高速道路を走っている時などに、ふとクルマのスピードメーターに表示されている速度を見て、ほんとに正しいのかと、思ったことはありませんか?
また、アダプティブ・クルーズ・コントロールの設定速度が、例えば最新のスバル・アイサイトツーリングアシストの場合、メーターの誤差に対応し、115km/h(100km/h)だったのが、135km/h(120km/h)に変更されています。
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実測値の速度と、スピードメーターに表示される速度の誤差はどれくらいあるのでしょうか? また、インチアップなどタイヤサイズの違いによって、速度の誤差が出てくるのでしょうか? モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説します。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWEB編集部 Adobe Stock
(画像ギャラリー)【スピードメーターの誤差はなぜあるのか?】速度が高めに設定されている理由
車検でのチェックが基本
車検場ではスピードメーターが40km/hを指したらパッシングを行い、基準範囲の誤差であれば「○」が表示される
速度計の表示誤差は法律で規定され、車検でチェックされることは意外に知られていないかもしれない。
車検では速度計の表示設定を車軸の回転速度を車速計試験機によって計測、アナログ/デジタルの関係なく誤差が検査される。
具体的には、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(2016年6月18日施行)の第二節
第148条(速度計等)によると、以下のような規定となる。
10(V1-6)/11≦V2≦(100/90)V1
V1:スピードメーターの表示速度
V2:実際の速度
この規定は平成19年以降の生産車に当てはまり、車検では40km/hで速度計試験機によって計測して誤差が確認される。
この数値を数式で換算すると、40km/hをメーターが示している数値の許容誤差に収まる車速は、30.9km/h~42.55km/hとなり、およそ77~106%。
平成18年12月31日以前に製造されたクルマの場合は、これよりも少し緩くなって30.9km~44.4km/hとなっている。
どうやって車速を測っている?
クルマには、車速を計測する車速センサーがついているが、通常、この車速センサーは、トランスミッションの回転に連動する、ドリブンギアといわれる部分を介して装着してあり、トランスミッションの回転速度に比例したパルス(電気的な発信)を発生している。
その信号を利用し、スピードメーターの表示回路に情報を送っているのだ。トランスミッションから得られるパルス信号は、自動車のCPUによって演算され、車速度へと変換されるが、この演算には、ドリブンギアの歯数、パルスをカウントする演算割込み時間、デフ減速比、タイヤ外周長などの数値が使われている。
誤差の主な要因となるのはタイヤ外周
タイヤの外周が変わると速度計の誤差が生じるのでインチアップやインチダウン時には注意が必要
車速は、車軸(タイヤ)回転速度×タイヤ外周長(直径×3.14)で計算。例えば、スピードメーター上 40km/hで走っていても、空気圧不足や、摩耗により外周が10%減ると、実車速は36.0km/hに低下してしまう。
空気圧不足や摩耗によって、タイヤ径が10%も変化することは考えられないがこれらによって生じる「誤差」は、メーター表示に少なからず影響してくる。さらに、タイヤをインチアップやインチダウンしたりすると、スピードメーターの表示と実車速との乖離は、さらに大きくなってしまう。
一部の各タイヤサイズと実際の速度の関係を計算。215/40R18タイヤがメーター表示40km/hで、実際の速度も40km/hとした時の数値 。ほかのタイヤサイズのメーター表示が変わってくる
ベストカーが過去に行った谷田部のテストでも誤差が出た
2016年3月、GT-RをJARIテストコースで最高速テストを実施。メーター読みで301km/hを出したが、この時も計測器による実測値は292.19km/h
メーター読みでは301km/hを記録
注目は、スピードメーター表示が、実速度より低めの誤差については厳しく、逆に高めの表示の誤差については、甘い規定になっていること。言い換えると、スピードメーターは、実際の速度より高めに表示することを、法律で推奨していることになる。
それは実測テストでも明らか。2016年3月(2016年4月10日号)に高速周回路で行ったベストカー本誌の最高速テストではメーター読みで301km/hを出したが、この時も計測器による実測値は292.19km/hだった。
そのほか、過去、ベストカーが谷田部テストを行った際はメーター表示180km/hでも、小野ビットの数値は概ね165~170km/h程度。輸入車でも240km/hのメーター表示時に実測220~230km/h程度だった。
さらに、計器メーカーによれば「メーターの針を動かすモーターの精度を上げることにより誤差を少なくしている」とのことなので、最新のクルマでは法で定められた範囲より、誤差は少なくなってきているものと思われる。
自動車メーカーの見解は?
さらに主な日本車メーカーに訊ねてみると、実走行速度とスピードメーターの速度表示の誤差の設計値については、基本的な見解として「公表していない」「法規に従っている」との回答が返ってきた。
・トヨタ:「当社として公表できるような数値はございません」
・日産:「メーターの速度表示誤差は公表しておりません。国の定める法規に従って設計・開発しております」
・ホンダ:「いずれの車両も法令に従ったものになっております」
・マツダ:「法規により誤差の範囲が規定されているため、それに収まるよう設計しています」
・ダイハツ:「基本的には開示しておらず(以下略)」
・スズキ:「公表していないため、回答なしとさせてください」
このように、メーター表示数値と実走行速度に関する誤差は具体的な数値は「法律を遵守したうえで未公表」というコメントが並ぶことになったが、仮に車種ごとに変更されているのであれば、どのように変わるのかなどを確認したいところだ。
進むオートクルーズ上限速度設定の柔軟化
普段使いのうえでは、クルーズコントロール機能の速度設定機能などで車速を多少なりとも意識することが多い。高速道路などでスイッチの操作で5km/h毎などに速度設定できるこの機能は、多くのユーザーが慣れ親しんでいるはずだ。
クルーズコントロールを使用した場合の実走行速度とスピードメーターの速度表示の誤差についても付随的に訊ねてみたが、速度計誤差の問題で基本的に回答を得られなかった。
そこで日本メーカーに加えるかたちで、輸入車のフォルクスワーゲングループジャパン広報部に問い合わせてみた。
すると、速度誤差設定については、「サービスなどにも確認しましたが、設計公差までのデータは有していないとのことです」とのことだった。
また「正規サイズのタイヤを装着した状態での速度誤差は極めて少なく、アダプティブ・クルーズ・コントロールではこの自車速度と測定対象車等との相対速度、制動に必要な時間(実際にはクルーズコントロール使用時に安全範囲を担保した上で5段階の車間距離・時間調整が可能)などを、演算に必要なデータとして有効に作動する」とのことだった。
となれば、タイヤのインチアップ/ダウンする場合には、外径の変化を少なくするために、タイヤの購入時にタイヤメーカーのカタログなどでサイズを確認したほうがよいということになる。
クルーズコントロール設定速度の自主規制撤廃!
アイサイトツーリングアシストのACCは新東名の速度規制120km/hに合わせて、メーター誤差を鑑み135km/hまで設定できる
いっぽうで速度設定がらみの話では、現実のオートクルーズ機能が設定速度を含めて充分役に立つのかという議論については、どうやら収束に向かいつつあるようだ。
事の経緯を辿れば、2019年1月に警察庁は、新東名高速道路 新静岡IC(インターチェンジ)~森掛川IC、東北自動車道 花巻南IC~盛岡南ICで行っている規制速度110km/hの試行区間について、3月1日から現試行区間の規制速度を120km/hに引き上げると発表した。
警察庁は今回の試行で一定の安全レベルを確保できたと判断して、規制速度120km/hの試行を実施。
これを起因とするような交通事故実態や実勢速度の変化などを分析した上で、他路線・区間への拡大を検討するとしている
クルーズコントロール機能で誤差が広めに必要なのは、実際に路上を走るうえでは当然といえる。
以前のオートクルーズの設定上の最高速度が115km/h“だった”というのは、高速道路の120km/hという最高速度規制に準じたもので、かつての自動車メーカーによる“280馬力規制”がそうだったように、日本の自動車メーカーが“自主的”に実施してきたものだ。
最近ではADAS(先進運転支援システム)と呼ばれる、先行車追従型オートクルーズコントロールに関して、スバルのアイサイトは115km/hながら、同ツーリングアシストは新東名高速道路の最高速度120km/hに合わせて135km/hに設定されている。
実際の路上での先行車両の追随機能が高度化しており、現実には輸入車ではオートクルーズ機能において180km/hを超える車速設定が可能なモデルもあるのだから、融通を利かせてもよいだろう。
他の例としては、2017年3月に発表されたレクサスLCでは、設定速度の上限が日本国内の仕様として初めて180km/hに設定され、トヨタブランドとしては、同年7月に登場したカムリが180km/hと速度リミッターの作動域まで引き上げて設定されている。
このように、従来のクルーズコントロールが115km/hの設定上限のままでは120km/h区間では使いづらいことが明らかになったことで、自動車メーカーによる自主規制が自ずと用をなさなくなったといえる。
自動車メーカーがお上の要望で“自主規制”すれば、必ずグレーゾーンが発生することはいうまでもなく、自動車メーカーは肩肘張らずに“情報開示”してもよいのではないだろうか。いずれにせよ、ドライバーの速度選択については、自己責任であることは明らかなのだから。
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