三菱ふそうトラック・バスは、2019年10月24日に開幕する「東京モーターショー 2019」で、 前のクルマに自動で追従し、ハンドル操作もアシストするSAE
(Society of Automotive Engineers=アメリカ自動車技術会) レベル定義「レベル2」相当の自動運転機能を搭載した大型トラック「三菱ふそう スーパーグレート」を披露し、今秋に発売することを明らかにした。バス・トラックとしての対応は国内初となる。
高速道路での死亡事故は2019年1~6月のデータでは大型車が7割近くを占めており、また 2012~16年の大型車が関係する死亡事故は1071件発生しており、そのうちの36%が工作物衝突、追突、すれ違いなどによるものだ。
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はたして、自動運転レベル2のシステムを大型トラックに搭載することで、悲惨な事故は減らせるのか、高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸(自動車テクノロジーライター)
写真/ベストカーWEB編集部 三菱ふそうトラック・バス
【画像ギャラリー】三菱ふそうスーパーグレートの自動運転レベル2詳細
トラック・バスとしては国内初の自動運転レベル2を実現
写真は2017年型三菱ふそう・スーパーグレート。自動運転レベル2を搭載したスーパーグレートの写真は公開されていない
スーパーグレート2017年型のコクピット
2019年型のスーパーグレートに搭載されるADA(アクティブ・ドライブ・アシスト)はトラックとして日本初のレベル2高度運転支援を実現する核となるシステム。従来のオートクルーズ機能「全速度域対応プロキシミティー・コントロール・アシスト」に加えて電動モーター付油圧式パワーステアリングを導入することでアクセル・ブレーキ・ステアリングを制御する事が可能となり、レベル2高度運転支援に相当する運転支援機能を実現させた
日産スカイラインがプロパイロット2.0を搭載して話題となったが、2019年10月24日から開催される東京モーターショーでは、もう一つの自動運転が現実のモノとなる。
三菱ふそうが大型トラックのスーパーグレートにレベル2の自動運転を搭載することを発表するのだ。これはトラック、バスとしては日本初だ。
これまでACCは搭載されても、ステアリング機構の支援はなかっただけに、この進化ぶりは大きい。
トラックで操舵支援が実現されていなかったのは、乗用車と違い大型トラックの場合、操舵輪を転舵させるには大きな軸力が必要で、制御によって自動で操舵できるEPS(電動パワーステアリング)では軸力が足りず、従来の油圧パワステを使い続けなければいけない状況だったからだ。
しかし油圧パワステをEPSでさらに操舵するというハイブリッド的発想で、自動車メーカーやサプライヤーは、この問題を解決させつつある。
乗用車に後れを取っていた商用車の自動運転技術だが、人手不足や物流の取扱量の急増ぶりを考えると、大型トラックこそ自動運転の実現は急務だったといえるのだ。
現在も高速道路上では大型トラックの隊列走行など、自動運転による省人力化を目指した実証実験が行なわれている。そしてレベル4の自動運転機能を搭載した大型トラックも全米を走破するなど、急ピッチで開発のための実験走行が繰り返されているのである。
大型トラックやトレーラーが第一当事者(事故の主たる原因を作ったドライバー)である交通事故は6453件(平成30年 警察庁交通局調べ)と、ここ10年で半減しているが、高速道路上に限って言えば906件と2割強しか減っていない。
しかも重大事故化しやすい性質であることを考えると、その対策として自動運転技術の導入が大いに期待されているのである。
大型トラックで自動運転を実現することの難しさ
2019年6月、レベル2の自動運転システムを搭載した大型トラックの新型メルセデスベンツ・アクトロスの最終テストを完了したと発表。部分自動運転を可能にするのは「アクティブ・ドライブ・アシスト」。アクティブ・ドライブ・アシストは、定速走行と車間距離制御装置をベースに開発された。ストップ&ゴー制御機能や車線維持アシスト機能を備えており、ドライバーの負担を大幅に軽減
新型アクトロスのメーターパネル
乗用車と比べ車体が大きい大型トラックは、道路に対する余裕がないため、制御のすべてが乗用車より高度なレベルが要求される。
三菱ふそうと同じダイムラー傘下の一員であるダイムラートラックでは、大型トラックのレベル2自動運転開発のために世界中で500万kmもの走行テストを行なったそうだ。そこで得られた膨大なデータは、中央の開発部門が自動運転の制御を煮詰めるために使われている。
日本でも三菱ふそうが100万kmの走行テストを実施しており、そのデータは前述のダイムラーの開発部門に送られた。そうしてレベル2の自動運転技術が開発されたのだが、さらに日本の道を走るために三菱ふそうが独自のチューニングを施す必要があったそうだ。
日本の高速道路は欧米と比べ、道路幅が狭く、レーンキープアシストの制御がよりシビアになる上に、歩道橋や電柱などの障害物も、全高が高く車幅も大きい大型トラックでは乗用車よりもセンサーやカメラが反応しやすく、開発当初は苦労したらしい。
それを考えると、大型トラックのドライバーがいかに運転が上手く、長時間の運転で神経をすり減らしているかが分かろうというものだ。
自動運転はできても居眠り運転は防止できない!
高速道路上で起こる大型トラックによる悲惨な交通事故として、渋滞の最後尾に居眠りやわき見運転の大型トラックが突っ込んで玉突き衝突事故を起こすケースがある。レベル2の自動運転が導入されることにより、こうした事故はなくなるのだろうか。
すでに販売されているスーパーグレートでも、メーターカウル部分に組み込まれた赤外線カメラでドライバーの視線や瞬きをモニタリングして居眠りを警告する機能を搭載している。
しかし、警告は単なるブザーと警告灯による表示だけで、それが覚醒を促してくれる効果はそれほど期待できない。休憩する目安としては有効だが、それ以上の効果は望めないのが現状だ。
レベル2の自動運転を搭載しても、この分野の機能は大きくは変わらない。ステアリングを握っていることは、EPSのトルクセンサーによって検知できるが、そのまま居眠りしてしまったら警告は出るものの、それがドライバーを起こす効果は限定的だ。つまり、居眠り運転を防止することはできない。
スカイラインのプロパイロット2.0では、居眠り運転してしまったら路肩にクルマを寄せて停止する機能が盛り込まれているが、スーパーグレートのレベル2ではそういった機能はなく、警告を発しながらも走行を続けてしまうようだ。
その理由の一つに、大きく重い大型トラックでは車線変更などの制御は難しいということがある。
日本での自動運転の開発を統括した、三菱ふそうトラック・バス 開発本部 エンタイヤビークル開発統括部長の恩田実氏によれば、特に乗用車が近付いてくるような状態では、車線変更などの可否やタイミングを判断させるのが極めて難しいそうだ。
ドライバーが操作するのと同様に急ハンドルは横転の危険もあり、さらに大型トラックは高速道路の制限速度は80km/h、また90km/hでスピードリミッターが作動する関係で、乗用車とは速度差があるため車線変更の際、後方から近付いてくる車両を検知して安全に車線変更をさせるのは相当に難しいのである。
居眠りは防止できないが、追突事故は減らせる!
2011~2018年の高速道路上での死亡事故データを見ると、いずれの年も大型車が最も多く概ね7割を占めている(出典/ 公益財団法人交通事故総合分析センター )
では居眠り運転をした場合、そのまま走行を続けてしまう危険性をどう考えているのか、恩田氏に質問してみた。
「確かに、居眠り運転を防ぐことはできません。しかし、これまでは居眠りをしてしまったら、かなりの確率で衝突事故を起こしてしまいました。
しかし自動運転技術を導入したことで、たとえ居眠り運転をしてしまっても、前走車に追突する可能性は格段に下がります。そして車線逸脱をして壁などに衝突することも無くなる。これだけでも従来より大幅に衝突事故を起こす確率は下げられるのではないでしょうか」。
居眠り運転は防止できないことを認めた上で、これまでの大型トラックによる重大な交通事故は、かなり減らせるという見解を示してくれた。
あくまでドライバーが運転の主権を握るレベル2の自動運転では、労力は軽減出来ても運転中は気を抜けないのだが、自動運転の導入により運転に余裕ができることで油断したり、居眠りを誘発しやすくなる危険性もある。それによって、新たな種類の交通事故が起こる可能性も出てくるのだ。
現在も運輸会社によっては、ACCすら居眠り運転を誘発するとして使わせないところもあるほどだ。ちなみに今回のレベル2の自動運転もスーパーグレートにはオプション装備として用意される予定だ。
残念ながら一気に交通事故ゼロを実現できるような飛び道具のような技術は、現時点では存在しない。
ダイムラートラックは、レベル4の自動運転は2025年には搭載すると明言しており、それが叶えば、高速道路上での大型トラックの衝突事故は大幅に減少するだろう。
それでも居眠りによる追突事故は、レベル2の自動運転が普及することで確実に減少する。さらに導入によってドライバーの就労環境が改善されるなら大歓迎だ。
恩田氏は、日本国内の大型トラックが関係する死亡事故件数は、2012年~2016年に1071件発生していることを紹介。このなかの事故分類で、全体の36%となる「工作物衝突など」「追突など」「すれ違いなど」といった要因については、レベル2の高度運転支援技術の導入で軽減可能である考えを示した。
全体の36%にあたる、工作物衝突や追突、すれ違いといった事故が軽減可能だという
しかし、運転の負担が減るため「少しくらい無理して運転しても大丈夫」と、さらにドライバーが過労状態に陥ってしまう危険性も潜んでいる。
より厳格な運行管理システムの構築と、運輸会社だけでなく荷主や荷受け側も、適正な料金や余裕のある時間設定など、安全で確実な輸送のために物流業界全体で努力することが必要だろう。
【画像ギャラリー】三菱ふそうスーパーグレートの自動運転レベル2詳細
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