まとめ・華 音 構成・若林葉子 写真・関野 温
アナウンサーとして27年のキャリアを積んできたフジテレビを退社してこの春からフリーランスとなった西岡孝洋さんと、動画クリエーターとして7年以上も活動を続けている華音さんが、「言葉で伝えること」について対談した。
西岡孝洋_(以下、西岡)僕はこれまでフジテレビでアナウンサーとして27年間勤務してきましたが、今年の3月に退社しました。アナウンサーとしてのキャリアの中で2001年にモータースポーツ班に加わり、2021年までF1などを中心に20年にわたり実況を担当してきました。華音さんは英語やクルマの発信をする動画クリエイターになって7年になるとのことですが、華音さんがクルマを好きになったきっかけって何だったんですか?
華音_もともと子どもの頃から、親が運転するクルマの後部座席で、1人で車種当てゲームをするくらいクルマが好きでした。でも本格的にのめり込むようになったのは、自分でクルマを購入する時だったかもしれません。性能の違いを調べていく中で、「速さこそ正義」という世界観に出会い、気づけばどんどんその魅力に引き込まれていきました。そしてついには、21歳の時にドイツのニュルブルクリンクのサーキットにまで足を運ぶほど、クルマが好きになっていたんです。
西岡_僕はニュルブルクリンクでは、ショートコースの実況しか経験がないんです。だからフルコースにはずっと憧れがありますね。そういえばレース実況の仕事は、解説者と一緒にいる空き時間に、いろんな思い出話や裏話を聞けるのが楽しいんですよ。そういう話って、実況にも活きてくるんです。たとえば鈴鹿の130Rで、あるドライバーの「初めてノーブレーキで駆け抜けたとき」のエピソードを聞いたあとは、単に「コーナー」として見ていた場所が、急に生きた風景に変わって感じられるようになるんですよ。だから実況のときに「さあ、130Rをノーブレーキで行けるか!」と一言添えると、その言葉が観ている人たちにすごく響くと思うんです。
華レース実況の舞台裏
華音_なるほど。私は今年から、女性ドライバーだけで争われるフォーミュラレース「KYOJO CUP」で、英語実況を担当しています。実はこれが私にとって初めての4輪レースの実況なんです。西岡さんは解説者との呼吸を合わせるために、どんな工夫をされていましたか?
西岡_レース実況で一番大切なのは、やっぱり解説者をどう活かすかだと思います。たとえば、予選で注目のドライバーがいよいよタイムアタックに入るというとき。ここは解説者にあまり入ってほしくない場面なんです。だから自然に“喋らせない空気”を作れるかが大事です。またそのためにも、それまでにどれだけ解説者から情報を引き出しておけるかが鍵になります。「今回のシューマッハは1コーナーで少し手を焼いていますね」といった話が出ていれば、「さあ、1コーナーの進入、どうでしょうか」と伏線を拾うように実況でスポットを当てる。そうすると、自然な流れで解説者の言葉が効いてくるんです。
華音_勉強になります! 一つひとつのレースにストーリー性を持たせ、期待を高めるような話を散りばめることは大事ですよね。実況の際、特に意識していたことはありますか?
西岡_日本人は「顔が見えるスポーツ」が好きだと言われてます。例えばマラソンは、30キロを過ぎると選手の苦しそうな表情をアップで映す。そこに選手の「勝ちたい」という気持ちがにじみ出て人間ドラマとして感情移入しやすいんですよね。一方、サッカーやモータースポーツは顔が見えにくい。特にモータースポーツは、ヘルメットで表情が隠れるので、感情が伝わりづらい。そこで、僕が意識していたのは“顔が想像できる”実況をすることです。「この時、彼はきっとこういう顔をしているだろう」とイメージして、その表情を視聴者に思い浮かべてもらえるように言葉を選ぶ。そうすると、レース後にヘルメットを脱いで見せる笑顔がよりドラマチックに感じられるんです。実況って、視聴者との“距離”をどう縮めるかが大事だと思うんですけど、華音さんは実況で難しさを感じることはありますか。
華音_話す内容はもちろんですが、「女性の声」をどう表現するかに難しさを感じます。たとえばクラッシュやオーバーテイクの場面ではつい声が大きくなってしまいますが、女性の声は高くなりすぎると「キンキンして耳障り」と感じられてしまう。だから注目される場面ほど、声の高さを抑えた落ち着いた話し方にして、静かに熱量を伝えるようにしています。
西岡_女性アナウンサーがなぜ実況を担当しないのか、というのはアナウンサー界の永遠のテーマでもあります。女性は声が高いから、低めの声を使えと言われがちです。でも、低い声だと視聴者の感情に寄り添えない場面もある。もちろんある程度低い声は必要ですが、やっぱり高い音で勝負できる領域をどこかで残しておかないと良さがなくなっちゃうと思うんですよね。
華テレビとYouTube
西岡_華音さんはYouTubeの登録者数が今や約36万人とのことですが、ここに来るまでに苦しかった時期もあったと思います。どんなことが大変でしたか?
華音_もちろん、再生回数が伸びなかったり、内容が誰かを傷つけていないか不安になったり、1本の動画編集に12時間以上かかるので集中力が続かなかったりと、とにかく大変です。でも、そんな時こそ「自分はなぜYouTubeをやっているのか」と原点に立ち返るようにしています。すべてを1人でやっていると、つらい時は孤独になりがちなので、YouTuber仲間と編集合宿をしたり、ビデオ通話をつないで一緒に作業したり、みんなで励まし合いながら続けています。
西岡_YouTubeって、テレビとは、ターゲットの層が違いますよね。視聴者が「自分にぴったり合ったもの」を選んで観る。だからテレビのように有名人が出ていればいいということではまったくない。YouTubeで支持される方向性を見つけるのって、すごく大変そうだなと思います。
華音_そうですね。YouTubeがここまで受け入れられている理由のひとつは、「リアルさ」だと思います。テレビは多くの人が関わっている分、どこかに制作の意図や都合の良い編集が入っているんじゃないかと感じてしまう。でもYouTubeは、基本的に隠さずそのままを見せるというスタイルが面白さに繋がっているのかもしれません。
西岡_テレビって、どうしても“忖度”があります。ただ、それは長い歴史の中で「誰も傷つけない」という信念に基づいてきたものです。それは安心感がある一方で、「本音が見えない」と感じられてしまうことになる。これからテレビが生き残るには、「何が本当に正しいのか」を突き詰める“ファクトチェック”を徹底して、信頼できる情報だけを届けるか、“本物”を伝える覚悟を持つことが必要だと思います。視聴率が取れないことでバラエティ化が進み、結果的に“作り物感”が強くなっている。それに今はスポーツも多様な配信で観られる時代ですしね。本質に向き合うメディアであり続けることが、テレビに残された希望だと思います。
華「書くこと」は自分を見つめ直すこと
華音_西岡さんはフリーランスになってから、執筆活動を始められたとのことですが、実際に原稿を書かれるようになってみていかがですか?
西岡_自分の中で大きな変化を感じています。これまでは、与えられた台本や題材に言葉を乗せるのが仕事でした。でも今は、真っ白なキャンバスに自分の言葉を描いていく。それによって「自分には何ができるのか」を見つめ直すようになり、感覚が研ぎ澄まされてきた気がします。文章を書くという行為が自分のやってきたことの原点を思い出させてくれたんですよね。
華音_私は今も、自分の考えをどうやって文章で表現すればいいか模索中で、正直苦戦しています。でも、毎回一つの作品を作っているような感覚があって、書くこと自体はすごく楽しいんです。10年前には、まさか自分がこうして文章を書いたり、喋る仕事をしているなんて夢にも思っていませんでした。実は喋ることに憧れてアナウンサー学校に通っていた時期もあったんですが、西岡さんのようにテレビ局の試験に受かって…という道ではなく、私の場合はYouTubeが名刺代わりになって今の仕事につながっていて。だから本物のアナウンサーの方を前にすると、正直ちょっと引け目を感じてしまいます。
西岡_いやいや、そんなことないですよ。我々の時代はテレビ局に入ってアナウンサー試験に通れば「人生安泰」みたいな空気がありました。でもある時ふと思ったんです。もしこのまま定年まで働いたら、「フジテレビのアナウンサーだった人生」で終わってしまうのかなって。もちろんそれも立派な生き方ですけど、自分という“人間の人生”より「キー局に受かったこと」が最大の出来事になるのは、何か違う気がしてしまって。だから辞めたんです。
華音_辞められてどうですか?
西岡_辞めた直後の収入だけを見ると「辞めてよかった」と簡単には言えないですね(笑)。会社では「組織の一員」として給料をもらっていましたが、今は「西岡孝洋という個人」に、誰がどんな対価を払ってくれるのか、そういう勝負をはじめています。そう思ったときに目の前にあったのが「書くこと」でした。文章を書くのは意外と早いし、まったく苦じゃない。今いただいている仕事の多くも、文章に関わるものばかりです。最近ではセミナーのご依頼もいただくようになってきて、自分の価値を“自分の手で”少しずつ築いていけている実感があります。会社という大きな船から降りて、今は自分の力で泳ぎ始めたような感覚ですね。
華音_フリーランスの生き方って、はっきりした正解がなくて、自分で考えた道を信じて進んでいくしかないし、それが正しかったかの、答え合わせも自分でしていくしかないですよね。だからいつも常に自分との闘いで、ゴールが見えなくて不安になることもあります。でも、視聴者の方にお会いしたときもそうですが、西岡さんと今日お会いできたように、誰かとの出会いが答え合わせになる“瞬間”があって、「あっ、これでよかったんだ」と思えるんです。大変なことも多いですが、今の私の人生は本当に楽しい。最期までそう思い続けられるように、これからも自分の道を歩んでいきたいと思います。
西岡孝洋/Takahiro Nishioka
1976年生まれ。元フジテレビアナウンサー。『すぽると!』のメインキャスターに加え、五輪・サッカーW杯など、数々の大舞台を実況した経験を持つ。モータースポーツの中継に携わり、F1では数々の荒れたレースを実況。フジテレビ退社以降は「言葉の力」をテーマに発信中。「note」にて日々感じたことを綴っている。
華音/Kanon
1993年生まれ。高校生の時にニュージーランドへ留学、高校卒業後アメリカの大学へ進学。その後イギリスを拠点に海外情報や英語学習のノウハウを発信するYouTubeを開設、36.5万人のチャンネル登録者数を誇る人気YouTuberとなる。現在は日本でモータージャーナリストを目指して活動中。
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