大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回、筆者のF1ジャーナリスト、ネイト・ソーンダースは、イギリスGPでのメルセデス代表トト・ウォルフに焦点を当てた。
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最終周のレース再開がなかった理由「“SCピットイン”の表示はエラー。規則上、リスタートは不可能だった」とFIA
■イギリスでのセーフティカーへの対応は規則どおりだった
傷には長く残るものがあるし、中には決して癒えないものもある。トト・ウォルフにとって、今年のイギリスGPの結末は、自身が抱える最も深い古傷のひとつ――2021年アブダビGPで受けた傷に塩を塗り込むような出来事だった。2021年最終戦のレースでは、レースディレクターのマイケル・マシがセーフティカー導入後の再開時の場面で規則を正しく適用せず、それが当時メルセデスに所属していたルイス・ハミルトンから8度目の世界王座獲得の機会を奪った。
今年のシルバーストンでの混乱した結末も、やはりセーフティカーが影響していた。終盤、マックス・フェルスタッペンがスピンしてグラベルにはまり、FIAは残り数周というところでセーフティカーを導入した。いつものように隊列が一団となって走っていた時に、レースコントロールは、セーフティカーがファイナルラップのひとつ前の周回終了時にピットへ戻ると通知した。つまり、最後の1周でレースが行われることになり、それは多くの人々にとって胸の高鳴る展開だった。セーフティカー導入によってせっかく築いた大きなリードが帳消しにされたシャルル・ルクレールは例外だっただろうが。
ところが、セーフティカーを運転するベルント・マイランダーは、最終周の一つ前の周回でピット入口に差し掛かった際、ピットに入らずそのまま走行を続けた。先ほどのレースコントロールのメッセージに従えば、ここでルクレールに再スタートを託すところだったが、そうしなかったのだ。その瞬間、サーキットは混乱に包まれ、観客からはブーイングが起こった。しかし、レースはセーフティカー先導のまま終了。それまで波乱続きだったレースの締めくくりとしては、あまりにも拍子抜けな幕切れだった。
長年『Sky Sports F1』で解説を務めるマーティン・ブランドルは、レース直後に「我々は皆、本来あるべきグランプリのフィニッシュを奪われた」と語った。この見方に頷きたくなる人も多いだろうが、規則を確認すると、実際には逆の結論が導かれる。FIAはレース直後に経緯を説明する声明を発表した。
「セーフティカー運用に関する規定である第B5.13.5条では、周回遅れ車両の周回回復手順の後、1周を走行しなければならないと定められている。この手順がレースオペレーションによって実施された。『Safety Car In This Lap(セーフティカーはこの周回でピットイン)』というメッセージは、ソフトウェアのエラーによって誤表示されたものである」
正確に言えば、実際の規則では、『Safety Car In This Lap(セーフティカーはこの周回でピットイン)』というメッセージは、周回遅れの車両すべてにアンラップの指示が出た後の周の終わりに表示されるとされている。
いずれにしても、メディアやファンに誤解を招く滑稽な状況ではあったものの、FIAの運用そのものは、規則どおり正しいものだった。周回遅れ車両にアンラップが許可された時点で、ルクレールはすでにファイナルラップ前の周回に入っていた。そのため、規則で定められた「アンラップ手順の後に1周を完了する」という条件を満たす時間的余裕はなかったのだ。
■ウォルフ「スポーツはショーより優先されるべき」
状況は非常に分かりにくく複雑ではあったが、ウォルフは正しい手順でレースが終えられたことに満足していた。メルセデスのジョージ・ラッセルは、セーフティカー先導下で2番手を走行しており、古いタイヤとはいえ、ルクレールに勝負を挑むチャンスは存在していたのだが、それでもウォルフはこの結末を歓迎した。
この出来事によって、2021年アブダビGPで起こったあの悪名高い一件が、今なお心の奥深くに影を落としていることを、ウォルフは思い知らされたようだ。
「これが2021年に起きていればよかったのだが」とウォルフは日曜日のシルバーストンで語った。
「あのときの方がはるかに重要な意味を持っていた。今回は規則が守られた。それは良いことだ。必ずしも最もエキサイティングなフィナーレにはならないかもしれないが、これはスポーツなのだ」
「スポーツはショーより優先されるべきものであり、その逆ではない。だからFIAが今回あの判断を下したことは正しかった」
■5年経っても消えないアブダビGPの傷跡
今年の終わりには、あのアブダビGPから5年を迎える。あれから多くのことが変わった。ルイス・ハミルトンはメルセデスを離れてフェラーリへ移籍し、メルセデスの黄金時代はいったん終焉を迎え、新たなレギュレーションの下で再び支配的なマシンを手に入れることに成功した。
そんななかで、ひとつだけ変わっていないことがある。ハミルトンは今なお「8度」ではなく、「7度」の世界チャンピオンのまま、という事実だ。
イギリスGPの一件にはさらに皮肉なエピソードがあった。
2021年、あのセーフティカー導入の原因を作ったのは、ウイリアムズのニコラス・ラティフィのクラッシュだった。ラティフィは、2022年限りでウイリアムズから放出され、F1キャリアを終えた。
あのアビダビから4年半後――シルバーストンにそのラティフィが姿を見せていた。サーキット内に設けられたスポンサー向けVIPエリアのひとつで、彼はDJを務めていたのだ。まるで作り話のような偶然である。ウォルフがこの事実を知らなかったのは幸いだったといえるだろう。
[オートスポーツweb 2026年07月12日]
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