現行型で4代目モデルとなるホンダフィットと、三世代続いたヴィッツを経て車名を「心機一転」とばかりに変えたトヨタヤリスは、それぞれ2020年2月登場という同級生のコンパクトカーである。
しかし、それぞれの今年8月までの月平均の販売台数はフィット/約4500台、ヤリス/約8500台と、2倍近い差が付いている。
販売台数だけを見るとヤリスの圧勝なのは一目瞭然だが、ここでは「ファミリー&普通の人が買うなら」という観点を中心に、改めて2台を比較してみた。
文/永田恵一、写真/HONDA、TOYOTA
[gallink]
■2台の概要
●フィット
2020年登場の現行型ホンダ フィット。広さを武器にファミリーカーとしても使えるコンパクトカーだ
フィットは現行モデルも「通常リアシート下に置かれる燃料タンクを車体中央に移動するというセンタータンクレイアウトを基盤にした広さを武器にした、ファミリーカーとしても十分使えるコンパクトカー」というコンセプトは不変である。
現行モデルはベースとなるBASIC、中核となるHOME、アクティブな雰囲気を持つNESS、ラグジュアリーなLUXE、クロスオーバーのクロスターという5つのキャラクターに加え、ホンダアクセスが手掛けたスポーティなモデューロXも設定。
パワートレーンはCVTと組み合わされる1.3リッターガソリンと、巡行中の燃費低減に貢献するエンジン直接駆動モード付1.5リッター2モーターシリーズハイブリッドの2つだ。
●ヤリス
同じく2020年登場の現行型トヨタ ヤリス。慣れ親しんだ「ヴィッツ」の名から改名するとともにコンセプトも一新された
ヤリスは「リアシートなど広さはそれほど重視していないド真ん中のコンパクトカー」というポジションはヴィッツ同様だが、車名を変えただけあってコンセプトは「上級車に近い機能を持つ、誰も欲しがるクラスレスなコンパクトカー」という前向きなものに一新された。
それだけに機能面は後述する充実した機能が揃う安全装備など、クルマにこだわりがある人でも満足できるものとなっている。
パワートレーンはCVTと組み合わされる1リッター3気筒ガソリン、CVTに加え6速MTの設定もある新開発の1.5リッター3気筒ガソリン、1.5リッター3気筒ガソリンエンジンとの組み合わせや細かな改良の積み重ねにより動力性能と燃費を高次元でバランスさせた2モーターハイブリッドの3つを設定する。
■走り、燃費
1.5リッターガソリン車は若干ノイジーではあるが、加速感やハンドリングなどスポーティーな走りが楽しめるヤリス
ここからはフィットを基準に2台を比較していく。フィットは動力性能、ハンドリング、乗り心地など、「飛び抜けたところもないけど、大きな不満もなく、いい意味で普通」という印象で、全体的に堅実なまとまりだ。
ヤリスは1.5リッターガソリンはちょっとノイジーなところはあるが、クルマ好きなら「エンジンの存在感」と受け入れられる点や、ハイブリッドのモーターの力強さによるクルマをグイグイ引っ張る加速感、シャープなハンドリングなど、全体的にスポーティだ。
実用燃費はハイブリッド同士でフィット22km/L、ヤリス28km/Lといったところで、絶対値が高いだけに決定的な差ではある。しかし、後述するフィットの広さ(≒運べる量、できること)を考えれば、納得できる範囲とも言える。
■自動ブレーキ、運転支援機能
メーカーオプションとなるが、上級クラス車並の安全装備が設定されるヤリス
フィットは夜間の歩行者にも対応する自動ブレーキや、停止まで対応する先行車追従型のアダプィブクルーズコントロール(以下ACC、電動パーキングブレーキによる停止保持機能付)を持つなど、現代のクルマに求められる水準を大きく上回る自動ブレーキ&運転支援機能を備える。
点数を付けるなら日本車全体で見て85点、コンパクトカーなら93点というイメージだ。
対するヤリスは、夜間の歩行者対応はもちろん、右直事故にも対応する自動ブレーキ、ACCも今年5月の一部改良モデルから停止保持機能こそないものの停止まで対応と、フィットを上回る。
さらにメーカーオプションで、実用的に使える性能を持つアドバンスドパーク(自動駐車機能)、斜め後方を監視し、進路変更の際の事故防止に役立つブラインドスポットモニタリングを設定するなど、自動ブレーキ&運転支援システムは400万円級のモデル並だ。
そのため、点数を付けるなら日本車全体で見て90点超え、コンパクトカーなら100点というイメージだ。
■インテリアはどっちに軍配がある?
小柄な車体ながら、乗り込むとクルマの大きさが変わったかのように錯覚するほど車内にゆとりを感じるフィット
フィットはアップライトなポジションで、デジタルメーターや2本スポークのステアリング、仮のもの的となる細いAピラーによる前側方視界の広さなど、未来的な雰囲気も持つ。
ヤリスはオーソドックスで、ポジションも低めでスポーティと対照的だ。
フィットのラゲッジスペースは後席のシートアレンジ次第で様々な大きさの荷物に対応できる
フィットは歴代モデル同様、リアシートに2人が乗って、ラゲッジスペースには4人で旅行に行く際などのそれなりに大きな荷物が収納可能と、コンパクトカーながらミドルクラス級の広さを持つ。
また、リアシートを倒せばラゲッジスペースとフラットになる点や、リアシートの座面を跳ね上げれば高さのあるものも運べるモードなど、シートアレンジも豊富だ。
ヤリスのリアシートは「長時間はあまり乗りたくない」と感じる広さで、ラゲッジスペースもそれなりに大きい4人分の荷物を積むのは無理と、3人+荷物までで使うクルマというイメージだ。
そのため、リアシート&ラゲッジスペースに関しては、コンセプト通りフィットの圧勝だ。
オプションで回転シートを用意するなど、あると嬉しい『気の利いた』装備が用意されているヤリス
特に目立つものはなく質実剛健なフィットに対し、ヤリスは必要性などはともかくとして乗降が楽になる回転シートのオプション設定や、乗降の際に運転席を下げてもドライビングポジションを記憶してくれる機能など、前向きさや明るさを感じる機能も用意している。
■グレード体系
フィットはガソリン車が1.3リッターというのは、ヤリスが1.5リッターなのを見ると弱みと言えば弱みかもしれない。
ヤリスは1リッターの設定が「街乗りがほとんど」という人には地味ながら強みになっているのに加え、1.5リッターガソリンのMTはモータースポーツなどのベース車という存在感、存在意義を持つ。
■価格
それぞれのハイブリッドの量販グレード同士で比べると、フィットハイブリッドHOMEはLEDヘッドライトなども付いて211万7500円、ヤリスハイブリッドGはLEDヘッドライトがメーカーオプションで213万円と、装備内容に加え広さも加味したらフィットはリーズナブルだ。
■結論
ファミリーや普通の人向けとなるとやはり広さが大きな決め手となり、フィットの総合力に軍配が上がる
コンセプト通りの結論ながら、特にファミリー&普通の人向け(≒万人向け)という見方になると、広さを決め手にやはりフィットの総合力は高く、フィットの勝ちである。
この結論はトヨタ自体が想定しているものではないだろうか。
それだけに、そもそもフィットの直接的なライバルとなるのはハイブリッド専用車で広さ重視のコンパクトカーとなるアクアとノートだろう。この3台を見ると、アクアとノートにはフィットより常にモーターの存在が強い加速感などのアドバンテージもある。
しかし、アクアはフィットほど広くない、ノートはカーナビや運転支援システムを完備すると高い、といった弱みもあり、やはりファミリー&普通の人向けとして総合的に考えるとフィットがナンバー1だと思う。
■フィットはなぜ売れない、まとめ
逆の考え方をすると、ヤリスがフィットに水を開けられているのは『広さのみ』ともいえる。圧倒的な販売台数の差がそれを証明している
最後にこれだけ総合力が高いフィットなのに、名前が挙がった中で一番売れていない理由を考えると
●アクアは以前から、ヤリスは現行モデルからトヨタ全ディーラーで売っている
●フィットはスタイルの好みが分かれる
●ヤリスに比べて地味で華がない
フィットの魅力や、コンパクトカーは「普通に使う人がほとんど」というのと矛盾するかもしれないが、スポーティなヤリス、モーターの存在感が強いのに加え上級のオーラ、ニスモ、クロスオーバーも設定するノートに比べると、フィットは「華がない、地味」というのは否めない。
このあたりにより、一般ユーザーがホンダ車に求めるイメージがヤリスやノートと逆転していることも、フィットの販売が伸び悩む小さくない理由かもしれない。
といったことを考えると現行フィットがテコ入れとしてできそうなのは、スタイルのお色直し、ハイブリッドのセッティングをよりモーターを使う方向にする、ガソリン車の1.5リッター化、イメージリーダーとなるスポーツモデルのRSの復活、だろうか。
いずれにしても現行フィットは総合力が高いクルマだけに巻き返しを期待したいのと同時に、現行フィットの伸び悩みが次期フィットのコンセプトに悪影響を与えないことを願う。
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みんなのコメント
まさか口だけじゃないよな。