スーパー耐久に「ST-Qクラス」で参戦中のスバル。スバルはそのST-Qクラスを舞台に、カーボンニュートラル燃料の研究開発を行っているが、このたびレース参戦車「High Performance X Future Concept」に試乗する機会をいただいた!!
※本稿は2025年9月のものです
【画像ギャラリー】未来をモータースポーツから切り開く!! 低炭素燃料でスーパー耐久に参戦するスバル(16枚)
文:橋本洋平/写真:池之平昌信
初出:『ベストカー』2025年10月26日号
バイオエタノール燃料でスーパー耐久に参加するスバル車
スーパー耐久には今、ST-Qという自動車メーカーが開発を行うクラスがある。カーボンニュートラル(以下CN)燃料を使うことで、次世代を睨んだ挑戦が行われているだけでなく、実はまだ見ぬ新型車へ向けた極秘のメニューが進められていたりする。
ここにあるスバルのHigh Performance X Future Concept(以下ハイパフォX)もそんな一台。今回はシーズン途中にもかかわらず、レースカーをテストコースで有り難く味見させていただく機会を得た。
ハイパフォXと名乗るものの、一見すればベースは誰もがわかるWRX S4。バイオエタノールを20%含む低炭素燃料E20で走っている一台だ。スバルでは2023年までBRZをCN燃料で走らせていたが、その時はNAだった。
だが、今回はベースと同じく2.4Lターボ。ターボとなることで燃焼圧も燃料噴射量も増える関係で、オイルに燃料が溶け込んでしまうダイリューション(希釈)が厳しい。
また、燃料の発熱量がハイオクガソリンに比べて低いため、多めに燃料を噴かなければパワーを出しにくいという側面もある。
ダイリューションには油温を高めにしてオイルに溶け込んだ燃料を揮発させたりすることで問題をクリア。今では12時間ごとのオイル交換で問題なく走るようになったそうだ。
スバルの未来を予感させる走り
ここまではよくありがちなST-Qクラスの車両話なのだが、ハイパフォXはそこから先が面白い。
なんとかつてのWRX STIのようにDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)付きのミッションを搭載。もちろんミッションは6MTだ。さらに先行開発のeLSDも装備する。eLSDは後輪間のトルク配分を電子制御するデバイスだ。
そんなハイパフォXに乗り込みいよいよ試乗開始だ。クラッチを踏み、1速に入れて高速周回路を走り出す。BRZの時と同じように、アクセル全開状態でクラッチを踏み、シフトアップを行うことが可能。ダウンシフト時もヒール&トゥいらずだ。
また、アクセルオフ時に過給圧が下がらないようにするアンチラグ制御も盛り込まれ、どんな回転域からもレスポンスよく吹け上がるようにセットされていることが印象的だ。
熱量が少ない燃料を使っていることや、燃費を考えたセッティングのため苦労しているというが、ベースモデルに比べ100Nm(10.2kgm)のトルクアップが図られている。追い込まれた状況下に置かれたからこそ出てきた各種制御により、ストレスのない走りが可能だ。
シャシーで特に印象的だったのはeLSD。アクセルオン側とオフ側で独立して6段階に調整できるそれは、高速スラローム時にオフ側を一気に緩めてみると旋回性が飛躍的に向上するから面白い。
もちろんその際に安定感は失われるのだが、旋回に特化した仕様となり、例えばフロントタイヤがタレてしまったり、燃料が重すぎて曲がらないなどの状況時にはかなり役立ちそう。
開発陣に伺うと、ドライバーの技量や車両の状態に合わせて調整することで、誰もが速く安定して走ることも可能だとか。「これらが今後BEVの制御にも役立つのではないかと考えています」とのコメントもあった。
次世代ICEだけでなく、BEVにも役立つかもしれないというハイパフォX。ST-Qクラスへの挑戦は、さまざまな領域の技術を育ててくれそうだ。
低炭素燃料E20でレースに挑戦する意味
ハイパフォXがスーパー耐久で使用するのは、ENEOSから供給される、エタノールが20%入ったE20低炭素ガソリンだ。エタノールは植物由来のため、そのぶんカーボンニュートラルに貢献できる。
ただし、エタノールはエンジン部品にダメージを与え、発熱量が低いため燃費が落ちる。さらにエンジンの燃焼面でもハイオクに比べると落ちるなどといった多くの課題がある。
しかし、水平対向エンジンが生き残るためにはカーボンニュートラル燃料の開発も不可欠。レースで鍛えることで開発スピードを上げていくことが重要。最終戦富士ではパワーを上げて可能性を拡げていきたいという。
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