世界最高峰で戦い続けるホンダの源流マシン
今シーズンも2輪と4輪、それぞれの世界最高峰となっているMoto GPとF1GPで戦い続けているホンダ。今回のオートモビルカウンシル2020では、それぞれの源流ともいえる2台のGPマシンが展示されています。その脇を固めるように、市販モデルの“タイプR”も展示されていましたが、この“タイプR”は、今もサーキットで戦っています。それも含めてこの3台は、ホンダが戦い続けていることを主張しているかのようでした。
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僅か250ccの小排気量ながら並列6気筒でパワーを追求
レースの世界では古今東西を問わず、絶対的なパワーが重視されてきました。そのために手っ取り早いのはエンジンをより高回転まで回せるようにすること。そこで多気筒化が実践されてきました。
ホンダが最初に2輪ロードレースの世界選手権(WGP)に挑戦を始めたころ、ライバルの多くが2サイクルのエンジンを使用していました。理論的に、4サイクルに対して爆発回数が2倍になる2サイクルの方がパワーを出すには有効だからです。
そこに頑固な「親爺」が率いるホンダが、4サイクルで挑むことになりました。彼らが採った作戦が多気筒化でした。当時の250ccクラスといえば2サイクルの2気筒が一般的でした。そこにホンダは4サイクルの並列(直列)4気筒を開発・投入したのです。
1959年にデビューしたRC160は、250ccクラスとしては世界初の4気筒エンジン搭載車として注目を集めました。61年には発展モデルのRC162でシーズン10勝を挙げ、メーカータイトルを獲得しています。
その後、63年まで3連覇を果たしましたがライバルも性能を向上させ、64年と65年にはタイトルを逃すことになりました。そこで66年には250ccクラスのタイトル奪還に加え、50cc、125cc、250cc、350cc、500ccと5クラスすべてでタイトルを獲得することを目標に挙げ、マシンの性能向上に励んでいったのでした。
もっとも激戦だった250ccクラスのマシンには並列(直列)6気筒が搭載されていました。そしてシーズン序盤から3RC165(前年モデルRC165のアップデート版)で8連勝を飾ると終盤にはさらにパワーアップを果たしたRC166を投入しました。最高出力60馬力以上(ℓ当たり240馬力以上!)を発揮するという、まさに究極の6気筒レーサーとなったRC166によってWGP史上初となる5クラス制覇が完結したのです。
2輪のWGPで鍛えられた技術はF1GPカーにも応用された
そんな2輪で磨いた技術は、4輪モータースポーツの世界最高峰、F1GPでも活かされることになりました。
ホンダのF1GPチャレンジは、そもそもロータスにエンジン供給する計画で始まったプロジェクトでしたが、ロータスがフォードの意を酌んで提携契約が反故にされたことで、やはり頑固親爺に率いられたホンダは、自前のシャシーを製作し、エンジンコンストラクターとしてではなくフルコンストラクターとしてF1デビューを果たすことになります。
そして1964年、ドイツGPでのデビュー戦こそ散々な結果に終わってしまいましたが、フル参戦となった65年シーズンは最終戦のメキシコGPで見事初優勝を遂げることになりました。
この当時のエンジンは1.5ℓの横置きV12でした。ライバルを見てみると、フェラーリ以外はほぼ全車がV8エンジンを縦置きに搭載しており、唯一V12を自製していたフェラーリもマウント方法は一般的な縦置きで、しかもV12のクランクセンターからパワーを取り出すスタイルは、2輪の考え方を踏襲したものでした。
つまりクルマのパッケージングとしてホンダは相当な“変わり者”だったのです。それでも圧倒的なパワーを生み出し、最終的には優勝にまでたどり着いたホンダは、多くの称賛を浴びることになりました。
翌65年からはエンジン規定が変わり排気量が3ℓ以下にまで引き上げられたためにホンダでも新エンジンを開発することになりました。ここでもV12が選ばれたのですが、さすがに排気量が3ℓとなってサイズアップしたために、マウント方法は一般的な縦置きに変更されましたがクランクのセンターからパワーを取り出す基本的なスタイルは継続されてました。
この3ℓF1でも当初は苦戦したのですが、2シーズン目となる67年のイタリアGPでは、この年からチームに参加したジョン・サーティーズが見事トップチェッカー。ホンダに2勝目をもたらすことになりました。今回のオートモビルカウンシルに展示されていたのは、このイタリアGPで優勝した個体です。
ところで、ホンダのエンブレムとして4輪ではホンダのイニシャルをあしらった“Hマーク”が使用されており、一方2輪車では鳥の羽をデザインした“ウィングマーク”が使用されています。ところが、F1のエンジン開発用として製作されたテストシャシー、RA270のステアリングには何と“ウィングマーク”のエンブレムが装着されていました。
当時はまだ4輪の量販車が登場する前だったので“Hマーク”自体が考案されていなかったのでしょうか? いずれにしてもホンダの、早すぎたほどのF1GPへの挑戦でしたが、この第1期では通算2勝の結果を残しています。
サイズアップをとやかく言われながらもシビックは今もサーキットで戦う
2台のレーシングモデル、いや偉大なるレジェンドマシンの隣に控えていたのはシビックTYPE Rのマイナーチェンジモデルです。
この夏に発売予定だったシビックTYPE Rのマイナーチェンジモデルは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から生産活動が制限されてしまい、発売の延期が発表されていましたが、10月発売の予定が発表されました。
実はシビックは、1972年に発表された初代モデルのSB1から始まり、歴代モデルがサーキットレースに登場している数少ないモデル(ブランド)です。ここ数代に限って言えばサイズアップが明らかで、そのモデルチェンジの是非を問う声が喧しいのは事実ですが、それでもサーキットで戦っているのは紛れもない事実。そして今回マイナーチェンジを受けて登場する10代目(の後期モデル)もサーキットで戦っているのです。
実際のレースデビューはまだ少し先になるようですが、先日、鈴鹿サーキットにおいてフルコースを使ったタイムアタックを実施。市販モデルのFF車両としては、これが最速記録となる2分23秒993をマークしているのです。ルノーに奪われていた鈴鹿での同クラス最速タイムを、鈴鹿をホームコースとするシビックが奪い返した格好です。
モデルチェンジの度にサイズアップしてきたことはともかく、これほどまでにストイックに速さを追求したは、やはりホンダならでは。そう、シビックもまた、今でも戦い続けているのです。
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