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陸上を突き進む凶暴な「ウツボ」 ベースは7.0L V8のサンダーバード ムリーナ429GT(2)

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陸上を突き進む凶暴な「ウツボ」 ベースは7.0L V8のサンダーバード ムリーナ429GT(2)

霊柩車のようにも見える6.3mのワゴン

ムリーナ429GTの前にあった道のりは、極めて険しかった。仮に多くの注文を集められたとしても、信頼性の高い部品を提供するサプライヤーは限られていた。当時のイタリアは、政治的にも産業的にも混乱期にあり、生産は断続的にしか進まなかった。

【画像】6.4mのシューティングブレーク ムリーナ429GT 同時代の希少ワゴン マスタングも 全102枚

結果として、品質管理と納車計画はまったく安定しなかった。購入の意志を伝えても、納期は6か月後かもしれないが、9か月後かもしれないと説明されたとか。

インターメカニカ社とチャーリー・シュウェンドラー氏、ジョセフ・フォス氏のチームは10台を生産。そこで白旗が挙げられ、プロジェクトには終止符が打たれた。最後の429GTがラインオフしたのは、1970年。3月に一部の自動車雑誌で紹介されている。

今回ご紹介するブラックの429GTは、1969年12月に完成した1台。当初のオーナーは不明だが、来歴とは関係なく、初対面で受ける衝撃は半端ない。全長は6350mm、全幅は1930mmもあるのに、全高は1270mmと驚くほど低いからだ。

2ドアのシューティングブレークは、呆気にとられるほどワイド&ロー。ボディカラーのおかげで、霊柩車のように見えなくもない。スタイリングはシンプルで、装飾は最小限。ボディサイドの低い位置に、クロームメッキのトリムが伸びる。

7033ccのV8は365ps 怒鳴るような轟音

1960年代の少量生産車らしく、インテリアには未完成感が漂う。イエーガー社製のメーターが整列しているものの、ダッシュボードは不自然にフラットで、固定用ボルトがセンターコンソールに露出する。

ステアリングホイールはナルディ社製だが、スイッチ類は当時のフォードからの流用。その1つを押すと、細長いリアウインドウが下方へ落ちる。ステアリングボス部分には、ムリーナというブランド名の由来となった、蛇のような魚のロゴが記されている。

フォスは1969年のある日、イタリア・トリノのレストランでシーフード・サラダを注文した。それに含まれた食材の1つがわからず、同席していた知人へ尋ねると、サルディーニャ島で穫れる凶暴なウツボだと教えてくれたらしい。その名が、ムリーナだった。

運転席からの眺めにイタリアン・エキゾチックらしさは薄いが、エンジンを始動させれば、ボディへ隠れていたフォード・サンダーバードが表出する。資料によれば、7033cc(429cu.in)のV型8気筒エンジンは、365psを発揮するという。

今回の429GTには、僅かに手が加えられているが、正確な馬力はわからないそうだ。防音性が低いためか、怒鳴りつけられるような轟音が前方から響いてくる。巡航時はウゴッウゴッウゴッと聞こえるが、右足を傾けると図太く吠え始める。

ノーズを持ち上げながら豪快に加速

7.0L V8エンジンは、アクセルペダルの僅かな動きへしっかり反応。加速力は笑えるほど豪快で、不安もつきまとう。ベースのフォード・サンダーバードより、車重は454kgも軽いらしい。

3速ATは、大きなハンマーのようなレバーで操る。Dのままでも、息を呑むほど俊足。パワーボートのように、テールを沈めノーズを持ち上げながら、速度が増していく。発進時に、リアタイヤを空転させながら。

カタログ上の最大トルクは、66.2kg-m/2800rpm。高回転型ユニットと異なり、回転の上昇を待つことなく加速へ移れる。スピードメーターは、時速180マイル(約289km/h)まで振られている。

そのかわり、エンジンは重い。カーブでの反応は、機敏とはいえない。ブレーキは、前がディスクで後ろはドラムで、制動力が頼もしいほど強いわけではない。操縦性が悪いとまではいえないものの、全体的には薄味で曖昧だ。

低速域では、実際以上に大きく重く感じられる。少し気張ると、予想通りフロントタイヤが路面を掴みきれず、アンダーステア。旋回が始まると、明確に荷重が移動する。テールが暴れないよう、パワーオンのタイミングは正確に図る必要がある。

試乗したマン島の道幅は狭い。石垣で覆われているが、429GTの進路が乱れたら、コテージの1・2軒をなぎ倒す可能性はある。広く真っ直ぐな、アメリカの高速道路をおおらかに走らせるべきクルマといえる。

陸上を突き進む真っ黒で凶暴なウツボ

新車時に試乗したロード&トラック誌は、走行中の振動音が大きいと指摘していた。このクルマは建付けが良いのか、きしむような音は聞こえてこない。乗り心地は、現代的なスポーツサルーンより遥かにしなやか。路面の凹凸を、綺麗に均してくれる。

人間工学が優れるわけではなく、手の届く範囲にスイッチはない。それでも、ステアリングホイールは膝に当たらず、メーターは読みやすい。しっかり外界も見渡せる。

至って破天荒なシューティングブレークだが、うっかり好きになってしまう個性がある。数時間ともにすれば、アメリカ大陸など簡単に横断できそうに思えてくる。不足ないガソリン代を準備できれば。

エンジンは、味わい深いイタリアンV12ではないものの、頑丈なアメリカンV8だ。ハンマーで叩いて、直せるかもしれない。

新車当時にライバル不在といえた429GTだが、今でも匹敵するようなモデルは思い浮かばない。完璧とは程遠いかもしれないが、運転は面白い。タイヤスモークを漂わせながら、陸上を突き進む真っ黒なウツボ。その凶暴さに、つい笑顔が湧いてしまう。

協力:ダレン・カニンガム氏、スティーブ・グリン氏

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