ゼロベースで生み出されたBYDラッコは、ニッポンの軽自動車をレベルアップする
いま話題のBYD「ラッコ」は、海外メーカー初となる日本の軽自動車規格専用設計のBEVだ。ラッコ専用に開発された統合型BEV技術「X-PACK」を軸に、価格でも日本一売れる軽自動車「N-BOX」とガチンコの設定としてきた。その実力を、自動車ジャーナリスト・山本晋也氏が忖度なしで試乗リポート。
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山本氏が走り出してすぐに覚えたのは「初代N-BOX以来の衝撃」だった。そしてその衝撃は筆者だけのものではなかったらしい。発売からわずか2週間で、ラッコは累計受注1000台を突破。BYDの日本導入モデルとして過去最速のペースだという。
「黒船」ラッコに試乗 誤解を恐れず言えば「初代N-BOX以来の衝撃」
2025年秋のジャパンモビリティショーでお披露目され、いわゆる「黒船来襲」という枕詞と共に紹介されることが多い、BYDラッコに公道試乗することができました。なぜ、黒船という表現が使われているのかといえば、ラッコは海外メーカーが初めて日本の軽自動車規格に合わせて開発したモデルといえ、さらに軽スーパーハイトワゴンでは唯一のBEV(電気自動車)となるからです。
BEVのスーパーハイトワゴンというのはライバル不在ともいえます。その意味では黒船と呼ぶほど恐れることはないのかもしれませんが、そうではありませんでした。
ラッコを2時間ほど市街地・ワインディング・高速道路と走った印象を、誤解を恐れずに表現するならば「初代N-BOX以来の衝撃」を受けました。
そのココロは「軽自動車のレベルを上げるエポックメーキングなモデル」です。
電動調整シート、7インチ液晶メーター、軽初のSDV 装備は妥協なし
わかりやすく装備面からいえば、ラッコの最上級グレード「300プレミアム」の運転席はライバルにはない電動調整式となっていますし、ステアリングはチルト&テレスコピックで調整可能。しかも、7インチサイズの液晶メーターはコラムに設置されているので、どのポジションに合わせてもメーターがしっかり見えるのも、うれしいポイントといえるでしょう。
機能面でのトピックは、軽自動車初のSDV(ソフトウェア定義車両)になっていること。すなわち、購入した後の機能追加が期待できる設計となっています。SDVの価値については今後明らかになっていくと思いますが、少なくとも通信SIMを標準搭載しており、OTA(オーバー・ジ・エアー:無線通信)でのアップデートに対応したメカニズムを軽自動車の価格帯で実現したことは、まさにエポックメーキングといえます。
ボディサイズについては、軽自動車規格なので全長・全幅についてはライバルと同寸ですが、室内の広さでは、国産のライバルモデルを1ミリでも超えるデザインを実現したというのは、「軽自動車で一番になる」という強い意志を感じる部分です。こうしたラッコの開発マインドは、初代N-BOXが一定のレギュレーションにおいて、ルールブックを読み込むようにしてトップを目指した姿勢を彷彿とさせます。
光るスライドドア、常識的なステップ高 乗り込みで感じた意外な扱いやすさ
サプライズは、最初に乗り込むときからありました。スマートキーを受け取り、試乗車に近づくと後席スライドドアの下から路面に向けて円形の光が灯ります。そこに足を置いてから動かすと、スライドドアが開いたのです。たしかに、足先の動きで後席スライドドアを開く機能を標準装備している軽スーパーハイトワゴンとしてはデリカミニなどもありますから驚くほどの機能ではないのですが、丸い光によって操作をガイドするというユーザーインターフェースは非常に使い勝手がよく、初対面の印象を上げる機能です。
乗り込む際に意外に感じたのはステップやフロアの高さがさほど気にならなかったこと。筆者が実測したステップ高はフロントが約370mm、リアは約380mm。これはN-BOXよりは高いですが、ルークスやデリカミニよりは低く、軽自動車としては常識的な範囲に収まっています。フロアに駆動用バッテリーを搭載するBEVながら、エンジン車と同等のステップ高としているのは、BEV設計の経験が豊富なBYDらしいポイントだそうです。
座面については軽スーパーハイトワゴンのライバルと比べると、わずかに高めとなっているように感じましたが、乗降性をスポイルするほどではありません。むしろフロントについてはアップライトで視界が広く、運転しやすいポジションという印象を受けました。
いよいよ、システムを起動して走り出してみましょう。
ブレーキペダルを踏んで、スタートボタンを押せば、走行可能状態になります。そのままシフトレバーをDレンジにすると、電動パーキングブレーキが自動的に解除されて、スーッとラッコは動き出しました。
あえてマイルドな加速設定 スポーツモードで感じた軽自動車らしさ
ラッコには4つのドライブモード(エコ・ノーマル・スポーツ・スノー)があり、さらにステアリングとブレーキアシストは、それぞれコンフォートとスポーツの2つに切り替えることができます。
BEVといえばトルクフルな走りを想像したくなるわけで、いきなり全部スポーツを選んで走ってみます。しかし、その加速感は拍子抜けするものでした。たしかにスムースですし、アクセル操作に対するリニアリティは高いのですが、グンと飛び出すようなBEV特有の加速感ではなかったのです。
あとから聞けば、あえてBEVの鋭い加速をマイルドにしているそう。毎日の生活をアシストする軽自動車に合わせたセッティングを目指したといいます。そうした狙いを聞いた時、意気揚々とスポーツモードで走り出した自分が恥ずかしくなりました。たしかにBYDラッコはBEVですが、あくまで軽スーパーハイトワゴンとして生み出されているのです。
そのためステアリングのセッティングについても、マイルドな方向。キビキビ感よりは落ち着きを感じるフィールでまとめられています。ワインディングでは物足りなさもありますが、そもそも軽スーパーハイトワゴンでタイヤスキール音を鳴らしながら走るなんてことは考えられません。後席の乗員が快適に過ごせるよう、スマートなドライビングが求められますし、そうした走らせ方をすることで、ラッコの本領を発揮できると感じます。
ワインディングでは、BEVらしいバランスのよさも感じられました。よく言われるようにバッテリーを床下に積むことでの低重心もありますが、前後重量配分が53:47(車検証の軸重は前650kg・後580kg)となっていることもあり、上りでも下りでも同じ感覚で曲げることができます。メーターにタイヤ空気圧や温度を表示することもできますが、四輪が同じように発熱しているのは、こうした好バランスの証左といえるかもしれません。
高速道路(自動車専用道路)ではACCなど先進運転支援システム(ADAS)も試しました。基本的な性能について物足りないと感じる点はありませんが、とくに感心したのは先行車に追いついたときの減速コントロールです。広角カメラで前方を検知しているシステムながら、けっこう遠くから先行車を認識して、マイルドに減速して適切な車間を保ちます。車線中央維持アシストについても、介入しすぎることもなく、非常に頼もしい印象に仕上がっていました。
なんでもラッコのADASシステムは基本的に内製で、日本で時間をかけてチューニングしているということ。技術を手の内としているからこそ、セッティングの幅が広く、深くなっており、その成果をドライバーは実感できるというわけです。
制動力は不安なし、唯一の弱点はラゲッジの低周波ノイズ
車両重量は1230kgと、軽自動車としては重めですが、フロントにベンチレーテッドディスク、リアにソリッドディスクの4輪ディスクブレーキとなっているのに加えて、回生ブレーキも標準と強の2段階で調整できるので、制動能力には不安も不満も感じなかったことも、ご報告しておきましょう。
走りの印象をまとめれば、日本の軽自動車の平均点を軽々と超えているといえます。
もっとも、N-BOXやデリカミニが実現しているコンパクトカーを思わせる走行フィールには至っていませんが、スペーシアやタントとは走行フィールが同等レベルといえるでしょう。
BEVならではの静粛性が仇となっているのか、ラゲッジあたりから入ってくる低周波ノイズがこもった感じがするのは要対策といえますが、逆に言えば大きな欠点はそれくらい。
その上で、冒頭で触れた電動調整シートや最新のSDVテクノロジーといったストロングポイントもありますから、BEVであるというエクスキューズを抜きにして、軽スーパーハイトワゴン市場において十分に競争力のある内容に仕上がっています。
王伝福総裁の成田トランジットから始まった、対N-BOXの本気度
なぜ、初めての軽自動車でここまでの完成度を高めることができたのか。そこにはラッコ誕生の背景を知ると納得できるでしょう。
すでにジャパンモビリティショーでも公開されたエピソードですが、BYDが日本向けに軽自動車を専用開発するというプロジェクトは、BYDの王伝福総裁が2023年頃に日本を訪れたことから生まれたといいます。
南米から中国・深圳への帰路において、成田空港でトランジット(乗り継ぎ)することがあり、その際に半日ほど時間が空いてしまったそうです。そこでマイクロバスにBYDのボードメンバーが乗り込み、成田から東京都内までを移動しながら、日本の自動車マーケットを肌で感じる時間として活用することにしました。コンビニに立ち寄ったり、日本のメーカーの販売店をアポなしで訪問したりと、アクティブに日本の情報を肌で感じる中で、黄色いナンバーの小さなクルマの存在感に気付いたのでしょう。
その数か月後には「日本向けに軽自動車(もちろんBEV)を開発する」というプロジェクトが王総裁の決断によってスタート。トップ肝入りのプロジェクトですから、多くのデザイナーがアイデアを出しました。60以上のスケッチや商品企画から絞り込んで、ラッコが生まれたのです。
そこでのターゲットは、日本の軽自動車ユーザーが満足いくもの。すなわち、日本一売れているN-BOXをベンチマークに開発が進んだのでしょう。実際、ラッコに触れているとN-BOXにあるものはすべて用意した上で、プラスアルファの機能を与えていると実感できます。けっしてスタイリングは似せていませんが、真のN-BOXイーターといえます。
じつは、価格面でもラッコはN-BOXとガチンコです。ラッコのモーター最高出力は47kW。輸入車なので無視してもいいはずですが、日本の自主規制に合わせています。そうなるとライバルはターボ仕様となります。また、ラッコには10.1インチの大画面ディスプレイオーディオが標準装備となっています。
それでは、9インチナビやマルチビューカメラを備えたN-BOXカスタムターボの価格はいくらになるかといえば、約254万円です。
ラッコの最上級グレード「300プレミアム」のメーカー希望小売価格は249万7000円ですから、BEVでありながら同等装備&機能のエンジン車より安価という、価格競争力も備えているのです。しかも、ラッコは15万円のCEV補助金が期待できますから、コストパフォーマンスではN-BOXカスタムを完全に超えているともいえます。
こうした価格を実現できるのは、BYDがバッテリーメーカーにルーツを持つ自動車メーカーで、バッテリー調達コストを抑えることも大きいのですが、それ以上に大きな金型から小さな電装部品までグループ内で開発する垂直統合型企業であることが大きいといえます。電気自動車は水平分業によって部品を調達することで誰もが参入できるという見方もかつてありましたが、結果的には垂直統合のBYDが価格競争力を手に入れているのです。
2時間走ってバッテリー残85パーセント 「航続距離を気にする時代」は終わった
ラッコのグレード構成は最上級グレード「300プレミアム」のほか「200(214万5000円)」、「300プラス(239万8000円)」が用意されています。数字はバッテリー総電力量を示し、200は22.4kWh、300は35.84kWh。それぞれカタログスペックの一充電走行距離は200が210km、300は320kmとなっています。
しかし、今回の試乗で感じたのは、もはや航続性能の数字を気にする必要はなくなったということです。95パーセント程度の充電率でスタート、アップダウンのあるワインディングを走りながら景色のいいところで撮影したりしながら、最後は自動車専用道路で戻ってくるなど、2時間ほど走り回って、バッテリー残量は85パーセント弱でした。
しかも大人3名乗車かつエアコンは21度に設定して冷房も強めで、これだけの消費で済んだのです。もちろん連続走行ではありませんが、通常の使い方よりは走っている時間が長めで、2時間走っても10パーセント前後しか減らないということは、単純計算すると満充電から半分にするには10時間かかることになります。
日常生活の足として活用するのであれば、1週間は充電なしでもカバーできそう。長距離移動が頻繁な大型サルーンとは異なり、生活圏での移動がメインの用途となる軽自動車においては、もはや航続距離を気にしながら走る時代は終わったのかもしれません。
なお、ラッコの充電能力は普通充電が6kW対応、急速充電は49kW対応となっています。もっとも手軽な3kW普通充電でも一晩あれば満充電まで復活できます。少なくとも軽自動車のBEVにおいては、コスト高になる急速充電でガシガシと入れるといった使い方にリアリティはないでしょう。
発売後の購入者アンケートでも、この点は裏付けられています。自宅にEV用充電設備が「ある」と回答したユーザーは55.4パーセントにとどまり、「ない」との回答も43.0パーセントに上りました。つまり約4割のユーザーは、自宅への普通充電設備なしでもラッコを選んでいることになります。急速充電網への依存を前提としない航続性能と充電設計が、実際の購買行動にも表れているといえるでしょう。
発売2週間で受注1000台。軽自動車市場の新たな黒船、その勢いの理由
あらためて、ラッコの印象をまとめると、充実した装備は軽自動車のレベルアップを促すものですし、エンジン車と同等の価格を実現しています。走りのフィーリングについても平均的な軽自動車ユーザーが求めるレベルは確実に超えています。
まさに、日本の軽自動車市場における黒船です。軽自動車を開発している国産メーカーは、新たなベンチマークの登場に頭を悩ます日々が続くかもしれません。
(編集部注)実際、その勢いは受注実績にも表れています。発売から2週間で累計受注は1000台を突破し、これは過去にBYDが日本に導入したモデルの中で最速のペースだといいます。受注の8割を占めるのが最上級グレード「300プレミアム」であることは、本稿で触れた電動調整シートやSDVといった上位装備への評価の高さを裏付ける結果といえるでしょう。
また、初期購入者アンケートでは、新規購入が26.8パーセントにとどまる一方、入替が35.7パーセント、増車が37.5パーセントを占め、既存の軽自動車ユーザーからの乗り換え・追加需要が旺盛であることもうかがえます。
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みんなのコメント
日本人技術者が開発に携わっただけあり、良く出来た軽自動車でした。
まだまだアフターが心配ですが、日本人の中華嫌いが販売の最大のネックですね。