空間と人流の不整合
駅前には人がいる。通勤や通学、送迎、乗り換えなどで、人の流れは絶えない。しかし、そのすぐ近くにある商店街では、多くの店舗がシャッターを下ろしたままだ。
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この風景は、もはや珍しいものではない。かつては「人通りがあれば商売になる」と信じられていた。だが、その前提はすでに崩れている。
人々の行動範囲は、車とスマートフォンによって広がった。買い物先は駅ナカや郊外の大型店舗、あるいはネットに移行している。
こうした「シャッター商店街」は、社会問題として長く取り上げられてきた。だが、今もなお放置されたままの商店街の方が多い。
なぜ、商店街は再生されず、閉じたままなのか。その背景と構造を、あらためて考えてみたい。
改修困難な老朽建築の現実
地方のシャッター商店街で空き店舗が放置される主な理由のひとつが、店舗と住居が一体化している点にある。戦後から高度成長期にかけて建てられた店舗兼住宅の多くは、住居部分と店舗部分を明確に分離できない構造だ。このため、売買や賃貸の対象として極めて扱いづらい。
現在も住宅として使われているケースが多く、
・1階だけ貸したい
・住宅部分だけ売却したい
といった対応が難しい。実際、埼玉県が実施した「平成28年度商店街経営実態調査」では、
「店舗が住宅との兼用であるため」
との回答が全体の20.5%を占めた。構造上の制約が市場流通の妨げになっている実態が浮かび上がる。
さらに厄介なのは、物件の老朽化だ。築年数が経過し、耐震性や防火性の面で現行法規に適合しないケースが多い。リノベーションを検討しても、法規制をクリアするには大規模な改修が不可欠となる。場合によっては、建て替えと同等かそれ以上の費用が発生することもある。
加えて、商店街のように建物が密集したエリアでは、改築に際して隣接地所有者の同意が必要になることもある。たとえ単独所有であっても、実質的には自由に活用できない不動産と化している。
この点についても、同調査では「土地・建物の権利関係の問題で貸しにくいため」との回答が9.7%にのぼる。また、「空き店舗情報の提供や入手機会が少ないため」とする回答も4.5%あり、情報や制度の面でも流通が妨げられていることがわかる。
つまり、空き店舗が多い理由は「人気がない」からではない。流通させたくてもさせられない――そうした不動産が、都市の中心で静かに眠り続けている。
固定資産税6倍のワナ
それ以上に問題は、所有者が物件を動かす合理性を感じていない点にある。例えば、店舗を撤退させるには建物の解体が必要だ。小規模な木造2階建の場合、解体費用は坪単価3万円、総額で100~200万円とされる。これは所有者にとって大きな負担である。
一方、空き家であっても建物を維持していれば、固定資産税の軽減措置「住宅用地特例」が適用される。200平方メートル以下の小規模住宅用地であれば、固定資産税の課税標準は最大で6分の1に軽減される。つまり、更地にすれば税負担が最大で6倍に跳ね上がる。すぐに売却できなければ、その分のコストが重くのしかかる。結果として、
「建物を壊さず、ただ置いておく」
という選択が現実的な対応になる。埼玉県が実施した調査でも、「貸さなくても売らなくても差し支えないため」と回答した割合は33.0%に達した。経済的に困窮していない所有者にとって、あえて費用をかけて動かす理由は見当たらない。ごくわずかな固定資産税を支払いながら、漫然と物件を維持し続けているのが実情だ。
本来は、建物を解体して早期に売却するのが理想だろう。しかし、それは現実的ではない。特に地方都市では、狭小な店舗用地に買い手がつく可能性は低い。仮に売れたとしても、解体や手続きにかかる費用が売却益を上回る可能性がある。
シャッター商店街において、古いアーケードの一角にマンションが建っているような風景を見かけることがある。それは、偶然にもうまく売却できた“幸運な例”だといえる。結局のところ、何もしないという選択肢が、他のあらゆる選択肢よりも合理的と見なされている。それが、地方のシャッター商店街を止められない根本要因となっている。
リスク一方通行の不均衡
地方の商店街では、新たに開業を志す者が構造的に不利な立場にある。空き店舗の多くは老朽化が進んでおり、そのままでは使えない。内装やインフラの改修には、数百万円規模の初期投資が必要になる。
それにもかかわらず、立地としての集客力は低く、短期間での投資回収は難しい。結果として、継続的な収益を期待しにくい場所に、長期の事業投資を行う合理性は乏しい。
一方で、空き店舗を所有する側──元の商店主や地権者の多くは、すでに引退しており、年金などの収入で生活を成り立たせている。彼らは貸し手の立場にあり、物件を活用するかどうかは完全に自由である。新たな資金を投入する必要はなく、貸せば賃料が入る。貸せなくても、大きな経済的損失にはつながらない。
この構図では、新規参入者にばかりリスクが集中する。しかも、得られるリターンは不確実であり、関係はきわめて非対称である。
さらに、開業の動機が自己実現や夢の実現である場合、事業継続への強いインセンティブが働きにくい。その結果、地域再生にとっては不安定な基盤になりやすい。
費用・リスク・地域構造という三重の負担が新規事業者に重くのしかかる限り、空き店舗問題の抜本的な解決は見込みにくい構造が続く。
多数合意求められる壁
商店街の空き店舗対策として、再開発がしばしば取り上げられる。だが、たとえ大手デベロッパーが関与したとしても、実現には長い時間がかかる。その最大の要因が、土地所有の分断である。
多くの商店街では、個人が所有する小規模な区画が密集している。このため、再開発には多数の地権者の同意が必要になる。現行制度では、再開発組合の設立や権利変換には、原則として多数の賛成が求められる。少数でも反対があれば、計画は簡単に頓挫する。
合意形成をさらに難しくするのが、再開発による恩恵が均等に分配されるとは限らない点だ。たとえば、再開発後に高層ビルを建て、下層階に店舗、上層階に住居を配置するケースを考える。営業中の店舗にとっては、どの位置に、どれだけの面積で戻れるかが死活問題になる。一方、住宅利用者にとっては、新たに与えられる住宅区画の広さや条件が最大の関心事になる。
それぞれの事情や利害が異なる上、近年では権利者の所在確認から始めなければならない例もある。こうした背景により、地権者全体の合意形成には相当の時間を要する。
しかも、再開発が必ずしも成功するとは限らない。大阪市阿倍野区の事例では、計画の長期化と設計変更によって動線の確保が不十分となり、一部のエリアにのみ人が集中した。その結果、賑わいの偏在が生じ、空き店舗が再び発生する事態となった。
このように、土地所有の分断に加えて、再開発による利益の感じ方にも大きな差がある。こうした温度差こそが、再開発や地域再生を困難にしている構造的な要因である。
夜間飲食街への急速転換
地方商店街では、店舗を自ら営む人はすでに少数派だ。多くはかつての商店主が物件を所有し、賃料収入で生活している。実質的には不動産業の形態である。ただし、このモデルが成立するのは駅周辺など立地条件の良い都市部に限られる。
地方の多くの商店街では、借り手がつかず収益を上げられないため、賃貸による生活設計は成り立たなくなっている。住宅への転用も検討されるが、商業地であることからスーパーや学校などの生活利便施設が近隣に乏しい。また、隣地との接道や防火規制の制約で建て替えや用途変更が困難な場合も多い。
こうした状況下で地方のシャッター街に見られるのが、飲食街への転用である。日中は人通りが減っても、夕方以降は一定の集客が期待できるため、飲食業への出店意欲は存在する。その結果、商店街と称しながらも、実態は夜間営業の飲食店が並ぶ場所も少なくない。
例えば、JR岐阜駅前の繊維問屋街は、かつて繊維関連卸売業が集積していた。しかし産業衰退とともに空き店舗が増え、現在は居酒屋など飲食店が目立つようになった。JR岡山駅前の商店街も、一般商店はほぼ消滅し、夕方以降の飲食店が中心に変わっている。
こうした転換は収益面で一定の効果を持つが、地域によっては治安や景観との調和が課題となる。結果として「にぎわいの再生」とは異なる形態での転用に留まっているのが実情である。
減少する商圏人口の壁
商店街活性化策として、国や自治体は多様な支援を展開している。自治体による補助金のほか、経済産業省や中小企業庁は専門家派遣や事業計画策定支援など、面的支援も実施している。個店単位ではIT導入補助金や販路開拓支援などの施策が用意されている。空き店舗の改装費補助や家賃の一部負担、新規出店の開業支援など、支援メニューは多岐にわたる。これらの支援により、一時的に店舗数が回復したり、街の表情が変わったりする例もある。
しかし、支援策には限界がある。すでにシャッター街化している地域では、店舗所有者の高齢化が進み、自ら商売を再開する意欲や体力が乏しい場合が多い。
「改装すれば店が開く」
という前提は実態と乖離している。意欲ある新規出店者が現れても、継続は容易ではない。
地方では自治体が店舗兼住宅を含む空き物件情報を整備し、UターンやIターンの移住者を呼び込む取り組みが増えている。開業費用に対する補助金や移住支援が組み合わされるケースも多い。こうした施策で開業が実現すれば、地元メディアに取り上げられ、一時的な賑わいが生まれることもある。
問題はその後だ。開業初期は物珍しさから客が集まっても、肝心の商圏人口は減少傾向にあり、持続的な収益確保は困難である。そもそもシャッター街化したのは、その地域で商売が成り立たなくなった結果だ。補助金で店は開けても、顧客が戻るわけではない。
筆者(昼間たかし、ルポライター)の取材経験では、こうした商店街で比較的持続しているのは
・カフェ
・パン店
などの飲食店に限られる。一般的な小売店が根付く例は極めて少ない。新規店舗が賑わっても、周囲はシャッターを閉じた店ばかりという光景も珍しくない。
つまり、新規事業者の参入だけでは、来街者数や購買力といった需要側の根本的な変化がなければ、商圏全体の再生は難しい。補助金は空間を一時的に埋める手段に過ぎず、構造的な変化を生み出すには至らないリスクを常に抱えている。
空き店舗保有者の半数超の消極姿勢
商店街の空き店舗が動かない理由は、経済的損得や制度上の問題だけではない。そこには、所有者の感情や自由意志といった非経済的要因が存在している。
少し古いデータではあるが、中小企業庁が2008(平成20)年に実施した「空き店舗所有者の意識等に関する調査」がその感情面をよく示している。この調査対象の所有者のうち、空き店舗を「手離すつもりはない」と答えた者は全体の32.5%に上る。さらに「わからない・どちらともいえない」(37.7%)を含めれば、過半数以上が消極的な姿勢を示している。
空き店舗を売却しない理由としては、代々の土地に対する思い入れやこの場所へのこだわり、子どもへの相続といった感情的理由が最も多い。調査のコメント欄には、次のような声が並ぶ。
・土地は父が残してくれたもの。土地には父と母の思い出がある
・根なし草の人生はいやである
・親の代から引き継いでいるものなので、手放したくない
・先代が戦前土地(借地)を持たずに建物を建て退去させられた経験がある
このように、収益が上がらず経済的利益が得られなくても、感情的な判断が資産の運用や流通を止めているのだ。
一方で事業としての継続性はなく、店舗が子や孫の世代に引き継がれることもない。結果として、使われない空き店舗が何十年も街に残り続ける構図が生まれている。活性化策を考える際には、「なぜ動かないのか」を経済合理性だけで捉えるべきではない。所有者の感情や記憶といった非経済的要因にも目を向ける必要がある。
鉄道駅近接で蘇る商店街
シャッター商店街を語るうえで、もはや見過ごせないのは、日常の買い物の場としての商店街が、その競争力をほぼ失っている事実である。かつて商店街は地域住民が徒歩や自転車で気軽に訪れる場だった。しかしモータリゼーションの進展により、郊外には大型商業施設が広大な駐車場を備えて立地し、車社会に最適化された買い物動線を提供している。
一方で、旧来の中心市街地や商店街は駐車場不足や狭い道路といった課題を抱え、来街者にとって物理的アクセスが大きなハードルとなっている。この非対称は交通インフラの違いにとどまらない。大型商業施設はシネコンやイベントスペース、ゲームセンター、子ども向け職業体験施設などの集客装置を戦略的に配置し、来訪者を回遊させる構造を築いている。
もはや大型施設は「街」として完結しており、商店街との競争は構造的に成立しないのだ。一方で例外も存在する。高松市の丸亀町商店街は、商店街の上層に集合住宅を併設し、定住人口を確保。百貨店を核としたテナントミックスやプロムナードの整備により、都市型ショッピングモールに近い形へ再構成された。
重要なのは、再開発された商店街が再び機能するためには、
・鉄道駅への近接
・交通利便性
・集客装置の存在
が不可欠だという点である。いい換えれば、郊外に対抗できるのは、駅に直結し徒歩での回遊が可能で、公共施設やイベント空間をともなった都市型商業集積のみである。
逆に、そうした条件を欠く地方商店街は、買い物の場としての優位性を取り戻すことは困難だ。なによりも、そのための大規模改造を実現する合意形成が欠かせない。そうでない商店街は、たとえ駅前であっても通過される場所にしかならず、シャッター商店街化を避けられないのである。
砂町銀座が示す特化戦略
商店街の意味はもはや商業だけでは語れない。
・高齢化
・人口減少
・買い物弱者の増加
といった社会構造の変化にともない、商店街には地域福祉の拠点としての役割が求められている。しかし、担い手不足や収益性の低さから、その期待に応えられる事例はごく一部に限られる。
また、歴史ある商店街では、建築様式や町並みが文化資産として評価されることもある。だが景観維持や伝統構造の保存は、建て替えや用途変更を難しくし、利用価値の柔軟性を奪う場合もある。
例えば東京都江東区の砂町銀座商店街では、惣菜や総菜パンなど晩のおかずに特化した小売が主流だ。その他の商業機能は近隣の大型商業施設「アリオ北砂」が担っており、商店街はもはや総合商業施設ではない。
それにもかかわらず、街並みと日常のにぎわいはメディアでも取り上げられ、周辺住民の日常利用だけでなく観光的消費の対象にもなっている。これは商店街が昭和的情緒の再演として機能しているからだろう。
結局、商店街が生き残る道は何でも売る総合商店街ではなく、
「ここでしか味わえない何か」
に特化することだ。砂町銀座のように晩のおかずに集中したり、昔ながらの街並みを活かした昭和の雰囲気を売りにしたりする形が求められている。
衰退受容か成熟かの岐路
商店街は誰のためのものか、誰が何の目的で守ろうとしているのか、その問いに明確な答えはまだない。
再生か放棄かという二択ではなく、「動かさずに保つ」という静かな選択肢が現実には各地で採られている。
衰退する商店街の姿をそのまま受け入れる都市の姿勢は、諦めなのか成熟なのか。その結論は容易に出るものではない。
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みんなのコメント
貸すにしても現在の価値と釣り合わない高額
もうそんな価値は無いのにブライドだけはまだ高い
著者には、都市の鉄道と地方の鉄道が全く異なることを認識してほしいと思います。