車両や歩行者を検知し、衝突の危険がある場合には強いブレーキを掛け事故の回避や被害を軽減してくれる自動ブレーキの進歩は大変著しい。そのなかでも自動ブレーキの普及にボルボと並んで多大な貢献をしたのがver.2以降のスバルの「アイサイト」である。
アイサイトはver.2の登場から2020年で10年が経過し、アイサイトも着実に進化しているものの、他社の自動ブレーキの進歩もここ数年で急速なものとなっている。当記事ではアイサイトの歴史を振り返り、アイサイトの現在の自動ブレーキ業界におけるポジションを考察してみた。
【ライズ、ハスラー、マツダ2…】 掴んだぞ2020年SUV&コンパクト重要新車戦略!!
文/永田恵一
写真/SUBARU、TOYOTA
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■スバル「アイサイト」の歴史
ステレオカメラと呼ばれる、2つのカメラを人間の目のように使うことで自動ブレーキなどの情報源とする「アイサイト」の歴史は、1999年に登場した3代目「レガシィ」ファミリーのランカスター(現在のレガシィアウトバックに相当)に搭載された「ADA」(アクティブドライビングアシスト)にさかのぼる。
1999年に登場した「レガシィ ランカスターADA」。車両価格は324万8000円(税別)だった
この時のADAの機能は、ステレオカメラからの情報を基にした
・車線逸脱警報
・車間距離警報
・先行車追従型のアダプティブクルーズコントロール
・カーナビによる経路案内中のカーブ警報&シフトダウン制御
という運転支援で、実用化には約10年が費やされ、価格は約50万円だった。
ADAに大きな進歩があったのは、レガシィが4代目モデルとなった2003年だ。この時には、情報源にミリ波レーダーが追加され、より詳細に前方の状況が把握できるようになり、運転支援機能にはアダプティブクルーズコントロールのブレーキ制御、ふらつき警報機能、前車発進モニター機能などが追加された。
しかし、機能は向上したもののミリ波レーダーの追加により、ADAは70万円とさらに高価なものになってしまったためまったく売れず、3年ほどで姿を消してしまった。
だが、ADAは2008年の4代目「レガシィ」の最終型が登場した際に、名前をアイサイトに変え復活する。この時のアイサイトでは、情報源を再びステレオカメラだけにするなどし、価格は20万円+消費税と大幅に値下げされた。
機能も、当時の法規の問題で停止まではしないものの、歩行者や自転車も検知する緊急ブレーキによる被害軽減、AT 誤発進抑制制御、停止まで対応するアダプティブクルーズコントロールなどと、当時としては非常に充実していた。なお、4代目レガシィと同様のアイサイトは7人乗りミニバンの「エクシーガ」にも設定された。
そして、アイサイトがブレイクしたのは2010年に5代目レガシィの2年目の改良の際だった。ver.2となったアイサイトは緊急ブレーキが停止まで行うなどの性能向上に加え、価格は10万円+消費税と一気に値下げされ、アイサイトを大きな理由にレガシィを選ぶ人が増えたほどだった。
このあと、アイサイトは「BRZ」や「WRX STI」を除くスバルの各車に設定され、スバル車の基幹技術に成長。2014年に現行「レヴォーグ」が登場した際のver.3でステレオカメラのカラー化や小型化が行われ、その後は運転支援機能を中心とした改良が続いている。
こちらは5代目レガシィから投入されたアイサイトver.2。その後、大人気となった4代目フォレスターなどにも搭載され、一気に普及することとなった
■アイサイトの現在のポジション
アイサイトの性能は、価格まで考慮すれば世界トップクラスだった。それが明確になったのは2014年度に国が行うJNCAP(自動車アセスメント)に自動ブレーキに代表される予防安全装備のテストが加わってからだ。
アイサイトは当時から、停止車両に対して50km/hでの停止が確認されており、このころは停止車両に対し50km/hで停止できないクルマが多々あったのを考えると、アイサイトの総合力は圧倒的だった。
だが、2016年度からJNCAPの予防安全装備のテストに成人と子供のダミー人形を使った、単純な飛び出しと駐車車両を想定した遮蔽物からの飛び出しという対歩行者の項目が加わってから、アイサイトの優位性に陰りが見え始めたのも事実だった。
対歩行者のテストでは、世界トップと言われるモービルアイ社の単眼カメラを使うマツダと日産が台頭。アイサイトは「得られる情報量を増やすために、ステレオカメラの横方向の感覚を広げたいのだが、広げて情報量が増えると今度はCPUによる情報処理が間に合わなくなる」という課題が目立つようになってきた。
さらに、2018年になると現行「アルファード」のマイナーチェンジモデルで登場し、「クラウン」や「カローラファミリー」、「RAV4」にも採用されるミリ波レーダーと単眼カメラから構成されるトヨタセーフティセンスの最新版が夜間の歩行者にも対応するようになった。
最新版のトヨタセーフティセンスは、前方の車両や歩行者(昼夜)、自転車運転者(昼)をミリ波レーダーと単眼カメラで検出する
といったことを総合し、現在実施済のJNCAPの予防安全装備のテスト結果(表参照)から日本車の自動ブレーキの性能を順位付けしてみると、
◆トップ 最新「トヨタセーフティセンス」&「レクサスセーフティシステム+」
◆2位グループ 最新「アイサイト」(夜間の街灯なしの歩行者に対するテスト結果が最新のトヨタのものに見劣りするため)、最新「日産エマージェンシーブレーキ」
◆3位グループ 最新「ホンダセンシング」、最新「マツダスマートブレーキサポート」
となる。
しかし、まだJNCAPの予防安全装備のテストは受けていない世界トップクラスの運転支援システムである、日産が「スカイラインハイブリッド」に搭載した「プロパイロット2.0」は周囲の情報収集にトライカムと呼ばれる三眼カメラと多数のレーダーを使っている。
それだけにコストが非常に高いのはいなめないにせよ、自動ブレーキの性能も最新のトヨタのものを凌駕するのは濃厚で、現在のアイサイトはスカイラインハイブリッドがJNCAPのテストを受けると、3番手グループとなる可能性は高い。
マイナーチェンジしたスカイライン。こちらはV6、3.5Lハイブリッドを搭載したモデル
「スカイライン」のハイブリッドモデルに、先進運転支援技術「プロパイロット 2.0」を採用。高速道路における同一車線内でのハンズオフ機能を実現している
そのなかでのアイサイトのアドバンテージとしては、
・カラーカメラなので、赤信号や先行車のブレーキランプの点灯も把握している。前者は赤信号をクルマが把握した際にブレーキ操作がなかった場合の警告(ブレーキは掛からない)、後者はアダプティブクルーズコントロールを使った際の追従のスムースさに貢献している。
・スバルはマツダと同様にトヨタ、日産、ホンダのように車種が多くないため、最新の自動ブレーキの社内での展開が早く、メーカー別に見た際の平均点が高い。
ということが挙げられる。
■2020年、自動ブレーキはどうなる?
2020年も自動ブレーキの進化の度合いは大きいと予想される。現在わかっていることとしては、
・トヨタは、「ヤリス」のものが最新トヨタセーフティセンスとなるだけでなく、トヨタ初となる右折時の直進車と右左折後の横断歩行者への対応が加わる。
・ホンダは、次期「フィット」の単眼カメラが、日産とマツダも使うモービルアイ社のものに変更されるため、特に夜間も含めた対歩行者への性能向上が期待される。
といったことが挙げられる。
またスバルも、2019年の東京モーターショーでプロトタイプが出展された次期レヴォーグのアイサイトは、ステレオカメラの横方向の間隔を広げ情報収集能力を高める(CPUの情報処理能力の向上も含む)だけでなく、情報収集に前方のミリ波レーダーも加わり、見通しの悪いところなどでの出会い頭や右左折時の事故防止に対する性能も高まるという。性能向上はもちろん大歓迎だが、値上がりはちょっと心配なところだ。
いずれにしても、スバルのような大きくないメーカーのクルマには何らかの飛び抜けた性能が欲しいだけに、アイサイトも次期レヴォーグでかつてのような輝きを取り戻すことを期待したい。
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みんなのコメント
せめてハード(カメラとかCPU)の変更無しに出来るプログラムのアップデート位は、
車検時に有償でもいいからやってくれないかな。