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ジャガーのデザインが大きく変わってゆく理由とは? 最新のブリティッシュネスを求めて

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ジャガーのデザインが大きく変わってゆく理由とは? 最新のブリティッシュネスを求めて

Jaguar Land Rover New Design Studio

ジャガー・ランドローバー 新デザイン スタジオ

ジャガーのデザインが大きく変わってゆく理由とは? 最新のブリティッシュネスを求めて

変革期を迎えた新しいジャガーデザインとは?

ジャガーのデザインが大きく変わろうとしている。

まず、20年間にわたってジャガーのデザインチームを率いてきたイアン・カラムが2019年6月に引退。後任には、これまでクリエイティブ・デザイン・ディレクターだったジュリアン・トムソンが指名された。カラムは自分のデザインオフィスを立ち上げる一方、今後はジャガーのデザイン・コンサルタントを務めることになる。

第2のニュースは新しいデザイン・スタジオをオープンしたこと。これはゲイドンに建つジャガー・ランドローバーのアドバンスド・プロダクト・クリエイション・センター内に新設されたもので、これまでは複数の建物に分散していたデザイン部門がひとつの建屋に収められた。意外にも、84年に及ぶジャガーの歴史でデザイン部門が1ヵ所に集められたのは今回が初めてという。

最新のデジタルモデリングとクレイモデル製作を両立

2019年9月、私はこのデザインセンターのオープニング・イベントに招かれ、トムソンを始めとするジャガー・デザイン・チームに話を聞くチャンスを得た。そこから見えてきたジャガー・デザインの現在と今後についてここでレポートしよう。

新デザインセンターでまず興味を惹いたのが、クレイモデルを製作する施設が極めて充実していることだった。

最近はコンピューターを用いたデジタルモデリングを活用するデザインセンターが増えており、ジャガーもこの種の最新トレンドを積極的に採り入れているが、それに加えて長さ20mのクレイモデル作業スペースを合計で10ヵ所も用意したのである。これだけの設備がずらりと並んでいる様はまさに壮観。しかも、各スペースには最新のCNCクレイモデル・マシンが設置されているほか、3次元計測器も揃っていてクレイモデルで作り出した曲面をデジタルデータとして直ちに取り込める態勢が整っていた。

クレイモデルの活用については、フルサイズの立体造形を比較的容易に作り出せるうえ、その微調整を何度でも素早くできることが特徴とされる。そうした設備を充実させている点からも、ジャガー・デザインの今後が表れているような気がした。

ニュージャガーのキーワードは“ブリティッシュネス”

今回のお披露目では施設の紹介だけでなく各部署がどのような活動を行っているかについてのプレゼンテーションもあった。そのなかで特に興味深かったのが「ブリティッシュネス(敢えて訳せば“イギリスらしさ”)」というテーマ。聞けば、ステレオタイプでない現代的な“ブリティッシュネス”とはどのようなものかを追求するのが彼らの役割だという。

「イギリスらしいものといえば、雨だったりカントリーサイドだったり女王などがよく例に挙げられますが、実際はそれだけではありません。イギリスの文化とアイデンティティの中心といえばロンドンですが、そこで目にするものの多くがブリティッシュネスを表しています。ジャガーのデザインセンターで勤務する私たちは、自動車とは直接関係のないものにインスパイアされてアイデアを得ることが少なくなく、日々トレンドを分析しています」

「いま、ファッション界でなにが起きているか? スポーツ・ブランドのアディダスはなにをしているのか? バーバリーはなにをしているのか? バーバリーといえば、最近デザインディレクターに就任したリカルド・ティッシは素晴らしい仕事をしていますね。本当にクールです。彼がいま取り組んでいるのはブリティッシュ・デザインの再発見に近いことだと思います」

ブリティッシュネスについてプレゼンテーションを行ったこのデザイナーの言葉を聞いていると、“イギリスらしさ”には必ずしも決まった形式があるわけではなく、むしろ日々変化しているようにさえ思える。そのなかで、彼らが“イギリスらしい”と感じるものが、やがてブリティッシュ・デザインへと昇華されていくのかもしれない。

今までを継承しつつ「変わり続ける」

そうは言っても“イギリスらしいデザイン”を形作るルールはきっと存在するはず。そう思った私は、プレゼンの担当者に「イギリスのデザインはシンプルかつオーセンティックで、そこにアクセントになる色やモチーフを目立たない程度に盛り込むのが基本ではないでしょうか?」と訊ねてみた。すると彼はこんなふうに答えたのである。

「ええ、そのとおりです。アクセントとなるのは色かもしれませんし、素材かもしれません。いま、私たちは新しい素材を探し求めています。そのなかには、皆さんがひと目見ただけでは何からできているのか想像がつかないようなものも含まれています。いずれにしても、イギリスのデザインはシンプルであることと細部へのこだわりが基本にあるといって間違いないでしょう」

では、体制が改められたジャガー・デザインはどのような方向を目指していくのか? 私は新チーフデザイナーのトムソンに「あなたが新しいボスなのだから、なにもかも変えてしまうこともできますよね?」とややトリッキーな質問を繰り出してみた。すると彼は「ええ、そうです。今後はなにもかも変えるつもりです」と答えたあとで、「いえいえ、これはジョークですよ」と笑顔で否定したのである。

「私は18年間、ここで働いてきました。イアンとともにこのチームを作り上げてきたのです。そしてフィロソフィーを作り上げました。ですから、これまでの方針を継続します。ただし、変化も起こすつもりです。なぜなら、変化は常に必要とされているからです。世界は変わり続けています。まったく同じことを続けるわけにはいきません。前に向かって進んでいかなければいけないのです」

では、ジャガー・デザインのエッセンスとは何だろうか? トムソンに語ってもらった。

ジャガー・デザインのエッセンスとは?

「まず、美しさはとても重要です。見て美しいと思うこと。運転して美しいと思うこと。見たとき、そして触ったときにどう感じるかはとても重要です。現代の人々にとってクルマは財産(筆者注:彼はこのとき“Treasure”という単語を使った)です。これはとても大切なことです」

「ジャガーは今後、電動化や自動運転技術を採り入れていきます。その結果としてクルマのあり方は変化し続けるでしょうが、私たちが手がけるクルマはいつの時代でも誇りを抱けるものでなければいけません。そして特別なものでなければならず、そのためには際だって美しいことが必要です。そのうえで印象的なストーリーも大切です。なぜなら、いつの世も顧客はクルマにストーリーを期待するからです」

トムソンの言いたいこともわかるが、いまひとつ明確な像を結ばない。そこで私はこんな質問をしてみた。「ジャガー・デザインの真髄は、美しいプロポーション、そしてシンプルだけれども細部にこだわった面作りにあると考えていますが、いかがでしょうか?」。この質問に対する彼の答えは次のようなものだった。「そのとおりです。いずれにしても、とてもピュアでクリーンでなければいけません。そして不要なデコレーションを排除する。それがすべてです」

実をいうと、今回のイベントでは次期型XJのデザイン・コンセプトが披露されるとの事前情報もあったが、残念ながらこれは見送られた。このためトムソン率いる新デザインチームの方向性はまだ明らかにされていないが、私なりに予想しているところというか、期待している点はある。

トムソンが明言したとおり、カラムがこれまで作り上げてきた“モダン・ジャガー”の基本路線は今後も継承されるだろう。ただし、実をいえばカラムが描いた現在のジャガー・デザインは一部であまり評判がよくなく、これがもう少し違っていればセールスはもっと伸びていただろうとする見解もあるそうだ。

カラムを支持しつつトムソンの手腕に期待したい

ただし、私はカラムの方針を支持する。どちらかといえばオーセンティックな味わいが期待されるサルーンとしてはむしろ前衛的すぎるとさえいえるカラム作のサルーンは、ドイツ御三家やボルボなどの強豪がひしめくプレミアム・クラスでは異彩を放っていてむしろ好ましい。

しかも、無駄な装飾に頼らず、美しいプロポーションと丁寧な面仕上げで構成されたスタイリングはまさにブリティッシュ・デザインの真骨頂。この基本路線はトムソン指揮下となっても変えて欲しくないというのが私の希望である。とはいえ、いまのジャガー・デザインに追加できる要素がないかといえば、そうとも限らない。

今回のお披露目の際、クレイモデル作業スペースには1台のデザインコンセプトが置かれていて、何人かのスタッフがその面作りに取り組んでいた。おそらく、その作業自体は一種のデモンストレーションなのだろうが、ミッドシップ・スーパースポーツカーと思しきそのモデルの完成度はきわめて高く、とても間に合わせで作ったものとは思えなかった。

このデザインコンセプトで私の目を惹いたのが、ボディサイドのふくよかな面構成だった。それはスペース効率を考える必要のないスーパースポーツカーだからこそ実現できたともいえる彫りの深いサイドパネルだったが、思い起こしてみれば、同様の曲面はEタイプなど往年のジャガー・モデルにも存在していた。ひるがえって、カラムがデザインした先代XF以降のジャガー・サルーンはボディサイドがいずれも平面的でやや色気に欠ける。

「あの基本スタイルは変えずに、ボディサイドのみ丸みを帯びた曲面に置き換えられたら・・・」。私はそんな妄想を膨らませながら、ゲイドンのジャガー・デザインセンターを後にした。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)

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