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「選択肢なき空爆」は40年以上前も同じだった? イスラエル空軍が行ったバビロン作戦とは

掲載 更新 24
「選択肢なき空爆」は40年以上前も同じだった? イスラエル空軍が行ったバビロン作戦とは

「イスラエルが核施設を攻撃」は今回だけではない

 2025年6月13日、イスラエルはイランに対して大規模な軍事攻撃「ライジング・ライオン作戦」を実施しました。この作戦はイランの核・軍事施設を標的とし、多数の航空機が参加する極めて広範囲なものでした。

【画像】か、完全に破壊されている…これが攻撃を受けた原子炉です

 周辺に対立国や敵対組織を多く抱えるイスラエルは、核関連の研究が敵対国で進んでいるという情報をキャッチすると、領空侵犯も辞さず戦闘機を飛ばし、該当施設や関係人物を攻撃する行為をたびたび行っています。これは民族が味わってきた歴史的事情もありますが、基本的に同国は問題が大きくなる以前に、先制攻撃という手段を取ることが多いです。

 今回の作戦以前にも、2024年10月26日にイスラエルはイランへの空爆を実施しています。その際にはイラク政府から領空侵犯について抗議を受けました。そのイラクも、かつてイスラエルによって自国の核関連施設を攻撃された経験を持ちます。

 それが、1981年6月7日に行われた「バビロン作戦」です。これは、イラク・タムーズの原子力施設にあるオシラク原子炉をイスラエルが爆撃した事件で「イラク原子炉爆撃事件」とも呼ばれています。

 当時、サダム・フセイン独裁政権下のイラクが原子炉を軍事転用して核兵器を保有する可能性があるとして、イスラエルはこれを「自衛手段」と主張し、平時に攻撃を実行しました。

まさか、領空侵犯してまで防空網の死角を突いてくるなんて…

 作戦は大胆そのもので、6機のF-15戦闘機による護衛と8機のF-16爆撃機がイスラエルを飛び立ち、通過経路にある主権国家ヨルダンおよびサウジアラビアの領空を侵犯してイラクに侵入し、爆撃を敢行するというものでした。

 当初、作戦実行には航続距離の問題があり、イスラエルの諜報機関モサドは原子炉の建造国であるフランスなどで妨害工作を行っていましたが、建設を阻止するには至りませんでした。ところが、イラン革命の影響でアメリカがイランへのF-16輸出を中止したことを受け、イスラエルがこれを購入したことで航続距離の問題が解消され、作戦の実行が可能となりました。

 侵入ルートはモサドの諜報活動により、イラク防空網の盲点を突く形で設定されており、イラク軍にとっては完全に不意を突かれる形となりました。当初はどこからの攻撃かも特定できず、イランの可能性すら疑われたほどでした。

 ただし、攻撃機を目撃した人物が1人だけいました。それが、当時のヨルダン国王フセイン1世です。彼はバカンス中のクルーズ船から、猛スピードで低空を飛行するイスラエル軍機を目撃し、慌てて国防軍司令部に連絡を入れたとされています。

 爆撃には誘導装置のない自由落下式爆弾が使用されました。8機のF-16は標的近くまで高度約100フィート(約30m)の超低空で侵入し、目標直前で高度5000フィート(約1500m)まで急上昇。その後急降下しながら爆撃を実行し、建造中の施設に16発中14発を命中させました。これは、全盛期の日本海軍艦爆隊やドイツ空軍のスツーカ部隊を彷彿とさせるような精密爆撃であり、驚異的な成果でした。

 なお、この作戦には後にスペースシャトル・コロンビア事故で亡くなった宇宙飛行士、イラン・ラモーン氏も参加していました。

 この攻撃の後、イスラエルは国際社会から非難を浴びました。しかし、イスラエル側は原子炉が兵器転用可能な施設であり、攻撃を見送れば周辺地域に核汚染が広がる可能性があったとして、この時点での先制攻撃が不可避だったと主張しました。

 ちなみに、2025年の今回のイラン空爆についても、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「イランが核兵器開発を進めており、攻撃は正当だった。ほかに選択肢はなかった」と述べています。(斎藤雅道(ライター/編集者))

文:乗りものニュース 斎藤雅道(ライター/編集者)
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みんなのコメント

24件
  • tma********
    イランにはイラン革命前に輸出されたF-14トムキャットがまだあるため、
    トップガンマーベリックの撮影で、米国でF-14を飛ばせずCGだけになったとか。
    いよいよそのイランのF-14の実機飛行、イスラエル空軍との交戦もあるのかな。
  • hab********
    自国は核兵器を隠し持っていて、核兵器大国を後ろ盾に持っているっていうのに、他国の行為が核兵器開発に結びつくと言って、核施設以外の施設も標的にして攻撃。
    過去に恨まれることをしまくってきたから、他国が自分達に仕返ししてくるという恐怖に取り憑かれているのだろうか?
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