クルマ好きを魅了してやまない、ライトウェイトスポーツの世界。そのひとつの理想形を実現したA 110に、新たな高みが見えてきた。さらに引き上げられた「限界」の先にある喜びをストリートで試す。(Motor Magazine 2020年5月号より)
駆動は違えど名車のDNAを継承
フランスのレーシングドライバー、ジャン・レデレ氏によって、1955年に設立されたアルピーヌ社。最初の市販モデルはルノー4CVの車体にFRP製の軽量ボディを架装したA 106ミッレミリアで、以降ルノー製のプラットフォームにオリジナルデザインのFRPボディを組み合わせるのがアルピーヌの伝統となっていく。
【くるま問答】トヨタ2000GTのサイドにある四角い部分には、いったい何が入っているのか?
中でもR8をベースに年に発表されたA 110は、車体の軽さに加え、RRの強力なトラクションを武器にラリーで大活躍。足まわりやエンジンをバージョンアップしつつ、1977年まで14年間も現役で頑張った息の長い名車となった。
アルピーヌは1973年にルノー傘下に入り、1995年まではオリジナルモデルA 610の生産を行っていたが、その後はスピダーなどルノースポール系高性能モデルを担当していた。つまりアルピーヌとしてのオリジナルモデルの歴史は、ここで一度途切れているのだ。 そのアルピーヌブランドが復活再登場となったのは2016年(日本上陸は年)。軽量なアルミボディのミッドシップにエンジンを横置きする2シータースポーツとメカニズムは一新されたが、車名はそのままA 110とされた。
この新生A 110は、これまではカタログモデルのピュアとリネージの2グレード展開だったが、今回新たにA 110 Sが追加された。これは端的に言えばA 110のハードバージョンだ。標準では252ps/320Nmだった1.8L直噴ターボを、過給圧の向上などにより292ps/320Nmにまでパワーアップ。
足まわりも新開発のスポーツシャシを採用。スプリングレートとアンチロールバーの剛性を大幅に高めて、ダンパーもそれに合わせてチューニング。わずかにローダウンして、タイヤも少し幅が広いパイロットスポーツ4を履く。
よりハードな方向に正常進化
乗り込むと室内は相変わらずタイトだ。でもシートに収まってしまうと圧迫感はない。この、クルマを「着る」ようなフィット感がなかなかに心地いい。後方視界は決して褒められたものではないが、前方視界は良好だ。
スポーツ性が際立つモデルだけに内外装も独特の演出がある。ルーフに光沢仕上げのカーボンルーフを採用。オレンジ色の差し色も特徴で、エクステリアではブレーキキャリパーに、室内ではリクライニング機構を持たないサベルトの軽量バケットシートやドアトリム、センターコンソールなどに同色のステッチが入る。
まずはパワーアップされたエンジンの印象から。標準の252ps仕様も、車体がとても軽い上に低速域からしっかりトルクが出ていたので走りは十分に軽快だったが、5000rpmを超える高回転域の伸び感はそこそこという感じだった。しかしこの292psバージョンはレブリミットの7000rpmまで直線的に吹け上がる。
こうなると車体が軽いぶん、加速はさらに強烈に感じられる。スポーツモード以上で野太くなるエンジンサウンドも迫力を増した感じ。アクセルペダルオフでパリパリというバブリング音が混じるのはちょっとやり過ぎにも思えるが、スポーツカーらしさはある。
一方で足まわりの味わいに関しては、好みが分かれると思う。標準のピュアでは、そのしなやかな乗り心地と、豊かなボディアクションによりコーナリング中の姿勢を幅広くコントロールできる自在なハンドリングに魅了された。一方で「S」は、乗り心地が相応に硬めで、ボディアクションも抑えめ。確かにスタビリティも向上していてよりハードに攻められるのだが、個人的には標準モデルの癒し系の乗り味が好みだった。
今後のA 110はどっちの方向に行くのだろう。さらにハードなシャシーカップなども手に入れて走りを極めて行くのだろうか。それはスポーツカーとして確かに正しい進化なのかもしれないけれど、ぜひオリジナルのバランスの妙も同様に磨き上げて欲しい。(文:石川芳雄)
■アルピーヌ A110 S主要諸元
●全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
●ホイールベース=2420mm
●車両重量=1110kg
●エンジン= 直4DOHCターボ
●総排気量=1798cc
●最高出力=292ps/6420rpm
●最大トルク=320Nm/2000rpm
●駆動方式=MR
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格(税込)=899万円
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