セル数の減少により、バッテリーパックが軽量化
『FIM MotoE World Championship』(以下、MotoE)は、2019年から始まった電動バイクによって争われる選手権です。2023年からはドゥカティがMotoEのために開発した電動レーサー「V21L」がワンメイクマシンで、タイヤは初年度からミシュランがサプライヤーを務めています。
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MotoEはMotoGPのヨーロッパ開催レースに併催され、1戦2レース制です。2025年シーズンは、全7戦14レースが予定されています。
そんな2025年シーズンに供給される「V21L」は、すでにドゥカティがリリースで発表したとおり、大きく進化したということです。
どのような改善がされたのか? 開幕戦となったフランス大会(MotoGP第6戦フランスGPに併催)で、ドゥカティのeモビリティ・ディレクター、ロベルト・カネさんにインタビューを行ないました。
2025年型「V21L」の大きな改善のひとつが、バッテリーパックです。従来の4.2Ahから、エネルギー密度が向上した5Ahのセルが導入され、出力や航続距離は変わらず、セルの数を減らすことに成功しました。セルの数はこれまでの1152個から960個へ減少し、その結果、バッテリーパックで8.2kgの軽量化が果たされました。
「バッテリーパックの形状は変わりません」と、カネさんは説明しています。
「と言うのも、バッテリーパックの外装はカーボンファイバー製で、ねじれ方向や横方向の剛性を持たせる設計になっているんです。そのため、ライダーに同じフィーリングを提供するためにも形状は変えないことにしました。最終的に、ライダーたちは『このバイクは良い』と感じてくれていました。まだ少し重いですが、良いバイクだ、とね。ですから、バッテリーパックの内側の部分だけに手を加えて、内部から重量を減らすように努めたのです」
なお、充電時間は変わっていません。セルは減ってもエネルギー密度は高くなっており、エネルギー量が同じだからです。
「もちろん、(2024年と)同じ重量のままでセルを変更して、航続距離やパワーを増やす、という選択肢もありました。でも、ご存じのように、ライダーたちはもっと扱いやすいバイクを求めていて、軽量化を強く望んでいたんです。そのため、パワーや航続距離、レース周回数などは全てそのままにして、バイクの重量だけを減らすことに決めました」
「テストやレースが終わったとき、バッテリーは完全には使い切っていませんが、ほとんど放電された状態になります。そこから次のセッションがある場合には、バッテリーを100%まで再充電します。ほぼ0%になったバッテリーパックをフル充電するのには、約1時間かかります」
MotoEは金曜日にプラクティス2回と予選(Q1、Q2)、土曜日に2レースが行なわれます。ただ、どのセッション間も3~4時間の間隔があります。充電はセッション終了後、20~30分後にはスタートするため、2024年から変わりなく充電時間が1時間だとしても、全く問題ありません。
「これには2つの理由があります。一番重要なのは、その1時間を使ってバッテリーパックを冷却しているという点です。ラジエーターの前には大きなファンを配置し、充電中はそのファンでラジエーターに風を当てています。電動ポンプによって冷却水をラジエーターとバッテリーパックに循環させ、センサーも冷却しています。そうすることで、次のセッションに向けてバッテリーが準備万端の状態になるんです。これが、充電時間を短縮しない理由のひとつです」
「もうひとつの理由は、充電に時間をかけることでセルの負担が少なくなり、寿命が延びるということです。セルに過度なストレスをかけなければ、来年も問題が起きにくくなります。我々の考えとしては、MotoEに提供しているバッテリーパックは、少なくとも2年間は使い続ける予定だからです」
充電と言えば、気になるのが充電器の問題です。2024年シーズンをもって、MotoEからEnelが撤退したからです。
Enelはイタリア政府の経済財務省が23.6%の株式を保有する筆頭株主であり、すでに民営化されたとはいえ、政府が影響力を持っている会社と言えます。イタリア政府が変わったときにEnelの経営陣も変わり、Enelはモータースポーツを離れてサッカーのスポンサーに注力すると決めたのです。
EnelはMotoE初年度からタイトルスポンサーであっただけではなく、MotoEのための充電器を開発し、供給していました。この充電器はバッテリーを内蔵し、MotoEマシンはパドックと、ポータブル充電器によってグリッド上でも充電することができていたのです(2024年までは、コースインをしてグリッドにつくまでに消費した1周分の電力を、グリッド上で再充電していました)。
しかし、Enelの撤退によってMotoEはその充電器を失いました。2025年シーズンは、アメリカのバッテリー技術企業であるPower SonicのEV充電およびエネルギー・ストレージ部門であるEVESCOの充電器を使用しますが、これはバッテリーを持ちません。つまり、サーキットの送電網からEVESCOの充電器を介して「V21L」に充電が行なわれます。
余談ではありますが、2024年シーズンのMotoEが全8戦だったのに対し、2025年シーズンは全7戦に設定されているのはこのためです。
2024年まではEnelのバッテリー内蔵充電器のおかげで、どのサーキットでも開催することができました。しかし、2025年シーズンはサーキットの送電網を使用して充電することになるため、それが可能なサーキットと不可能なサーキットがありました。それらが考慮され、7戦の開催となったのです。
また、今季からグリッド上の充電はなくなりました。タイヤウオーマーは引き続きグリッド上で使用されますが、そのための小さなバッテリーが各チームに供給されています。
では、Enelの撤退は「V21L」の開発に影響したのでしょうか。
「バイクの動作の仕組みを少し変える必要がありましたが、新しい充電ステーションのプロバイダーとは非常にうまく連携できたと言えます」と、カネさんは答えています。問題ないということです。
「新しい充電器も、Enelのものと同じくらいによく機能しています。ですから、特に問題はありません。これまでと同じように、バイクを充電することができます。ひとつだけ変わったことと言えば、グリッド上で充電をしなくなったことですね。1回の充電で、サイティングラップも含め、全周回数を走行するのに十分なエネルギーがあると分かったからです。これはチャンピオンシップの少しの進化ですね」
Enelは撤退しましたが、「V21L」の開発や、レース周回数に影響はなかったということです。なお、2025年MotoEのレース周回数は7周または8周(サーキットによって異なる)に設定されています。
ドゥカティによる、市販電動バイクの可能性は?
進化は他にもあります。
「過去2シーズンを通して、各チームがフロント部分を長く、リアを短くするという方向にセッティングしていることが分かりました。それに合わせて、我々もマシンの一部を変更し、少し重量を後方に移動しました。その結果、バイクの操縦性を向上することができたんです」
「それから、ソフトウェアにも改良を加えました。このマシンのソフトウェアは、MotoGPでの経験をもとに、ドゥカティが開発したものです。トラクション・コントロールは以前のものと、少しだけ違っています」
「以前はサーキットのすべての区間で同じマッピングが使われていましたが、今年からはMotoGPと同じように、セクターごとに調整可能なトラクション・コントロールを導入しました。セクター1は、このトラクション・コントロール、セクター2はこれ、という風にね。よりMotoGPに近いものになったのです。つまり、各チームはセクターごとに、あらかじめマッピングできるようになり、ライダーは走行中にセクターごとにトラクション・コントロールを切り替えながら走れるということです」
「また、リアリムを変更しました。2024年シーズンまでは、通常の市販バイク向けに作られた、ラバー製のダンパーのあるリムを使用していたからです。内燃エンジンは振動がとても多いので、その振動を和らげるためにリムの中にラバーを入れてダンピングする必要があります。しかし、電動バイクはトルクの出方が非常にスムーズでリニアです。そういった振動を抑える必要がないので、そのラバーを取り除くことができました。その結果、より薄いリムを作ることができ、軽量化することができました」
このリアリムは第2戦オランダ大会から投入されるということです。
また、「アンチ・ウイリーについては、チームに新しいマッピング一式を提供しました。チェーンの種類も、フリクションの少ないものに変更しました。バイク全体の効率を上げるためで、ほんの少しですがパワーが向上しました」ということです。
こうした進化の結果、「V21L」は車両重量が225kgから8.8kg軽量化し、216.2kgになりました。
フランス大会ではオールタイム・ラップ・レコードが更新され、1分39秒545が記録されています(2024年の記録は1分39秒882)。最高速も、2024年は253km/hだったところ、255km/hがマークされました。ラップタイムの改善について、カネさんはこのように説明しています。
「理由はいくつかありますが、一番大きな理由はやはり、重量そのものです。軽量化した新しいマシンをフランコ・バッタイーニにテストしてもらったとき、彼はすぐに『このバイクは扱いやすい』と感じました。加速する際に余計な重量がない分、よりスムーズに加速できるんです。ブレーキングのときも以前より軽い車体を止めるわけですから楽になっていますし、バイクのハンドリングも向上しています」
「たとえば切り返しの場面では、バイクの傾けるポイントを簡単に変えることができます。つまり、バイクの扱いやすさが大きく向上しているんです。でも、それだけじゃありません。軽くなったことだけが理由ではなく、電子制御の効果も大きいんです。トラクション・コントロールが、ライダーがスリップやスライドの限界まで持っていくのをサポートしてくれています。ライダーが、電子制御がしっかり自分の走りを助けてくれていると感じて自信を持てれば、さらに攻めることができますし、ラップタイムの向上にもつながります。私たちとしてもその点については非常に満足していますよ」
最後に、カネさんにドゥカティの電動バイク市販化について尋ねました。「V21L」は電動レーサーであり、プロトタイプのレーシングマシンです。しかし、MotoEに参戦する以上、その目的は市販製品のテクノロジーの開発につながるはずです。
「私たちは市販電動バイクにも興味を持っていて、現在プロトタイプの開発に取り組んでいます」と、カネさんは肯定しました。
一方で、「これはどのバイクメーカーにとっても同じだと思いますが、私たちも世界的な状況には少し不安を感じています。経済的な観点から見ても、電動モビリティの普及はまだ欧米諸国に限られています」とも語っています。
「ただ、私たちは必要なときにすぐ電動バイクを作れるように、開発体制を整えておきたいと考えているんです。ドゥカティはエンジンバイクであれ、電動バイクであれ、常に素晴らしいバイクをお届けしなければならないと思っています。だから私自身やチームは、特にこのテーマについてしっかり取り組んでいます。ただ、ご存じの通り今の世界情勢は本当に不安定で予測が難しいので、電動バイクを『確実に出します』と断言するには、もう少し状況を見極めなければなりません。ですから、私たちにとってもまだ検討中の課題なんです」
初年度から備えていたリアの電気ブレーキやバッテリーの水冷の冷却システム、バッテリーパックをシャシーの一部として使用したレイアウトに、2025年はバッテリーパックの軽量化、電子制御の進化が加わりました。こうした進化を続けるドゥカティが、その技術を蓄積した先に──もちろん、情勢によっていつになるのかは分かりませんが──どんな市販電動バイクが登場するのかと、想像が膨らむばかりです。(伊藤英里)
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モトクロスやトライアルではもう燃料エンジン車と遜色ない結果を出すようになってきている。モトEにも、さらなる進化を期待したい。