走りも使い勝手も期待値の一歩上を行く完成度
2017年のフルモデルチェンジから約一年を経ても、ホンダN-BOXの勢いはとどまることをしらない。いまや登録車も含めた新車販売においてトップであることはニュースにもならないほど当たり前となっている。なお、登録車と軽自動車を合算した新車販売ランキングで、2018年上半期の2位につけたのはスズキ・スペーシア。軽自動車のスーパーハイトワゴンが売れている(ニーズがある)というのは、ひとつの事実だ。
そもそも、この軽スーパーハイトの市場を成長させたのはダイハツ・タントだったりするが、ライバルを徹底的に研究し、同じ土俵の上で勝負を挑んだN-BOXに軍配が上がった(軽自動車のトップセラーとなった)のは、その先代モデルが実質的に販売開始となった2012年度のことだったりする。
それ以来、軽自動車のみならず日本市場における新車販売においてN-BOXは上位にいつづけている。その初代モデルの開発を指揮した浅木泰昭さんは、ホンダがF1最強エンジンとなっていた第二期F1時代に深くかかわっていた経験がある。その浅木さんにN-BOXの開発について話を聞いたことがある。
F1と軽自動車の共通性について「レギュレーションで決められている中での勝負ですから…」という発言もあったが、そうした競争の中でストロングポイントを明確とし、どこにリソースを割くべきかを明確にしたことが初代N-BOXの成功につながった。
現行N-BOXは、そうした初代の良さをきっちりとアップデートしている。売れたことで開発予算が潤沢となり、リードを盤石とするためにエンジンさえ一新するほど開発費をかけている。売れているからお金がかけられる、お金をかけたから売れ続ける、という好循環がN-BOXの圧勝につながっているといえるだろう。
とはいえ、N-BOXの魅力はスペックでは語れない。直接のライバルとなっているスペーシアと比べると、モード燃費ではNAエンジンについてはN-BOXが劣っている(ターボエンジンは同じ数値)。室内サイズでは、室内長はN-BOXが優っているが、室内高はスペーシアが上回るなど互角。そもそもサイズの決まっている軽自動車では、大幅にライバルを上回ることは難しい。
機能面でいえば、N-BOXはミリ波レーダーと単眼カメラによる先進安全装備「ホンダセンシング」を装備していることで、軽自動車としては数少ないACC(追従クルーズコントロール)を実装していることが差別化になっているが、この利便性だけをもって売れている理由とするほどの機能差とはいえないだろう。
しかし、軽自動車にACCを採用したことが象徴するような、エンジニアの「やれることはやる」といった意気込みが、N-BOXの売れ行きを支えている。初代N-BOXのデビュー時に新開発したエンジンを、わずか5年で全面的に刷新したのも、そうした意気込みを感じさせる。NAエンジンに、軽自動車として初めてVTEC(バルブタイミング&リフト可変)機構を与えたのも、その一例だ。日常走行ではVTECのハイカムゾーンに入ることはないというから、カタログの燃費性能にはさほど影響しないはずのVTECを搭載することで、リアルワールドでの満足度につながっている。
使い勝手でいえば、後席のチップアップも可能なベンチシート仕様、驚きの実感できるアレンジが可能な助手席スーパースライド仕様、簡単に車椅子モードにできるスロープ仕様と3タイプのキャビンを用意しているのも特徴だ。初代N-BOXに寄せられたリクエストに応えた結果といえる。
実際、N-BOXに乗ってみれば、スペックやメカニズムから想像する以上の満足度を感じさせることに驚かされる。そもそも売れているクルマだから期待値が高いのだが、走りにおいても使い勝手においても、そうした高いハードルを超えるパフォーマンスを見せるのだ。
軽自動車の枠を取り払って考えれば、絶対的な性能ではN-BOXより優れているクルマはいくらでもあるだろう。しかし、期待値に対する驚きという点ではN-BOXのレベルは高い。
そして見逃せないのは、走りの質の高さだ。クルマの性格から限界性能を云々するタイプではないが、ハンドリングの煮詰めや視界の確保などによって、日常域において思い通りに動かすことができる、安心して日常ドライブをできると実感できる走りに仕上がっていることが、N-BOXの高い評価につながっているはずだ。
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