ワーゲンバスの車内にプリクラが!
オンとオフ、つまり生きるためのお金を稼ぐ「仕事」と、それ以外の時間は、きっちり分けた方がいい――という考え方が以前は支配的だったように思う。だが昨今は「オンとオフの境目にこだわるなんてナンセンス。仕事と趣味は渾然一体にしちゃった方が、人生はより楽しくなる!」的な考え方も勢いを増している。
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筆者はそのどちらが正しいのかを判断する立場にない。だが過日おじゃました「平成カーラバーズMEETING 2nd」の会場にて後者、すなわち「仕事と趣味を渾然一体にして人生を楽しんでいる人」の良き実例を見た。
「ワーゲンバス」ことフォルクスワーゲン タイプIIに乗る都内在住の経営者、下田耕司さんだ。
下田さんの本業は、ウエディング関係のインテリアデザインと各種グラフィックの制作。今期で12年目となる下田さんの会社は東京世田谷と福岡博多の2ヵ所にオフィスを置き、堅調な経営が続いている。
その下田さんのビジネスに約3年前、フォルクスワーゲン タイプIIを使った「PhotoBus Japan」という新業態が加わった。
これは、外観としては赤/白のやや枯れた感じで、しかし車内は女子目線で非常にかわいらしくカスタマイズされたワーゲンバス(フォルクスワーゲン タイプII)を結婚パーティ等々にレンタルする。そしてそこで写真撮影をしてもらったり、そもそも「映える」ワーゲンバスゆえ、単純に「パーティ会場のかわいいオブジェ」としても活用してもらう――というニュアンスの事業だ。
さらにPhotoBus JapanのタイプIIの車内にはフランス製の「プリクラ機」が設置されており、めでたく式を挙げた直後のカップルがワーゲンバスの車内でプリクラを撮り、仕上がったモノを持ち帰る……なんてサービスも行っている。
購入するバスにお金を稼いでもらうという「自給自足購入法」
以上の話を読んで一部の人、特に熱心なフォルクスワーゲン タイプIIマニアは、もしかしたらこう思ったかもしれない。「我が神聖なるタイプIIを商売のタネにしやがって……許せん!」
そのお気持ちは理解できなくもないが、事実は大いに異なる。
下田さん自身が、実はフォルクスワーゲン タイプIIの大ファンなのだ。
「あれは4歳の頃だったと思いますが、家の近所で初めてバス(フォルクスワーゲン タイプII)を見たときに衝撃を受け、それ以来ずっとずっと『バスが欲しい!』って思ってたんです」
そう下田さんは語る。だが実際にはなかなかタイプIIを買うには至らず、時間ばかりが過ぎていった。そもそも仕事が非常に忙しく、何かと手がかかりそうな旧車を買う気にはなれなかった――というのもあったはずだ。
「でも今から3年前、やっとふんぎりを付けてバスを買ったんですよ。長い間恋い焦がれていましたが、これが私にとって初めてのフォルクスワーゲン タイプIIであり、現在は私にとって唯一の自家用車でもあります(笑)」 幼稚園児の頃から40年以上恋い焦がれ続けたものの、なかなか買うには至らなかった「バス」を、下田さんはなぜスパッと買えたのか?
それは、タイプIIがある暮らしを趣味だけでなく「仕事」にもしてしまえば、そのランニングコストはおそらく十分カバーできるはず――と踏んだからだ。
「ご存じのとおりタイプIIは非常に愛らしいデザインですので、私が本業としてやっているウェディング関係とは親和性が高い。で、タイプIIを『移動フォトスタジオ』に仕上げて貸し出すビジネスを行えば、まあ儲からないかもしれないけど、少なくともお客さまには絶対に喜んでもらえるはず。そして私としても、整備代とガソリン代ぐらいはまかなえるんじゃないか(笑)なんて思ったんですよね」
以上のプランをベースに、それまでは「夢」でしかなかったフォルクスワーゲン タイプIIを購入。エクステリアは前述のとおりやや枯れたニュアンスの白/赤ツートンだが、インテリアは下田さんの会社の女性スタッフが主導して「女子ウケする感じ」にカスタマイズした。
「私としては内装ももっと枯れた感じが好みなんですが、まあお客さまに喜んでいただくのがまずは第一ですから、そこは完全に女性スタッフのセンスに任せました」
仕事と趣味の境目は「もはや自分でもよくわからない」
「PhotoBus Japan」という下田さんの会社の新業態は無事軌道に乗り、現在は前述のとおり結婚式や、その「前撮り」あるいは「フォト婚」等々に大活用されている。損益を詳しく聞いたわけではないが、まあおそらく「ガソリン代」ぐらいは十分稼いでくれていると思われる。
そんな感じで「働いている」下田さんのワーゲンバスだが、もちろんPhotoBus Japanの依頼というのは毎日毎日あるわけでもない。そのため、バスくんは「社員」としては「お休み」となる日もそれなりに多い。
そういった日に下田さんは経営者ではなく「単なるタイプII愛好家」として、この車と時間をともにする。のんびりトコトコ運転しながら、趣味である写真撮影を楽しみながら。
「写真という趣味も、そもそもは『バスを撮りたい!』ってところから始まったんですよね。素敵な車ですから、なるべく素敵な写真を撮れるようになりたい……なんてやってたら、いつの間にか撮影機材も増えてしまったのですが」
撮影機材が増えてしまったことについては、もしかしたらちょっと大変なのかもしれない。だが単純に好きで始めた写真撮影という趣味も、今では結局「仕事と渾然一体になっている」という。
「ウチのバスの素敵な写真を撮って、それをインスタグラムとかにアップすると、図らずも“いい宣伝”になりますし、本業(インテリアデザイン)の方でも、自分で本格的な写真が撮れれば何かと便利ですしね。もはや仕事と趣味を境目は、自分でもよくわかりません(笑)」
オンとオフはきっちり分けた方がいいと考える人からすると、下田さんのやり方は、もしかしたら賛同しかねるのかもしれない。それはそれでひとつの見解であるため、筆者はそこに特にコメントはしない。
だが少なくとも筆者が見た下田さんは、「とっても楽しそう」ではあった。 フォルクスワーゲン タイプIIを探してみる文/伊達軍曹、写真/小塚大樹
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