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EV火災、「地下駐車場」で起きたらどうなる?――密閉空間で高まる被害の危険性、ネットでは「建物全体が燃えてしまう」の声も

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EV火災、「地下駐車場」で起きたらどうなる?――密閉空間で高まる被害の危険性、ネットでは「建物全体が燃えてしまう」の声も

駐車場に潜む火種

 かつて自動車は、家の前に止めておくものだった。鍵をかければ、それで管理は終わっていた。しかし、都市の人口が極端に増えたことで、自動車の置き方は変わった。いまや自動車は「箱」のなかに詰めて保管する対象となった。

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 タワーマンションや商業施設の地下には、機械式の立体駐車場がある。そこでは、数百台の車が鉄でできた構造体に押し込められ、密閉されたまま保管されている。その閉ざされた空間に、新しい危険が入りこんできた。電気自動車、つまりEVである。

 EVは、車の中に大量のエネルギーを蓄えている。多くのEVに使われるリチウムイオン電池は、家庭の電気を数日まかなえるほどの電力を持つ。その内部では、数百度に達する高温の化学反応が、常に臨界に近い状態で抑えられている。

 問題は、その反応が一度始まってしまうと、昔の施設や設備ではそれを止めることがほとんどできないことである。泡や粉の消火剤で酸素を遮っても、電池の中から出る酸素が燃焼を助けてしまう。結果として、火は消えたように見えても再び燃え始める。

 しかもEVの火災は長く続く。表面を冷やしても、中で火がくすぶり続け、やがて大きな炎となって噴き出す。この火災の「しつこさ」こそが、立体駐車場や輸送用の船のような密閉された空間で最も危険な点となる。

 その場にいる人が逃げる時間はない。火は、すぐに隣の車に移っていく。被害の広がりを止めるすべがないのである。

都市設計、根幹揺るがす

 インターネット上では、EV火災に対する不安の声が今も多い。そのなかには「マンション全体が燃えるのではないか」といった意見もある。これは決して大げさな話とはいいきれない。

 EVが密閉された駐車パレットのなかで火を出せば、その熱と有毒な煙は逃げ場なく広がる。上にも下にも、左右にも抜け道がない。実際、都市での火災を想定した消防の訓練では、EV火災が

「新しいタイプの爆発物」

として扱われることがあっても不自然ではない。

 一部の自治体では、EV火災に備えてファイヤーブランケットを使う訓練が始まっている。だが、それが有効なのは、平らな道路や広い場所に限られる。立体駐車場のような場所で、短時間のうちに車に布をかぶせることは、実際にはほとんど不可能である。

 だが、問題の本質はそこにはない。たしかにEV火災の確率は低い。だが、そのことが安全につながるとは限らない。なぜなら、都市では火災が起きた瞬間、それは平均的なリスクではなく、「極端な事態」として現れるからだ。

 たった一台の出火で、数百人、あるいは千人の暮らしが一気に崩れる。だから、火災の頻度ではなく、起きたときの被害をどう防ぐかが重要となる。

 さらに、日本の都市では立体駐車場が単なる設備ではない。むしろ、それは不動産の価値を支える重要な構造になっている。

 例えば、マンションの資産価値。商業施設の売上回転。駅前再開発のための建物の容積率。すべてが「車を小さな空間に集めて保管できる」ことを前提として設計されている。

 そこに、まだ扱い方が確立されていないEVが入り込んできた。これは、都市設計そのものを揺るがす問題といえる。

“無害性前提”崩壊の衝撃

 バッテリー式の電気自動車(BEV)は、エンジン車より火災が起きにくいという意見がある。だが、この比較には意味がない。EVの本当の危険は、火災の起こりやすさではなく、その火災の性質にある。

 EVの火災は、一度始まると簡単には終わらない。炎が「続く」のだ。しかも場所は、都市の地下。鉄とコンクリートが入り組んだ空間である。

 地下3階の駐車パレットで突然煙が出る場面を想像してほしい。そばにあるのは泡の消火器と避難のマニュアルだけ。外の空気は届かず、煙を逃がす設計にもなっていない。そのとき、誰が、どこで、何を判断できるのか。

 今の都市は、EVに対応できていない。単に車の種類が変わったのではない。空間の考え方そのものが反転している。

 これまでの都市は、エネルギーを外からもらう構造だった。だから、駐車場は車を一時的に置く場所でよかった。だがEVは、エネルギーを車の中にためたまま、都市の空間に持ち込む。この変化は、都市が本来持っていた「無害であることを前提とした構造」を根底からくつがえす。

 最も恐ろしいのは、爆発の可能性を秘めた物体が、何の音もなく、人々の足元に置かれることである。それが今、EVと都市のあいだで起きている現実である。

高密度都市の換気限界

 では、どうすべきか。議論はよく二つに分かれる。すなわち、EVを禁止するか、それとも認めるかという対立である。だが、本当に問うべきなのは別のことだ。EVにふさわしい都市のかたちを、誰がどのように設計するかである。

 例えば、次のような備えが必要になる。

・駐車場における換気と監視の仕組みの見直し
・温度センサーを備えた駐車スロットの設置
・車を登録する際のバッテリーの安全性の確認
・火災が起きたときの自動排煙装置の整備
・EV専用の分離型駐車スペースの導入

これらは例外ではない。これからの都市にとっては、当たり前の装備と考えるべき段階に入っている。これは安全の問題ではなく、都市の持続性にかかわる課題である。

 充電されたバッテリーを、閉ざされた立体構造の中に置くこと。それがどれほど無理のある行為かを、考えねばならない。エネルギー密度が高まれば、都市のほうが危うくなる。物流、住宅、インフラ、条例、保険。すべての仕組みが変わらなければならない。

 いま問われているのは、火がどこで燃えたかである。海上であれ、地下であれ、EVが運び込むのは大量のエネルギーである。それをどこに、どう置くのか。これは空間をどうつくるかという設計の問題である。

 新しい技術にふさわしい器を、人はつくることができるか。その力を持たなければ、次に燃え上がるのは、私たち自身の暮らしである。(鳥谷定(自動車ジャーナリスト))

文:Merkmal 鳥谷定(自動車ジャーナリスト)
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みんなのコメント

98件
  • ぶひ
    エンジン停止しているICE車が燃えることは殆どないけど、EVは展示車すら燃え、某国ではマンションの地下は利用不能になっている。日本も早く法整備しないと大変な事態が起きるかもしれない。解決策としてEVは区別するか専用の消火設備を取り付け義務を課すしか無いだろうね。
    因みに中古EVに関して輸送船は引き受けを断っているので国内に留め置かれている。いつ燃えるかわからない時限爆弾はさっさと廃棄してほしいわ。
  • GHOST
    EV火災は一度燃え出したら消えないから海上輸送は大変危険でしょうね。
    既に国内の海上輸送はEV車の輸送禁止となっております。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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