わずか631台しか生産されなかったタルガ・モデルがオークションに登場
2025年8月13日~16日にアメリカ・モントレーで開催された「RMサザビーズ Monterey 2025」オークションに、希少な1974年式ポルシェ「911カレラ2.7タルガ」が出品されました。これはハイパフォーマンス911として伝説的存在の「カレラRS2.7」と同じエンジンを搭載した、生産台数わずか631台という希少な911タルガです。今回出展された個体は珍しいライムグリーンの外装と、丁寧なレストア履歴を持つ極上車。車両のあらましとオークション結果についてお伝えします。
ワーゲンポルシェ「914」に“高すぎる”評価?約半世紀前のオリジナル状態をキープした希少個体の価格とは
「カレラ」の本質がホモロゲモデルから量産型最上級モデルへと変化
ポルシェは1974年モデルとして、伝説的な「カレラRS2.7」の後継にあたる、911最上位モデルの「カレラ」を発表した。そのデビューは、911の新「Gシリーズ」ボディの登場と時期を同じくする。通称「ビッグバンパー」のとおり大型化された前後バンパーや、それに伴い短縮されたボンネットなど、そのほかのアップグレードが施された。
Gシリーズのカレラは、元祖カレラRS2.7と同じく、外観では幅広のフックス鍛造アロイホイールを装着するために拡大されたリアフェンダーが識別ポイントとなる。最大の特徴は、前モデルのカレラRSから継承した最高出力210psの2.7L水平対向6気筒「911/83」型エンジンと、ボッシュ製機械式燃料噴射装置(MFI)の搭載である。このプランジャー式のメカニカルインジェクションは、日本のポルシェ愛好家の間では「メカポン」と呼ばれている。
ただし、「ナナサンカレラRS」がレース用ホモロゲートモデルとしてのピュアスポーツ的なキャラクターを前面に押し出していたのに対し、1974年モデルの「カレラ」はパフォーマンスこそ1973年モデルに近いものの、911シリーズ全体の最上級モデルとして豪華なグランドツアラーとしての資質も兼ね備えていた。
ところが同時期に、カリフォルニア州から施行が開始されていた北米の新たな排ガス規制と燃費規制により、この2.7Lエンジン+MFIを搭載するカレラは、そのままのスペックでは米国への輸出が不可能となってしまった。翌年からは同じボッシュでもより近代的なKジェトロニック燃料噴射システム(だがチューニングは大人しい仕様)に換装した、北米専用のカレラが用意されることになった。
したがって、カレラ2.7L+MFIはアメリカにおいては「禁断の果実(forbidden fruit)」となり、さらに世界的に見ても希少モデルである。全ボディスタイルを合算しても、生産台数はわずか1633台に留まった。
とくに、911カレラとしては初めて設定されたデタッチャブルトップ仕様の「タルガ」は、わずか631台しか生産されていない。ポルシェが機械式燃料噴射装置を搭載して製造した最後のストリートカーであることも相まって、現在ではポルシェコレクターのアイテムとして珍重されている。
ライムグリーンの純正ボディカラーが希少性をさらに高める
今回RMサザビーズ「Monterey 2025」オークションに出品されたカレラ2.7L+MFIは、わずか2モデルイヤーの生産期間中に製造された、631台のタルガのうちの1台である。車両に添付されたメーカー発行のビルド記録によると、1974年1月1日にポルシェのツッフェンハウゼン工場で完成したとされている。
生産台数の少ない1974年モデルのカレラ タルガだが、さらに希少性を高める要素として、エクステリアは工場での生産時に、非常に珍しい「ライムグリーン(N8)」で塗装されていることも挙げられる。
新車時には「ブラウプンクト」社製カーラジオ、ポジションを高めた運転席シート、フォグランプ、ボディサイドのブラックの「Carrera」ロゴ入りストライプ、フロントフードのブラックストライプに「911」ロゴなどのオプションを満載して納車されたようだ。現在ではカーラジオとボンネットのストライプは取り外されつつも、その他の要素についてはオリジナルが保持されている。
1991年にはイタリアへ移送され、彼の地で30年を過ごしたのち、2021年にはローマの南郊にあるポルシェ・スペシャリスト「マロッコ・モータースポーツ」社に依頼し、包括的なレストアが実施された。
レストアの完成後まもなく、著名なドイツ人コレクターに売却されたものの、その所有期間中は極めて控えめに使用された。その結果、このカレラ2.7タルガは現在も極めて良好な状態を保っている。今なおナンバーマッチングエンジンを搭載し続けていることも、この個体の価値を確定する重要なトピックといえる。
生産台数の少ないメカポン時代の価値の高さを証明
RMサザビーズ北米本社は、今回のオークション出品に際して作成した公式カタログにおいて
「内外とも、驚くほど良好な状態を保つこの911カレラ2.7L+MFIは、間違いなくオークションに登場する同型・同年式車のなかでもっとも魅力的な1台であり、目利きのポルシェコレクターにとっても魅力的だ」
と謳った。
この「メカポン」カレラ2.7タルガに対する確たる自信を裏づけるような、25万ドルから30万ドル(邦貨換算約3680万円から4415万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
そして迎えた8月16日のオークション最終日。対面型競売ではジリジリと入札が進み、最終的にはエスティメートの上限を突破する30万2000ドル(邦貨換算約4450万円)で、競売人のハンマーが鳴らされることになった。
ちなみにここ数年の国際マーケットにおいて、3L+Kジェトロニックとなった1976年以降の911カレラは、比較的高価なものでも15万ドル前後あたりで推移している。それと今回のハンマープライスとを比べると、メカポン時代の911カレラが、いかにポルシェ愛好家の心をつかんでいるかを示す、ひとつの証となっている。
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みんなのコメント
もう何でもが投機対象になってくると、おかしなのが増えてくるのは世の常ですから。