今年も趣味に仕事に、バイクを楽しむ!
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第72回は、KTMのダニロ・ペトルッチ選手の活躍とトレーニング方法について。
連載:世界GP王者・原田哲也のバイクトーク【独占Webコラム】
ダカールラリーのステージ優勝、本当にすごい!
遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。……と言っても、今年も新型コロナウイルス感染症の影響で、しんみりした年越しとお正月になりました。年末から新年にかけてはイタリアの別荘で過ごしたんですが、こちらも新型コロナウイルスの感染者数が非常に多く、安全のためなるべく出歩かないようにしていたんです。
それでも1月6日、長女が学校に行き始めて2日目の朝に発熱して「喉が痛い」と。すぐにCOVIDセンターに連れて行くと、陽性と診断されました。他の家族は陰性でしたが、全員濃厚接触者ということで1週間の隔離生活を送っているところです。こうなると家でおとなしく過ごすしかありませんよね……。
長女は2回目の陽性です。彼女の病状を見ていると、やはり新型コロナウイルス感染症は「ただの風邪」というわけではなく、結構つらい思いをしています。モナコの学校ではクラスの半分以上が欠席し、先生が陽性というケースも珍しくありません。日本もじわじわと感染者数が増えているようですね。皆さんもくれぐれもお気を付けください。
そんな中ではありますが、今年の日本での仕事に関する打ち合わせを進めています。コロナ禍の状況次第ではどうなるか分からないものの、おかげさまで今年はかなり忙しそう……。4月から6月にかけて日本で過ごす予定ですが、すべての週末のスケジュールが埋まってしまいました。僕自身はイベントなどでたくさんの皆さんとコミュニケーションを取れるし、バイクに乗る機会も増えるしで、とても楽しみです。
そう!「バイクに乗る機会」と言えば、’21年までMotoGPを走っていたダニロ・ペトルッチが、ダカールラリー2022で大活躍を見せましたね。ステージ2をリタイヤしてしまい、総合順位での上位進出は難しい情勢のペトルッチですが、ステージ5ではなんと2番手でフィニッシュ。トップのライダーがペナルティを受けたことで、まさかのステージ優勝となりました。MotoGPで優勝し、ダカールラリーでステージ優勝を果たすとは、本当にすごい! ダカールラリーは1月14日がゴール。注目したいですね。
―― 2021年シーズンはテック3 KTMからMotoGPに参戦し、シーズン終了とともにダカールラリーへ。短い準備期間にもかかわらず高いポテンシャルを見せつけた。
オンロードでもオフロードでも活躍し、二刀流を見せつけてくれたペトルッチですが、海外のロードライダーたちは普段からオフロードライディングにも慣れ親しんでいるんです。バレンティーノ・ロッシはダートコースを所有していて若手の育成に取り組んでいますし、マルク・マルケスといえばダートトラックというイメージも浸透してきました。アンドレア・ドヴィツィオーゾのモトクロスライディングも有名ですよね。
「バイクのライディングに必要な筋肉は、バイクに乗ることでしか鍛えられない」というのが僕の持論。僕の現役時代は、シーズン中もシーズンオフも頻繁にテスト走行が行われていたのでとにかくバイクに乗る機会が多かったのですが、今は何かとテスト走行が制限されている時代です。サーキットを走る機会が減ってしまっているなら、気軽に乗れてトレーニングにもなるオフロードに意識が向くのも自然な流れだと思います。
ミニバイクやトライアルも勉強になる。排気量アップは慎重に!
トレーニングに関してはいろいろな考え方があり、どれが正解とは言えません。僕としては、自分がメインとするカテゴリーに関わらず、いろいろな乗り方をしたらいいんじゃないかと思います。オンロードライダーがオフロードライディングをするのもいいでしょうし、ミニバイクも練習になると思います。今、僕がハマッているトライアルも、すごくいい勉強の機会になるはずです。
―― 忙しくても合い間を縫ってトライアルの練習に。先生は全日本ライダーの本多元治さんだ。
オフロードは転倒がつきものですので、ケガをするリスクはあります。でもこれは僕の意見ですが、できるだけいろんなカテゴリーのバイクにとにかくたくさん乗ること自体が、最大のリスク回避になると思うんです。特に子供のうちからいろんなバイクをたっぷりと走らせて、いろんなライディングの引き出しを持つことは、いつか何かの役に立つ可能性がとても高い。
僕は趣味としてトライアルをやっていますが、足首のちょっとした角度の違いでトラクションのかかり方が違うことなど、発見だらけで楽しくて仕方ありません。それがオンロードで生きるかどうかは分かりませんが、バイクという乗り物の理解につながることは間違いないし、いつかセッティングやライディングに生かせるかもしれません。正直、「現役時代にやっておけばよかったな」と思っているほどです。
ただ、ひとつ言っておきたいのは、いろんなカテゴリーを経験するのはとても有効だと思う一方で、「排気量を上げるのは慎重に」ということです。排気量が上がれば、パワー、スピード、車重とすべてが増します。これを正しく扱うには、体格、体力、そして分別も必要になります。子供のうちからあまりあわてて排気量を上げてしまうと、体格、体力、分別が追いつかず、とても危険です。
子供はもちろん大人でも、例えばオンロードライダーがモトクロスをやったり、ダートトラックをやったり、トライアルをやるのもオススメします。でも、「排気量の小さいバイクであれば」という但し書きをつけたい。パワー、スピード、車重が高まることのリスクは本当に大きいので、子供も大人もそこは避けた方がいいと思います。
昨年末、桶川スポーツランドでのミニバイクレースに、現役Moto2ライダーの小椋藍くんが普通にエントリーしたようですね。ぶっちぎりで優勝したのもさすがですが、練習としてミニバイクに乗り、しかもレースをするというのは僕の現役時代にはなかった発想です。僕はいいことだと思う。
今のMoto2は、僕らの時代のようにファクトリー体制があって、自分専用のマシンを作ってくれるわけではありません。ほぼイコールコンディションに近い中、決して自分好みのマシンではなくても、どうにかごくわずかな差を生み、それを積み重ねて勝たなければならない。コンペティションのレベルはとても高まっていると思います。だから藍くんのようにシーズンオフにトレーニングとして小排気量のミニバイクに乗り、バイクに乗るテクニックを磨きながらレース勘も養う、というやり方は理に適っています。
繰り返しになりますが、トレーニングの方法論はいろいろあって、どれが正解かは分かりません。自分に合ったスタイルでトレーニングするのがベストでしょう。でも、ペトルッチのダカールラリーステージ優勝は、世界のトップライダーたちがいかにいろいろなカテゴリーのバイクに乗っていて、ライディングの引き出しが多いかを示しているのは確かです。
日本でも、やる気次第で同じようなトレーニングができるでしょう。僕は現役時代、バイクに乗ることが楽しいとは思えませんでした。プロとして結果を出すのがすべてだと、自分を追い込んでいたんです。でも今のライダーたちは、楽しみながらいろんなトレーニングをしている。こうやって時代はどんどん変わりながら、レベルアップしていくんでしょうね。
ずいぶんとプロっぽい話になってしまいましたが、現役ではない僕の今年の抱負は、改めてバイクを楽しむこと! 気の合うバイク仲間たちと笑いながら過ごしていると、ストレスも溜まりません。それって、健康に一番効くんじゃないかな。趣味を楽しむことは、人生に張りを与えてくれます。今年も仕事として、そして趣味として、バイクを楽しもうと思っています。
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みんなのコメント
昔の話にはなっちゃうけど2stがメインだった頃スーパークロスじゃ『125を制すものは世界を制す』とか言われてた