なぜ「棲み分け」が最適解なのか? キアPV5の戦略
韓国の自動車メーカー、キアが2026年春に日本市場へ導入するのが新型EVバン「PV5」です。このたび東京ビッグサイトで開催された「ジャパン・モビリティ・ショー(JMS2025)」で実車が披露されました。
同車は単なる新型ではなく、キアが提唱する「PBV(Platform Beyond Vehicle)」、すなわち「クルマを超えたプラットフォーム」構想の中核モデルに位置付けられます。すでに双日を総代理店とする「Kia PBVジャパン」も設立され、初年度1000台の販売を目指します。
結論として、PV5は商用バンの絶対王者であるトヨタ「ハイエース」の市場を正面から奪うのではなく、「電動化」「多用途化」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という新しい価値で異なる需要を開拓し、両者の棲み分けを図る戦略です。
ハイエースは1967年の登場以来、累計750万台以上を生産し、高い信頼性とリセールバリュー(3年後約70~80%)で地位を確立しています。
PV5はこの牙城に挑むのではなく、特定ニーズを深掘りして共存を目指しているのです。では具体的に、どこで棲み分けるのでしょうか。
積載性、コスト、想定用途の3点から見ていきます。
まずは「積載性」です。ひとことで言えばハイエースは「量」、PV5は「効率(低床)」と形容できるでしょう。
PV5のボディサイズは全長4695mm×全幅1895mm×全高1923mm。ハイエース(標準ボディ)の全長4695mmと同等ですが、PV5のホイールベースは2995mmと425mm長く、直進安定性に寄与する一方で最小回転半径への影響が考えられます。
全幅はPV5が1895mm、ハイエース標準ボディ(1695mm)比で約200mm広く、またハイエースワイドボディ(1880mm)よりも15mm広く、都市部の狭い道路では取り回しに配慮が必要です。
荷室容積はハイエース(6.2~9.3立方メートル)に対し、PV5は4.0~5.1立方メートルで見劣りします。ただしPV5は床面高が399~419mmと低く、重い荷物や頻繁な積み下ろしを伴う都市内配送では作業負担が軽減され、効率向上が期待できます。
大量・長尺物の輸送には、依然としてハイエースが優位です。
比較で見える「棲み分け」のポイント
ではコストはどうでしょうか。この点については「導入・残価」のハイエース、「運行費」のPV5と言えそうです。
ハイエースの価格帯は244万9500円~450万1200円。PV5の予測価格は500万~600万円(補助金適用前)と高めですが、BEV(バッテリー電気自動車)向け補助金(最大90万円)を活用すれば実質410万~510万円まで縮まります。
PV5の最大の経済的メリットは運行コストです。電費は一般にディーゼルより有利で、計画的なルート配送やフリート運用ではランニングコスト低減が導入の決め手になり得ます。一方、初期導入のしやすさや高い残価を重視する場合、ハイエースの優位は揺らぎません。
最後の用途と信頼性に関しては、ハイエースが「全国・高負荷」、対してPV5が「都市部・計画運用」になるでしょう。
PV5は最高出力120kWのモーターを搭載し、航続距離は概ね377~528km、急速充電にも対応します。充電インフラが整う都市部や、環境規制への対応が求められる企業用途に適性があります。
モジュール式設計により最大16種類のバリエーション展開が可能で、移動オフィスや各種特装など多用途化にも向きます。
対するハイエースは、ガソリン/ディーゼルの長い航続と給油の容易さ、50年以上の実績に基づく信頼性、全国規模の整備網が強みです。長距離輸送、建設現場などの高負荷、地方での運用ではハイエースが光ります。
PV5の登場は、ハイエース一強の市場に新たな選択肢をもたらします。両車は競合ではなく、それぞれが得意分野で棲み分けることで、多様化する日本の商用車ニーズに応えていくはずです。
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