現在のSLクラスの原点。それが優雅なスタイルの190SLだった
メルセデス・ベンツ190SLは、1954年2月のニューヨーク・ショーでプロトタイプがデビュー。翌55年から62年まで販売されたFRオープン2シーターである。メカニズムは、ミディアムセダンの180(現在のEクラスの前身)をベースにしていた。車名の190は、1.9ℓの直4ユニット(105㎰)搭載に由来する。
【20世紀名車】これは人類の大切な産業遺産かもしれない!? 優雅なオープン2シーター「1958年メルセデス・ベンツ190SL」の肖像
190SLのフロントマスクは、同じタイミングでデビューしたガルウイングのスーパースポーツ、300SLのイメージが漂う。ボディサイズは全長×全幅×全高4290×1740×1320mmと比較的コンパクト。2400mmのホイールベースは300SLと同値。走りのキャラクターは、現在のSLクラスに通じるGT感覚を追求していた。
MGやトライアンフなど当時の英国製オープンスポーツのスパルタンな乗り味に対し、洗練され快適な190SLは異色だった。しなやかな乗り心地と高速安定性が重視され、160km/hで安心して巡航できることを目指していた。足回りは前ダブルウィッシュボーン、後スイングアクスルの4輪独立タイプ。ブレーキは4輪ドラム式で、トランスミッションは4速マニュアルの組み合わせ。セミモノコック構造のボディは、ドアとボンネット、トランクリッドが軽量なアルミ製だった。
190SLは、4126ドル(300SLは7564ドル)という高級パーソナルカーとしてはリーズナブルな価格設定もあって、米国市場を中心に大ヒットする。1962年に生産を終了するまで計2万5577台が販売された(300SLは計3232台)。190SLは新車時には日本に正規輸入された形跡がなく、現在、日本に存在するモデルは、後年に輸入された並行車である。
紹介するモデルは、前後ホイールアーチ上部にクロームの飾りが装着された後期型。2012年に米国から輸入された左ハンドル仕様だ。ボディのコンディションは上々。目立つ傷やサビはなく、ブルーの塗装には艶がある。バンパーやグリルなどのクロームパーツにもくすみは見られなかった。厚手のキャンバス地の幌は張り替え済み。ビニール製のリアウィンドウはきれいな状態を維持している。幌の開閉操作は手動式。ホイールはキャップ付きスチール製。本来、ホイールキャップは一部がボディ同色仕上げだが、取材車は全面クロームだった。
190SLの室内は丁寧に作り込まれ、ドア開閉音は重厚。シート/ドアトリム/インパネ上部は、日本でクリーム色の本革仕様に張り替え済み。フロアマットも同色の特注品を装備していた。シートに汚れはなく座り心地はソフト。VDO製メーターや各種スイッチは正常に作動した。オーディオは懐かしいデザインのドイツ・ブラウクンプト社製。室内空間はゆったりしており、荷物収納スペースも余裕がある。
走りはメルセデスらしく信頼感たっぷり。1.9リッターの直4ユニットは最近、専門ショップでキャブレターをオーバーホール済み。吹き上がりはスムーズで、エンジン回転が上昇するほどバラつきがなくなる。発進加速はややマイルドだが、スピードに乗るとかなり俊敏だ。乗り心地も良好。足回りにはたっぷりとしたストロークがあり、路面の凹凸をスムーズにいなす。ノンパワーのステアリングの操舵力はさほど重くなく、直進安定性は優秀だった。
190SLは左右のウィンドウを閉めておけば、オープン走行時でも風の巻き込みは適度。大人が似合うエレガントなクルーザーの代表である。
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