フジエクスプレスで臨時運転士として乗務する記者のバス運転士日誌は、2年目になった記者が遭遇したそれはもう恐ろしい体験を披露する。べつに夏だからといって怪談話をしようというわけではないので、そこは安心していただきたい。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
【画像ギャラリー】【バス運転士日誌】なぜ記者が対象に!添乗監査ってなんだよ?(9枚)
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■脳が疲れている時間帯に限って…
記者が運転できる範囲は路線バス2路線と企業契約のシャトルバスだ。最近では何となく路線バス好きをアピールしているので、路線バス2路線を中心に仕業が組まれているような気がしている。その2路線とはこれまで多くの記事で取り上げた芝浦港南ルートと芝ルートである。
その日は朝ラッシュ時のシャトルバスを運行して、営業所に戻った後に芝ルートを運行するという複合仕業が組まれていた。この仕業に当たれば拘束時間は14時間におよぶ。しかし何度も書いたが、フジエクスプレスの乗合運転士に限ってはハンドル時間制ではなく拘束時間制なので。昼休みの1時間だけは無給だが、他にどれだけ待機や休憩があっても賃金が支払われる。
しかし14時間勤務はなかなか骨が折れる。休憩はあるので身体的に疲れるというよりも、営業運転には非常に気を遣うので、脳が疲れるような気がする。しかし、この日は脳が10倍くらい疲れる事案(あくまでも記者目線での話)が発生したのである。
■芝ルート新橋駅にて
芝ルートは田町駅近くの港区の施設であるみなとパーク芝浦を起点として、日比谷通りを中心線としてウネウネと路線が引いてあるルートで、新橋駅が終点である。運転士の交代はすべてみなとパーク芝浦で行われ、運転士の休憩所もこの付近にある。
一方の終点である新橋駅ではほとんどのダイヤで折り返し便として出発する。一部のダイヤは終点到着後に回送で入庫というのもあるが、概ね6分から20分弱の余裕を持たせて折り返しダイヤが設定されている。
定刻で新橋駅に到着できればダイヤ通りのインターバルが発生するので、その間にトイレを済ませたり一服したり、水分補給をしたりと、小休憩として利用できる。これができないと往復で約2時間が無休憩になりトイレに行けなくなるので困るが、最後の新橋駅までの数停留所間のダイヤに余裕があるので多少遅れていても新橋駅では定刻に到着できることが多い。
この日も、10分少々の折り返し時間を利用して港区の公共トイレと同喫煙所で缶コーヒーを飲みながら小休止して、いつも通りにバスに戻りドアを開けてバス停の既定の場所に付け直す。そのダイヤでの担当車両はEV車で、ディーゼル車ではエンジンを切って休憩するが、EV車は起動に時間がかかるため電源を入れたままで休憩する。別にアイドリングで排ガスが出るわけでもないので、それで構わないのである。
■普段は乗客は少ない
新橋駅から乗車する乗客はあまりいない。バス停の位置や路線が港区民以外にはあまり知られてないこともあるが、むしろ地図アプリでちぃばすが経路として出てくるので、外国人観光客が行先を確認して乗車するケースの方が多いくらいだ。そんな感じの始発停留所で所定の発車時刻を待ちながら乗車ドアを開けていると、突然「添乗監査」と書かれた紙を広げた人が乗り込んできた。
よく見るとフジエクスプレスの藤森常務取締役である。そんな紙を振りかざして監査といわれても、「聞いてねえよ!」である。もっとも告知されていたら色々と「対策」をされてしまうので監査にならないことくらいは記者も瞬時に理解はできた。しかし、だ。
なぜ山ほど運行しているバスの中で記者が運行する路線の便が選ばれたのか。狙い撃ちなのか、何かやらかしたからなのか、2年目の運転士は事故惹起(じゃっき・ネガティブな意味での事態を引き起こすこと)者が多いことは統計が示されているのでそのためなのか。いずれにせよ、これは後日明らかになる。
■さぁどうするかね
案の定というか、通常通りというか、新橋駅からの乗車は件の常務一人だけで、始発停留所を発車することになった。いずれにせよ、夕方の時間帯に差し掛かろうとしているので、途中停留所での乗降は多く小型車ではパンパンになるだろう。
それよりも、添乗監査なんて経験がないのでどうすればよいのか。常務がどこで下車するのかもわからない。むしろそんなことを考えるよりも、普段通りに運転してそれを見てもらう方が監査としての効果があろうというものだ。
そこで、覚悟を決めて(普段よりは)気を付けつつ、いつも通りの運転と案内や接客を行い、自信を持って運転することに決めた。決めたからにはあとは普段通りである。常務が乗っていようがいるまいが関係ない。早発だけはしないようにと思っていたのだが、乗客が増えるごとに最大3分の遅れが生じていたので、結果として早発の心配は無用だった。
■終点到着!
ちなみにフジエクスプレスでは遅延については一切のお咎めや言及はない。法令で禁止されている早発さえしなければ遅延は仕方がないし、むしろ急ぐことによる事故誘発のリスクを避けるためにも遅延は気にしないようにと言われる。
よって3分遅延したまま終点のみなとパーク芝浦に到着したが、結局常務は終点まで乗車していた。交代のために下車した記者に常務は「後日、監査結果を書面で運行管理者を通じてお知らせします」との言葉を残して添乗監査は終了したようだった。緊張しなかったと言えばうそになるが、結果はどうであれ自信を持って普段通りの運転をすると決めて挑めんだので悔いはない。
■なぜ記者が選ばれたのか?
後日の勤務日で、到着点呼の際に件の書面が手交された。なるほど、こういう仕組みになっていたのかと思いつつ、評価結果を見た。道路交通法上問題がないと言われたが大きな指摘事項が2点、そして基準外の評価事項が1点あり、指摘事項は再認識するとともに評価事項には素直によろこんだ。
さて、なぜ記者の便が監査対象に選定されたのか後日、常務に直撃してみた。常務の回答は「いやー、よく考えたら古川さんの実車に乗ったことがなかったと思いましてね。ちょうどその日の仕業を見ていると古川さんが乗務していたので、ダイヤを見てそれに合わせて組みました」記者「それだけですか?」常務「はい、それだけですが?」
実際には定期的に監査を実施してまんべんなく多くの運転士の運転を監査するのは分かっているのだが、そういう決め方は勘弁してくださいよ~、という笑い話で終わった。よって、記者がやらかしたとか、苦情が殺到していたとか、危険でヤバいやつとか、そういう理由ではなく多くの運転士を監査する中の一人だったということで万事解決だ。
どの事業者でも運転士に対する監査というのは形は異なれども実施しているのだろうが、いつ乗り込んできても自信を持って運転できるように普段から安全運行には努めたいものである。そして乗客となる読者の皆さんには、運転士は社員であろうがバイトであろうが等しく定期的に運転のチェックを受けていることを知っていただき、安心して乗車していただければ幸いだ。
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みんなのコメント
会社に貢献度の高い人(笑)は高評価で末端の運転士は良くても普通評価しか貰えない
某トーkyーバスOBのボヤキ
前者なら、年功が長いと見ただけでわかるのでサービス監査になる。