普段、何気なく接している信号機ですが、どのように制御されているのか、不思議に思ったことはありませんか? まあ、あまりに身近すぎて考えたこともないというのもごもっともです。
信号機は、ラジオの交通情報などからわかるように、各地域の管制センターが路上のセンサーや通信設備から収集した情報を元に交通を管理・制御するだけでなく、街を走るクルマに交通をスムーズにするような情報を提供しているのは知っていますか?
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文/岩尾信哉
写真/ベストカーweb編集部、トヨタ、ホンダ
【画像ギャラリー】けっこう細かく制御されているんです!! 交通をスムーズにする信号機の秘密
■ITSを「解読」する
交差点の信号機に設置された路側装置。出典:トヨタ
路側機用光ビーコンは全国の交差点に約3万5000ヵ所に設置され、一般道/高速道(自動車専用道)で使えるナビ連動型のETC2.0車載器に光ビーコンを追加すれば、光DSSS(路車間通信システム)を利用したTSPS機能などを利用できる。出典:VICSセンター(一般財団法人 道路交通情報通信システムセンター)
まずは交通情報を利用した日本で運用されている大きなシステムから解説を始めよう。どうしてもアルファベットの略称の乱立になってしまうのをどうか勘弁していただきたい。
あまり馴じみがないとはいえ、自動車交通を安全かつ円滑に進化させる技術とされるのがITS(Intelligent Transportation System:以下ITS)。実証実験が日本の路上で本格的に始まったのは、2013年10月に東京都で開催された「ITS世界会議東京2013」がきっかけと記憶している。
ITSのイメージは漠然としているうえに、なにしろ日本の交通情報システムにはITSを含めてアルファベット(横文字)表記が多用されていてややこしすぎるので、できるだけ簡単にまとめておきたい。
我々にとって身近になっている機能といえば、カーナビゲーションシステムのモニター上で道路の混雑状況などの情報を表示するVICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)。
それに高速道路(自動車専用道路)の料金支払いでお世話になっているETC(Electronic Toll Collection System:電子料金収受システム)ではないだろうか。
VICSは渋滞や交通規制などの道路交通情報を、路側機に与えられたFM多重放送(現在は機能を強化した“VICS WIDE”と呼ばれる)や赤外線を利用した高度化光ビーコン、電波ビーコンを使うETC2.0などの機能を利用して、リアルタイムにカーナビに届けるシステムだ。
ここでTSPSを構成する基本となっている機能装置について捕捉しておきたい。
●電波ビーコン
ETC2.0対応のカーナビと車載器の通信には、電波ビーコンが使用される。
“専用狭域通信”を意味するDSRC(Dedicated Short Range Communication)は、スポット通信とも呼ばれ、主に路側に設置される無線基地局(路側機は一時的に“ITSスポット”とも呼ばれたこともあった)と車内の車載器の間で使われる無線通信技術だ。
●光ビーコン
光ビーコンはUTMSを実現するためのインフラ機能として、指向性が高い近赤外線技術を応用して開発された装置。路側機は投受光器と制御機で構成され、走行車両の車載装置との双方向通信機能と車両感知機能を併せ持ち、精度の高い交通情報を提供する。
2011年頃からナビ連動でTSPSに対応可能な高度化光ビーコンユニットを装備すれば、後述する光DSSSの機能を得られるようになった。路側機は全国の約3万5000箇所に設置されている。
ただし、システムや機能などには違いがあって、たとえば、後述する信号機の情報を利用するシステムであるTSPS(Traffic Signal Prediction Systems:信号情報活用運転支援システム)は、警察庁を中心に構成されたUTMS(Universal Traffic Management systems:新交通管理システム)に組み込まれている。
「警察によるITS」と呼ばれるUTMSは、警察庁や交通管制センターなどが路車間通信インフラを使って道路状況を管理・管制するシステム。これの活用を進めているUTMS協会は、これに自動車メーカーのトヨタ、ホンダ、通信機器を手がけるパナソニック、三菱電機、JVCケンウッドが参画している。
UTMSはこれを構成するサブシステムで形作られており、ポイントとなるITCS(Integrated Traffic Control Systems:高度交通管制システム)は、車載装置との双方向通信による情報を基に、交通情報の収集や最適な信号制御を行う。
■UTMSのサブシステムITCSの図
出典:VICSセンター(一般財団法人 道路交通情報通信システムセンター)
ここでサブシステムすべてを紹介するのは控えておいて、TSPSと呼ばれる信号情報活用運転支援システムに話題を絞っていきたいところだが、そのなかでもいくつか説明が必要になる。
たとえば、サブシステムのひとつであるDSSS(Driving Safety Support Systems:安全運転支援システム)は、その名のとおり、ドライバーが視認困難な位置にある車両や歩行者を、路側機に与えられた各種の感知機が検出。
入手した情報を車載装置や交通情報板などを通してドライバーに提供する。光ビーコンを利用する路車間通信システムとして現在は採用技術が更新されて光DSSSとなって扱える情報量を増加させ、一般道でもETC2.0路側機などを使って利用可能となった。
■信号が変わるタイミングを制御するワザ
信号機が変わるタイミングはどうなっているのだろうか?
ここからは、信号の待ち時間がどのように設定されているかの実際について、改めて確認してみたい。
たとえば、一周期における主道路と従道路との信号表示の時間配分はスプリットと呼ばれ、主道路(幹線道路)と従路(交差路)が交わる場合には、平均的な交差点での比率は6:4となっている。ちなみに、車両と歩行者それぞれ待ち時間にストレスを感じない周期時間は90秒以下とされている。
交通信号機の表示変化の制御因子(パラメーター)は3つある。
・サイクル長(周期時間):信号表示が一巡する時間
・青信号スプリット:各現示に割り当てられる時間または割合
・オフセット:隣接する交差点どうしで系統制するために、系統方向の各交差点における青の開始時間の差(秒数または周期時間に対する百分率)
ちなみに、都市部で交通量の多い幹線道路の重点交差点や歩行者感応式信号機であれば、一概に制御が働くとは限らない。信号機の表示制御の方法については、いくつか設定がある。
一般的な交差点でそれぞれを制御する「地点制御」、曜日や時間によって一時的に混雑するような場合には、時間帯別に周期時間を設定を変更して渋滞を緩和する「プログラム多段制御」、交差点の間隔が短く、他の一般制御の交差点よりも比較的交通量が多い場合に、いずれかの交差点の制御器を基準として連動して作動させることで渋滞の緩和を狙う「系統制御」がある。
■ホンダとトヨタが採り入れたTSPS
出典:ホンダ
さて、ここからは信号機の情報のやりとりについて話をしていこう。前記のDSSSに包括され、信号の制御を実施するTSPSは、光ビーコンから取得した信号情報を用いて、信号のある交差点を円滑に通行するための運転を支援するシステムだ。
TSPSでは車両側はカーナビと連動するETC2.0車載器や光ビーコンによって、道路側の路側送受信器や光ビーコンから送られる信号機の情報を入手。自車の位置や速度情報を用いて、車載機がドライバーに交通状況や運転シーンに応じた適正な速度や情報の提供を行う。
TSPS技術が実際に採用された具体例を挙げておこう。
・右折時注意喚起:特定の交差点で右折待ち停車時に、接近する対向車線の直進車や、右折先に歩行者がいるにもかかわらず、ドライバーがブレーキペダルから足を離して発進しようとするなど、見落としの可能性がある場合に、表示とブザー音により注意を喚起する。
・赤信号注意喚起:赤信号交差点に近づいてもアクセルペダルを踏み続け、ドライバーが赤信号を見落としている可能性がある場合に、表示とブザー音により注意を喚起する。
・信号待ち発進準備案内:赤信号で停車したとき、赤信号の待ち時間の目安を表示する。
上記の機能はいずれも路側機が設置され情報が入手できる交差点。全国それぞれの地域で設定されている。
■トヨタが取り組む「ITS コネクト」
赤信号で停車した時、赤信号の目安を表示。出典:トヨタ
交差点で右折待ち停車時に接近する対向車線の直進車や右折先に歩行者がいるにもかかわらず、ドライバーがブレーキペダルから足を離して発進しようとするなど、見落としの可能性がある場合に、表示とブザー音により注意喚起。出典:トヨタ
通信利用型レーダークルーズコントロール。先行車が通信利用型レーダークルーズコントロール対応車両の場合、車車間通信により取得した先行車両の加減速情報に素早く反応して、車間距離や速度の変動を抑え、スムースな追従走行を実現。出典:トヨタ
トヨタは最新車種を中心にTSPSの機能を積極的に取り入れている。新たな情報サービスであるITS Connect(コネクト)には、前述の機能として「信号待ち発進準備案内」「信号連携減速案内」「赤信号注意喚起」などの機能が備わる。
トヨタがTSPSを利用している具体例が、トヨタとレクサスの両ブランドで採用している「ITSコネクト」(インフラ協調型安全運転支援システム)だ。
トヨタは2013年からこの情報システムの実証実験を開始、2015年10月の先代クラウンのマイナーチェンジから採用して、続く新車でのオプション装備として採用してきた。
従来からあるTコネクトナビとETC2.0ユニットのナビ連動タイプ(光ビーコン付き)を基本システムとして、ITSコネクト(TSPSを含むDSSSなど)を採用している車両は、ミライ、ハリアー、プリウスPHV、プリウス、クラウン、アルファード、ヴェルファイアとなっている。
レクサスでは、LSでは標準、ESとRX、UXでは標準またはオプション、NXはオプションで設定されている。
レクサスでの対応表
■ホンダはホンダeに採用
対してホンダは、TSPSを採用した先代アコードを2016年5月に発売した経緯があり、現在では最新モデルとして「街乗りベスト」を謳うEV(電気自動車)であるホンダeをはじめとして、フリード、ステップワゴンといった車種において、純正ナビに光ビーコンを組み合わせて信号情報を利用できる。
なお、ホンダeは純正ナビに標準装備。フリードとステップワゴンはいずれもディーラーオプション設定されている。
UTMSに参画している自動車用通信機器を手がけるメーカー3社のうち、パナソニックを取り挙げておく。TSPS対応のカーナビとETC2.0車載器ではモニター画面で信号情報の機能を選択でき、ETC2.0車載器単独でも光ビーコンと組み合わせれば、TSPSなどの情報を受け取ることができる
ホンダのTSPS対応カーナビ
■自動運転技術に飲み込まれる?
レベル3の自動運転が装備されるレジェンド。リース専用車両で、国交省の特定整備認証を取得する必要がある
最近になって警察庁は「光ビーコンを活用した安全運転支援システム(DSSS)の運用終了について」発表を行った。
光ビーコンを活用した光DSSSについては、「信号見落とし防止支援」、「出会い頭衝突防止支援」、「追突防止支援」など、運転者に対して安全運転支援を行うシステムとして運用してきたとしたうえで、光DSSSについて、耐用年数など耐久性のも含めて関連部品の製造停止等により保守が難しい状況となっていることから、令和9年3月31日をもって運用終了することを発表した。
なお、「光ビーコンを用いて情報提供を行っている交通情報提供システム(AMIS)及び信号情報活用支援システム(TSPS)については継続して運用します。」としているから、当面は問題ないとはいえ、自動運転技術の進化によっていずれフェイドアウトする可能性もあるということだ。
将来の自動運転技術の進化とともに、車両側での情報収集技術が高度化していけば、システム全体の構成を見直しは必然的になってくる。
ほかの要素でも、従来からあるホンダの情報サービス「インターナビ」などに見られる走行車両から得られるプローブ情報の利用など、メーカー製ナビによる情報収集能力の高度化をはじめ、センサー技術の進化、将来的には確実に車車間情報のやりとり(トヨタはITSコネクトで車間通信技術を取り入れている)が欠かせなくなる。
現状でのUTMSによる信号情報の価値は事前に情報収集が可能な点にあるとはいえ、、車両搭載のカメラからの映像情報を処理する能力が飛躍的に拡大するような流れのなかでは、インフラ側の技術がいずれ置いて行かれてしまうかもしれない。だからこそ、信号器の通信技術に関しても、さらなる進化が求められていることは間違いない。
路車間通信システムに対応している交差点(東京都中心部)
路車間通信システムに対応している交差点はこちら!(2021年4月時点)
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■専門用語解説
●VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)
渋滞や交通規制などの道路交通情報を、FM多重放送や光ビーコンを使ってリアルタイムにカーナビゲーション装置に届けるシステム。
路上に設置された電波/光ビーコン、FM多重放送を利用して、ドライバーに対して必要な情報(渋滞情報・規制情報・道路案内・駐車場情報など)を、カーナビやETC2.0といった車載器を介してリアルタイムに提供する。
●路側機用光ビーコン
全国の交差点に約3万5000箇所に設置され、一般道/高速道(自動車専用道)で使えるナビ連動型のETC2.0車載器に光ビーコンを追加すれば、光DSSS(路車間通信システム)を利用したTSPS機能などを利用できる。
●光DSSS(トヨタは単に路車間通信システムと呼ぶ)に対応したITS無線機能を活用した路側装置
宮城県・茨城県・埼玉県・東京都・神奈川県・愛知県・大阪府・広島県・福岡県の一部交差点に設置されている(2020年3月現在)。
●信号情報活用運転支援システム(TSPS)の機能を得るには?
基本的にトヨタとホンダの2社の自動車メーカーが用意する純正カーナビやETC2.0装置とともに、光ビーコンを追加装着することで後付けが可能。
情報提供サービスとしてトヨタが採用するITSコネクトは、TSPS機能を利用可能な装備として、純正ナビとともに光ビーコンモジュール付きETC車載器を展開している。
●UTMSに含まれる「信号情報活用運転支援システム」(TSPS)
高度化光ビーコンから取得した信号情報を用いて、信号機が設置された交差点を円滑に通行するための運転を支援するシステム。
光ビーコンから取得できる信号情報と、自車の位置や速度の情報を用いて車載機が交通状況や運転状況に応じた適正な速度や情報の提供を行う。無駄な加速や急な減速をおさえ、ゆとりを持った安全でスムーズな走行やエコドライブによるCO2削減が期待できるとしている。
●ETC2.0
ETC2.0はETCの高速道路(自動車専用道路)料金収受システムに情報サービス機能を付加したもの。ITS路側無線機からの情報を、カーナビとETC2.0車載器によって入手可能。光ビーコンを追加装備して、TSPSの信号機の情報などを得ることができる。
●高度化光ビーコン
近赤外線技術を利用した、走行車両の車載装置との双方向通信と車両感知の機能を併せ持ち、カーナビとETC2.0車載器を組み合わせて、カーナビの画面上に赤信号のカウントダウン機能などの表示機能や赤信号減速支援の音声機能が利用できる。
●VICS
VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)とは、渋滞や交通規制などの道路交通情報を、FM多重放送やビーコンを使ってリアルタイムにカーナビゲーション装置に届けるシステム。
●TSPS
TSPSは警察庁が中心となって進めている新交通管理システム(UTMS)に含まれ、信号が変わる情報を送信、車両側で受信するシステム。路上に設置された光ビーコンを用いて、個々の車両と交通管制システムとの双方向通信を行なう情報通信技術を利用する。
これに交通情報提供システム(AMIS:Adanced Mobile Information Systems)などが日常的に使う情報の入手先といえる。AMISは運転者に渋滞、事故、所要時間等の交通情報を様々なメディアを通じて提供することにより、交通流の分散を促し、交通の円滑化を図るシステムとされ、VICSもこれに含まれる。
その他のサブシステムとしては、公共車両優先システム(PTPS)、車両運行管理システム(MOCS)、動的経路誘導システム(DRGS)、緊急通報システム(HELP)、交通公害低減システム(EPMS)、高度画像情報システム(IIISS)などがある。
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