昨年から世界各地で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。変異ウイルスなども加わり今なお勢いはとどまる事を知らず、4月には今秋に予定されていた東京モーターショーの中止が早々に発表された。オンラインでの開催も検討されたとのことだが、率直に言って懸命な判断だろう。何しろ原稿執筆時点(5月中旬)で我々ができる対策はいまだに手洗い、うがい、マスクの着用、そして個々の意識に依存した「3密の回避」であり決定打となろうワクチンの供給も見通しが不透明だからだ。
そんな状況で魅力的な新型車やコンセプトカーの登場にワッと人が押し寄せるモーターショーを多くの人が安心して楽める環境にするハードルは主催側にとっても少々高かったであろうことは想像に難くない。確かにオンラインという新しい形へのチャレンジも一つの手ではあると思うが、長年「ナマ」で実車を楽しむモーターショーに慣れ親しんだ筆者にとっては今のところ、それを超える魅力をイメージできずにいるのが正直なところだ。
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さて今回は、今ではありえないような「密」だったモーターショーをちょっぴり振り返ってみよう。押し合いへし合いしながらでも自分の目で実車を見てみたい、と思わせてくれるクルマこそがショーの華。今回は筆者が見てきたモーターショーの中でも特にその発表会場の密っぷりが個人的に印象的だった車を紹介する。
■日産GT-Rプロト(東京モーターショー/2005年)
2001年にGT-Rコンセプトが発表され、4年後に登場したのはGT-Rプロト。コンセプトカーの次はプロトタイプとなかなか発売されなかったGT-Rだがその人気と期待は日産の思惑通り(?)にどんどんヒートアップ。すでに実車と並行してプレイステーションソフト「グランツーリスモ」などでは登場し続けていたGT-Rは、ある意味バーチャルから飛び出した感覚もあり当時としては新しさも感じたものだ。写真は報道関係者招待日のものだが、その注目度と現地での熱気は強く印象に残っている。マスクなしでこれだけの密っぷりは今見るとギョッとするが、それほど当時の注目度は高かった。20年前にコンセプトモデルが登場したR35型GT-Rが今なお進化を続けながら現行モデルであり続けていることを考えると、長かったデビューまでの道のりも納得だ。
■トヨタRAV4EV(ロサンゼルスオートショー/2010年)
こちらは2010年ロサンゼルスオートショーで発表されたトヨタRAV4EV。当時すでに販売されていたRAV4のEV版だ。それゆえ外観的には目新しさはなく、他メーカーもこぞってEVを発表していたこのショーにおいて、この発表が注目されたワケはバックの「TESLA」の5文字にある。テスラとの共同開発という話題性、そして会場に現れたCEOのイーロン・マスク氏が報道陣をあっという間に密にした。EVの話題がクルマそのものの魅力とはちょっと違った部分で盛り上がることも少なくないのは10年前も今も変わりはないようだ。
■トヨタ86/スバルBRZ(東京モーターショー/2011年)
かつての人気車種カローラレビン/スプリンタートレノの型式AE86に由来する名前を持つトヨタのスポーツモデル「86」そしてスバルの兄弟車「BRZ」。発売前から期待の大きかったこのFRモデルが登場したのは2011年の東京モーターショー。この年の86/BRZ人気は本当に凄かった。筆者自身も印象に残っているのはその混雑ぶりばかり。クルマ自体がどんな展示だったか薄っすらしか覚えていないのが正直なところ。「密」ここに極まれり、という感じ。大きなお世話だが、この2台目当てで会場に足を運んだファンがしっかり堪能できたか心配になるくらいの盛況ぶりだった。
■スバル レヴォーグ(東京モーターショー/2013年)
レオーネ、レガシィと続いてきたスバルの4WDツーリングワゴンの第3弾。新しいネーミングでデビューしたレヴォーグのデビューも過密状態。ただし、スバルもこの新型車の注目度には自信を持っていたようでクルマを高い位置に持ち上げグルグル回しながら展示するスタイルはどんなに混雑していても多くの人がしっかりと見られる工夫を盛り込んだものだろう。じつはこのコンセプト、2代目となる現行モデルの発表時(東京モーターショー/2019年)にも受け継がれていたが、今後は密を前提としたこのような展示コンセプトがどのように進化していくのかも興味深い。
さて、これまでのモーターショーは密こそ人気の証と言わんばかりに注目のモデルには多くの自動車ファンが殺到し、ある意味それが巨大なモーターショーらしさでもあった。思い起こせば晴海(東京都中央区)が会場だった頃は東京駅から会場へ向かうバスがそもそも超満員。おしくらまんじゅう状態で会場に向かった思い出もあったりして、モーターショーの記憶はまさに密とともにあり、という感じだ。
国が3密を避けた「新しい生活様式」を提唱してから早1年。まだまだ予断を許さない状況であるのは誰もが知るところであろう。多くの人にとって混雑や人ごみは決して好ましいものではないだろうが、一方でそういう状況になっても問題なく生活が送れる日々が待ちどうしいと感じるのも正直なところだ。
いづれにしても、これからもモーターショーは時代時代のニーズに応えながらも実車を見て触れられるショーであって欲しいものだ。
〈文と写真=高橋 学〉
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