ジムニーやセンチュリーなど、30年以上もコンセプトが変わらない車があるいっぽう、同じ車名でも今や当初のモデルとは大きく変わっている車もある。スカイラインやカムリも、その一例だ。“先祖と子孫で変わった車”には、さまざまなタイプがある。まさに、車名に歴史ありだ。
文:渡辺陽一郎
「正統的大幅変更タイプ」のスカイライン
2代目スカイライン(1963-1968年)/全長×全幅×全高:4100×1495×1435mm
先祖と子孫で車作りが大きく変わった最も分かりやすい車種はスカイラインだろう。
1957年発売の初代は、プリンス自動車を代表する上級セダンだった。しかし、1959年にグロリアが投入されて位置付けが変わり、1963年発売の2代目は、全長を4100mmに抑えて1.5Lエンジンを積んでいる。
1968年発売の3代目はスポーティ路線だったが、1972年発売の4代目は大きく見せる豪華指向に変わった。これが大ヒットして、1973年には商用バンを除いても15万7598台を登録。1か月当たり1万3000台以上で、今のスカイラインの30倍近い売れ行きだった。e-POWERで売れ行きを伸ばしたノートよりも多い。
4代目スカイライン(1972-1977年)/全長×全幅×全高:4460×1625×1385mm
5~6代目も基本的にスポーティ路線だが、1985年に発売された7代目は、フロントマスクなどに厚みを持たせてマークIIに対抗するような豪華指向になった。これによりローレルとの違いが曖昧になっている。
売れ行きは絶好調だったが、自動車ファンからは批判を浴びて8代目のR32型はサイズダウンした。この時にはGT-Rが復活している。
9代目(R33)では3ナンバー車になり、10代目ではホイールベースを短く抑えた。この時代のスカイラインは、フルモデルチェンジの度に拡大と縮小を繰り返して、ユーザーを呆れさせた。
そして、2001年に登場した11代目のV35型は、もともとスカイラインとして開発されたわけではなかったが、この伝統ある車名を与えられた。12代目のV36型、現行型となる13代目のV37型は基本路線を踏襲するが、インフィニティに属することもあってボディは大柄になった。
今のスカイラインに10代目までの面影はなく、特にコンパクトだった8代目とはまったく違う車になっている。
現行型スカイライン(2014年-)/全長×全幅×全高:4815×1820×1440mm
アコード、カムリは「グローバル的大幅変更タイプ」
■アコード
初代アコード(1976-1981年)/全長×全幅×全高:4125×1620×1340mm(3ドア)
1976年発売の初代アコードは、発売時点では3ドアハッチバックだったが、後にセダンも追加され、シビックよりも上級であることを訴求した。
1985年発売の3代目は、3ドアボディのエアロデッキを用意するなど新しい発展も見せたが、セダンは5ナンバーで視界が優れ、運転のしやすく好ましいクルマであった。
ところが1993年に発売された5代目は、北米仕様とボディが共通化され、3ナンバー車になって後方視界も悪化した。
ちなみに1989年の税制改訂で3ナンバー車の不利が撤廃され、この影響で日本車に3ナンバー車が急増した。
ところがこれらの3ナンバー車は、見事に売れなかった。不振の原因は、ボディの拡大というより、日本のユーザーを甘く見た海外偏重の車作りにあった。
内外装の形状、視界、取りまわし性、運転姿勢などから、ユーザーは3ナンバーの日本車が国内市場から離れたことを鋭敏に感じ取り、売れ行きを下げたのだ。
従ってユーザーの「車離れ」という言葉は、自動車業界が生み出した都合の良い誤った言い訳だ。実際には車が日本のユーザーから離れてしまい、日本国内の売れ行きを下げた。当然の成り行きであった。
予想外の販売低迷に慌てたホンダは、1997年発売の6代目でアコードセダンを5ナンバーサイズに引き戻した。
ところがホンダの売れ筋は、すでにオデッセイやステップワゴンなどに移っていた。5ナンバーサイズの効果は空しく、2002年の7代目以降、アコードは再び3ナンバー車になった。
しかも7代目と2008年の8代目はアキュラTSXの日本版だったから、スポーティ指向が強く、走行性能も優れていたが後席は狭い。
これが2013年発売の9代目は、北米版のアコードと共通化されて室内空間が大幅に広がった。国内仕様のエンジンはハイブリッドだけになっている。まさに紆余曲折、アコードは複雑なモデルチェンジに翻弄された。
現行型アコード(2013年-)/全長×全幅×全高:4945×1850×1465mm
■カムリ
カムリは、今はアコードのライバル車で、生い立ちも似ている。
初代モデルは1980年に「セリカ・カムリ」として発売された。カムリの姉妹車だが、取り扱いディーラーはセリカと同じカローラ店。1982年発売の2代目は、駆動方式を前輪駆動に変更してホイールベースも伸ばし、ミドルサイズセダンながらLサイズと同等か、それ以上に広い室内を得た。その代わりに初代のスポーティ感覚は払拭されている。
3、4、5代目は車内が快適かつ上質な5ナンバーセダンとして発展したが、1996年に発売された6代目は北米向けに開発された。ボディが大幅に拡大されて、国内の売れ行きは低迷した。そこで2011年の9代目、2017年の10代目は、ノーマルエンジンを廃止してハイブリッド専用車としている。
6代目カムリ(1996-2001年)/4800×1785×1420mm
「成り行き的復活タイプ」のジャスティ、ハスラー
■ジャスティ
初代ジャスティ(1984-1994年):全長×全幅×全高:3535×1535×1420mm
懐かしい車名が、何の脈絡もなく復活することがある。最近では2016年のスバル ジャスティだ。初代ジャスティは1984年にスバルのコンパクトカーとして発売され、CVTを搭載する世界初の量販乗用車でもあった。
この後1995年頃に販売を終えたが、2016年にダイハツ トール、トヨタ ルーミー&タンクの姉妹車として復活した。2代目ジャスティもコンパクトカーだが、背の高いボディにスライドドアを装着しており、初代モデルとは車の性格がまったく違う。
それなら車名を変えた方が良さそうだが、そうできない事情もある。自動車に限らず商品の名称は商標登録されるが、今は使えそうな名前は、大半が既に登録されている。仮に車種の性格に合った最適な車名を思いついても、ほかのメーカーが登録していれば、お金を支払わないと使えない。
そこで今は、自社で登録を済ませている車名を使うことが多い。ジャスティを名乗ったのも、スバルがすでに登録している車名だったからだ。
現行型ジャスティ(2016年-):全長×全幅×全高:3700×1670×1735mm
■ハスラー
軽自動車としてハスラーが発売された時、「ハスラーはバイクの名前でしょ」と思った方も多いだろう。スズキはかつてオフロードバイクのTSシリーズを販売しており、その愛称がハスラーだった。当時は「ハスラー50」「ハスラー250」という具合に呼んでいた。その後にバイクのハスラーは生産を終えたが、四輪車で復活した。
違和感が意外に生じなかったのは、軽自動車のハスラーがSUVとして開発され、オフロードバイクに通じるイメージがあったからだろう。復活した車名の印象は、微妙なところで明暗を分けるのだ。
1971年に発売されたスズキのオフロードバイクTS50、通称“ハスラー50”
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