUGAWARAのナビとして参戦した。現在はフリーランスで活動しながら、再び、aheadの編集にも関わっている。
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