荷主の責任強化で生じる26年問題
「物流の2026年問題(26年問題)」とは、2026年4月に施行された改正物流効率化法などによって、主に荷主や元請事業者らに対し、罰則をともなうさまざまな法的義務が課されること、また、その対応にともなって生じる問題を総称した言葉である。
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26年問題が生じた背景には、政府による大きな政策転換がある。それまでの物流政策は、基本的に倉庫会社や運送会社など、物流を担う事業者に対して義務や罰則を課すものだった。
分かりやすい例が、労働時間の問題である。一般の労働者については、労働基準法によって労働時間や休息時間などのルールが定められている。一方、トラック、タクシー、バスといった職業ドライバーには、より厳しい労務上のルールを定めた改善基準告示がある。
例えば、トラックドライバーに対する改善基準告示では、「4時間運転すると30分休憩しなければならない」と定められている。また、1日あたりの運転時間は、「2日平均で1日あたり9時間以内」と定められている。
仮にこのルールを守れないような運行、例えば道程にして1000kmを超える東京~福岡間の運行を翌日着で指定するなどの行為を荷主が運送会社に求めたとしても、ルール違反で罰を受けるのは運送会社だけで、荷主が責任を問われることはなかった。
荷主へ規制を課す物流政策の大転換
2023年3月、当時の岸田文雄政権は、この偏った仕組みに手を入れ、持続可能な物流を目指して物流政策を大きく転換した。
いい方を変えれば、
「運送会社や倉庫会社は荷主に逆らえないのだから、規制は荷主に課すべきだ」
と、方針を大きく変えたのである。その結果、貨物自動車運送事業法、物流効率化法、さらに下請法から改称された取適法などによって、荷主や元請など、物流事業者を利用する側にも、輸送の効率を高めるためのさまざまな取り組みが求められることになった。
これまで荷主らは、当事者としての立場を忘れたかのように、時として物流事業者に無理や無駄をともなう要求をしてきた。これからはそうした行為を認めず、場合によっては罰則の対象にもするという形で法令が大きく改正された。
その節目となったのが2026年4月であり、こうした変化にともなって荷主らが感じる負担や不安などをまとめて、26年問題と呼ぶのである。
認識不足と現場の板挟みに悩む荷主
例えば、日本経済新聞を読んでいると、毎週のように
「異なる企業同士が共同配送を始める」
「これまで手積み・手卸ししていた貨物をパレットに載せた」
「物流センターにロボットを導入し、自動化を進めている」
といった物流の改善や新たな取り組みを伝える記事が掲載されている。しかし、こうした報道で紹介されるのは、物流の改善に積極的な一部の荷主や元請事業者らの取り組みであり、多数派とはいい難い。
例えば、帝国データバンクが2026年4月に実施した調査(「改正物流効率化法に関する企業の意識調査(2026年4月)」)では、
「約7割」
の企業が「内容を知らない」と回答している。そのうち35.9%は「名前も聞いたことがない」と答えており、逆に「制度の内容も含めてよく知っている」と答えた企業は2.8%にとどまった。
また、制度(法令)を把握していることと、実際にこれを守れるかどうかは別の問題であることにも注意が必要だ。
例えば、青果や水産物の販売では、消費者から鮮度を厳しく求められる。そのため、中には1000kmを超える九州~東京間のトラック輸送を翌日着で求める仲買人もいると聞く。前述のとおり、法令ではドライバーは原則として1日9時間までしか運転できないため、この要求に応えれば、当然ながら法令に触れることになる。
法令順守を阻む商慣習と消費者の壁
こうした要求をする荷主は大きく2種類に分けられる。法令の内容を把握しておらず、コンプライアンス違反だと知らないケースと、十分かどうかはともかく、違反だと知りながら、「競合他社と同じ条件で商売をしなければ、ウチが負けてしまう」と板挟みになりつつ、法令に反する要求をするケースである。
「法令を作るのであれば、徹底して守らせてほしい。ウチだけが法令を守ってライバルに負けるような、『正直者が馬鹿を見る』状態は許せない」
こうした声は、荷主や元請事業者に限らず、倉庫会社や運送会社からもたびたび聞かれる。法令、あるいは政府は、義務や罰則を課しても、売上や利益、あるいは商売上の優位性を保ちながらルールを守る具体的な方法まで示してくれるわけではない。
そのため、多くの企業はまず利益を削るなど、自ら負担を抱えながら法令を守らざるを得ない。例えば運行時間についても、「物流の2024年問題(24年問題)」のようにドライバーの残業時間が規制されれば、運べる貨物量が減るのは当然である。積載効率を高めるなどして対応できる荷主は限られており、輸送効率の低下による物流コストの上昇を、価格に反映できていない企業もある。結局、荷主らが運送会社に無理な要求をするのは、荷主らも
「消費者から同じような要求を受けている」
からだ。前述の青果・水産物についていえば、鮮度が良いのが当たり前ではなく、「鮮度を求めるのであれば、それに見合う対価を支払わなければならない」と消費者の意識や商慣習が変わらなければ、荷主らが法令を守ることも難しい。
「26年問題とは、結局のところ法令を守れない荷主のいい訳なのではないか」
という見方は、ある意味では正しい。ただし、法令の認知度不足、つまり政府による広報不足に加え、なぜ法令を守れないのか――というところまで踏み込んで考えなければ、26年問題の全体像は理解できない。
24年問題との明確な相違点と背景
このように説明すると、24年問題に詳しい読者の中には、26年問題に違和感を覚えるかもしれない。では、その違和感がどこから来るのかを考えてみよう。
24年問題とは、働き方改革関連法が2024年4月1日から改正され、ドライバーの年間時間外労働時間に「最大960時間まで」という上限が設けられたことで生じたさまざまな問題を指す。24年問題も26年問題も、「法律の改正をきっかけとしている」という点では共通している。しかし、26年問題は、24年問題がなければ生じなかったものである。
また、発生した理由も大きく異なる。24年問題は、「ドライバーの長時間労働を改めなければ、今後なり手が減り続け、トラック輸送そのものを維持できなくなる」という社会全体への影響や危機を背景に生じたものだ。
一方、26年問題は、24年問題を解消するための対応策として進められた制度の見直しから生じている。つまり、24年問題と26年問題の関係は、
・原因と結果
・課題と解決策
に近い。さらに、24年問題の影響は社会全体に及ぶのに対し、26年問題が影響するのは荷主や元請事業者など、限られた範囲にとどまる。つまり、両者では規模が大きく異なる。こうした違いが、26年問題に対する違和感の正体だろう。
ビジネス目的で生まれた造語の正体
もうひとつ考えなくてはならないのが、26年問題という言葉を生み出した存在である。筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)が調べた限り、政府は「物流の2026年問題」という言葉を使ったことがない。この言葉を生み出したのは、24年問題で生まれた商機をさらに広げ、事業につなげたいと考えた
・コンサルティング会社
・ソリューションベンダー
である。つまり、26年問題という言葉は、販売促進のために生まれたものなのだ。
このように、注目された言葉を少し変えて、二匹目のドジョウを狙う試みは、これまでも繰り返されてきた。男性向けの商品やサービス、趣味などを女性にも広げるために使われた「◯◯女子」や、これまでの考え方を新しくしたように見せる「◯◯2.0」など、数え切れないほどある。
これまで述べてきたように、26年問題そのものは確かに存在する。しかし、これを自社の課題として捉え、反省したり対策したりする必要がある企業は限られる。だからこそ、物流系メディアだけでなく、テレビやラジオ、一般メディアでも数多く報道された24年問題とは異なり、26年問題はあまり話題にならないのだろう。26年問題は、そもそも24年問題が円滑に解消へ向かっていれば、生まれなかった言葉でもある。
次に同じような言葉が生まれるとすれば、運送会社に対して適正原価の順守を求めたり、運送事業許可の更新制度が整えられたりする2028年度だろうか。これらについては、2028年度中までに法整備を行い、公布すると現在のところ発表されている。もし「物流の2028年問題」や「運送の2028年問題」といった言葉が生み出されたなら、それは物流革新政策がうまく進んでいない表れともいえる。
これ以上、余計な言葉が生み出されないよう、政府には具体的で実効性のある政策を考えてほしいものだ。(坂田良平(物流ジャーナリスト))
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取り締まりもしないルールばっかり作ってどうするの?