セダンが売れない。
90年代後半以降、ミニバンやSUVのいち早いブレイクもあって、その販売台数が目に見えて縮小してきた日本市場においては、これは昨日今日の話ではない。
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が、この流れはとうとう世界的なものになりつつある。
かつての経済成長期の日本がそうであったように、自家用車における王道のスタイルは独立したトランクを持つセダンであり、ハッチバックスタイルは商用車のもの……とされていた中国でも、近年は主たる需要はコンパクトカーやSUVに向くようになった。
主にセキュリティの面からセダンのトランクルームが重用されてきたアメリカでさえ、フォードが2020年までにセダンのラインナップ廃止を明言するなど、ユーザーの嗜好が大きく変わりつつある。
世界2大市場がこの様相では商機を半分近く逸しているのも同義なわけで、セダンのビジネスはますます難しくなりつつある。もはやそれは体裁を気にする守旧的な選択なのかといえば、日本市場などは政治家や企業幹部の乗るショーファードリブンさえミニバンに置き換えられているのが実情だ。
だったらとっととリソースをSUVなりに振り分けちゃえばいいという合理的な考え方もあるだろう。でも自動車メーカーは今でもセダンをクルマづくりの本流に据えている。セダンできちんとした空間構成や動的質感の構築が出来なければ、そのアーキテクチャーを活用するSUVもミニバンも成り立たない……と、そういう建前もあるが、多分にそれはセダンきっちり作れてこそ一人前というエンジニアの職人的な本音も影響しているようにも見える。
FF+ハイブリッドが売りの新型ES
たまたま計画時期が重なっただけの話かもしれないが、この1年ばかりで、トヨタはブランドの主軸たるセダンを次々と全面刷新している。今や同社の世界戦略における最重要車種であるカムリを皮切りに、今年に入ってからはクラウンやセンチュリーといった国内のフラッグシップも相次いでフルモデルチェンジを受けた。
トヨタブランドを背負って立つイニシャルCたちが軒並み変わりゆく中、レクサスブランドのセダンも変革の時を迎えつつある。その象徴となったLSに次いで登場したのが新型ESだ。日本では馴染みのない名前かもしれないが、アメリカや中国といったビッグマーケットでレクサスの販売の中核をなすESは、この新型から日本や欧州市場への初投入が決まっており、合わせて90カ国以上での展開が予定されている。これはプレミアムセグメントのレクサスにおいてはSUVのRXと並び、最大級の市場カバレッジになるわけだ。
レクサスがここにきて日欧という成熟市場へのES投入に踏み切った理由はいくつか考えられる。ディーゼルへの逆風が強まる一方で、ハイブリッドの再評価が広まる欧州市場においては、ESはかつてない商機を迎えているといえるだろう。
ISやGSといったこれまでのセダンにもハイブリッドは用意される。こちらは、ライバルたるプレミアムセグメントのドイツ勢と車格から駆動方式(FR)までガチンコであったのに対して、ESはFFプラットフォームベースということでスペースユーティリティはドイツ勢に対し決定的に有利だ。
すなわちESはハイブリッドという社会性にくわえて、ほかを圧倒する広大な居室と荷室という機能性をもって、プレミアムセグメントで勝負に挑もうとしているわけだ。
駆動方式は気にしない方がいい
静的質感や装備はさすがにLS同然といかずとも、充分に今のレクサスを代弁できるクオリティは備えている。代わりにというのもなんではあるが、トランクルームは文句なくLSよりも広い。個人的な予想になるが、恐らく500~700万円辺りになるであろう価格帯に、直接的なライバルは意外と少ない。
クルマ好きにとって興味深いのは動的質感、特にFFということでドライブフィールがどのように仕上がっているのかということだと思う。この点においてはカムリと同系のまったく新しいアーキテクチャーの採用により重心高やサスペンション設計が最適化されていることもあって、そのネガはほとんど感じられない。必要十分なパワーが上品にアウトプットされるハイブリッド特有の穏やかな特性もあって、ステアリングに伝わる不快な振動や反力といったFFならではの癖、いわゆるトルクステアの類は無視できる範疇だ。
そしてESはカムリよりも長いホイールベースを有しながら、ワインディングもまったく苦手としない。その巨体をもってしても4輪操舵などを用いることなく、自然で軽快な操縦性を味わえるように骨格から丁寧に設計された成果だろう。ESでは機械式か電子制御式か、いずれも凝ったダンピングシステムがグレードに応じて与えられるが、これはむしろ低中速側のしっとりした上質な乗り心地に寄与している。
成熟したユーザーを抱える日欧の市場においては、高級セダン=FRというイメージはいまなお根強い。が、パワートレーンの電動化を筆頭に、今後余儀なくされる先進技術搭載への柔軟性を加味すると、ドライブシャフトを前後に貫通させるFRは空間効率がよいとはいえず、少数派になることが見通せる。そうした趨勢のなかでESが、時流に合ったサルーンとして世の中に受け入れられれば御の字だ。レクサスのラインナップのなかでESに託される使命は決して軽いものではない。
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