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WEC富士は“リベンジ”の舞台。ル・マン優勝は「もう忘れた」平川亮の戸惑いと悔しさ

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WEC富士は“リベンジ”の舞台。ル・マン優勝は「もう忘れた」平川亮の戸惑いと悔しさ

 3年ぶりの開催となるWEC世界耐久選手権の富士6時間レースが、いよいよ9月9~11日に迫ってきた。2022年のWEC第5戦、最終戦前の天王山に位置づけられるこのイベントには、トヨタGAZOO Racingが昨年からハイパーカークラスに投入した『GR010ハイブリッド』が、ついに日本初上陸を果たす。

 そして今年から8号車をドライブする平川亮にとっても、地元・日本でのレースに“世界選手権ドライバー”として初めて参戦することになる。しかも、“ル・マンウイナー”という肩書きを引っ提げての、堂々たる凱旋だ。

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 待ちに待った富士スピードウェイでのレース、そして世界選手権タイトルに向けた争いにおいても極めて重要な一戦を前に、平川は何を思うのか。今季ここまでのレースのレビューと、富士戦への展望を聞いた(取材は8月中旬に実施)。

■ル・マンの優勝は「通過点」

 3月のセブリングでのデビュー戦では、2位表彰台を獲得した平川。しかし続く第2戦スパ・フランコルシャンでは、マシントラブルによって早々にリタイアを喫したことで、決勝でのドライブ機会がなかった。これが、第3戦ル・マンに向けた不安材料になっていた、と平川は振り返る。

「初戦のセブリングに関しては、(BoPの影響で)性能的に厳しい部分があったのですが、そのなかで最大限走って2位が獲得できました。このクルマでの初レースという面で、まずは良かったですね。ただ、次のスパではトラブルにより自分は走れなくなってしまい、経験値という意味ではル・マンに対して不安が残ってしまいました」

 不安を抱えて臨んだそのル・マンでは、事前のシミュレーターテスト、そしてレース1週前のテストデーを含めて比較的多くの時間ドライブすることができ、「最大限の力を発揮できた」という。

「レースで走りながらクルマにも慣れましたし、24時間を戦いながらこのWECというレースにも慣れてきた感じはしました」

 その結果、ミスなく自分のスティントもこなし、トップカテゴリーでは初挑戦となるル・マンで見事に初優勝。2017年にもシート獲得のチャンスがありながら、それをつかむことができなかった平川が、ついに夢を手に入れた瞬間だった。

 直後は「実感がない」と繰り返していた平川。2カ月以上が経過したいま、改めて精神的な変化を尋ねてみると、「正直に言うと、いい意味で余裕が出たかなと思います」と打ち明ける。

 ただし、意外なことに「優勝したことを、もう忘れた感じはあります」とも言う。

「自分のなかで、それも通過点だと思っているのかもしれませんし、まだこれから強敵がどんどんやってくる。あんまり、うかうかしてられないと思っています。今年のチャンピオンも狙っていますし、来年はさらに台数が増えるので、それに向けて心の準備などを、ちゃんとしておかなければいけません」

■“ダブルスティントの難しさ”に直面したモンツァ

 平川が言うように、第4戦モンツァではプジョーの2台がデビューを果たしただけなく、来年以降のWECハイパーカークラスには、フェラーリやポルシェ、キャデラックなどのル・マン・ハイパーカー/LMDh勢が続々と参入してくる。この先、戦いが激化することは間違いない。

 そういった将来の状況が頭にあるからだろう、ル・マンの優勝よりも、それに続く第4戦でアルピーヌに惜敗したことの方が、平川の心には残っているようだ。

「正直、悔しいです。あと少しのところで優勝ができて、自分の最終スティントでもアルピーヌと近いところで走れていたのですが、抜けなかったことがすごく悔しい。富士ではリベンジをしたいと思っているところです」

 そのモンツァでは6時間レースの最終スティントを担当。レース中には、“想定外”の事態にも見舞われていた。

「当初僕はダブルスティントではなく、タイヤは途中で替える予定だったのですが、急遽ダブルスティントに変わったんです」と平川。タイヤのセット数制限があるWECにおいては、決勝レース中に1セットのタイヤを2スティント連続で使う場面が必ず生じるが、それはドライバーにとっては非常に難しいものだという。

「どれくらいのペースで走れば、どれくらい(グリップが)残るかというのが、路温によってもサーキットによっても、クルマのバランスによっても変わります。乗り方や、燃費走行をしている・していないでも全然違ってきてしまうんです」

「(モンツァでは)ピットアウトしたらいきなり7号車とアルピーヌが近くにいてバトルになって、でもスティントの最初なのでタイヤもセーブしなくてはいけなくて……。そこは結構、戸惑いました。ああいった状況はテストでは経験できないですし、終わってみて振り返ると『あそこはこういうふうにできたかな』とか、そういう発見も多かったです」

「スーパーフォーミュラやスーパーGTでは、基本的にタイヤは1スティントもてばいいので、飛ばしすぎたとしても最後はなんとか耐えることができます。一方でWECのダブルスティントでは、うまくマネージメントできれば後半に結構効いてくるんです。そこが一番難しい部分だと思っています」

■シケインが“すごく狭く感じる”GR010ハイブリッド

 そんな難しい状況に身を置いたことで、さらなる“経験”を手にして富士へと向かう平川。8月下旬にはTGR-E(トヨタGAZOO Racing・ヨーロッパ)でのシミュレーターテストも予定している。

 平川自身は走り慣れた富士とはいえ、3人でドライビングを分担するWECではレースウイークの乗車時間も少ないため、「リズムを作る」ためにもシミュレーターテストは重要だという。もちろん、エンジニアリング側としては、セットアップなどの面でも事前に確認できることは多いようだ。

 気になるGR010ハイブリッドの富士でのポテンシャルについては、「まだBoPは決まっていませんが、ル・マン以外の他のサーキットと同じような感じだとは思います」と平川。フロントにハイブリッドシステムを搭載するGR010だが、BoPによってその作動可能速度は今季ここまで『190km/h以上』とされてきた。そのため、富士でも“四輪駆動”のフルポテンシャルを発揮できる場所は、あまり多くなさそうだという。

 ライバルとなるプジョー、アルピーヌとは、富士でも接戦となることを予想している。

「モンツァでもタイムは拮抗していましたし、富士ですごい差が出るとは考えにくい。僕らができるのは、やっぱりレースで安定して速く走ること。それが一番だと思います」

「あと、モンツァで感じたのですが、僕らのクルマはサイズが大きいので、シケインとかがすごく狭く感じるんですよ。だから富士でも、ダンロップコーナーなどはすごく難しいだろうと思っていて、そういうところ(をうまく走れるかどうか)で差が出そうな気がします。しっかりといいバランスのクルマを作っていって、とにかく決勝で速く・安定して走れるようにしたいですね」

 ホームコースということで、観る側としては平川が8号車の予選アタック担当になることに期待も膨らむ。

 本人も「担当できるように頑張りたい」と前向きな姿勢を見せるが、そのためにはニュータイヤでのアタック経験を積む必要がある。通常トヨタは、予選前に3回行われるフリープラクティスそれぞれの冒頭においてニュータイヤでの予選シミュレーションを行うが、僅差の予選を制するためには、3回の練習はあまりにも少ないように思える。

 それでも、もしアタックを命ぜられたら「覚悟を決めなきゃいけないですね」と平川は表情を引き締める。タイトル争いも佳境を迎える状況のなか、「予選アタックをするとなると、レースウイークのプレッシャーは何倍にもなる」。果たして平川のアタックはあるのか。ここもひとつ、富士で注目したいポイントだ。

■「勝ちにいくしかない」富士決戦

 自身の凱旋レースとなるWEC富士。サーキットに来場する観客には、どんなところ見て欲しいのだろうか。平川は今季のWECの見どころとして、『クルマの個性』を挙げてくれた。

「たとえばアルピーヌはクルマが小さくて、(GR010と)横に並んだら差が歴然だと思いますし、彼らはダウンフォースが多いのでセクター2が速いと思います。その分、ストレートは遅い。プジョーもそれに近いようなイメージで、僕らよりはダウンフォースが少し多そうです。その影響でコーナーの挙動も違うはずですし、ストレートのスピードも違うはず。モンツァと同じように、富士でももちろんストレートでのバトルはあると思います。4カテゴリーがいろいろなスピードで走るところはぜひ見て欲しいですね。あと、狭いコーナーで、大きいクルマの僕らが苦労しているところも(笑)」

「初めてGR010ハイブリッドを日本で走らせることは、僕自身もすごく楽しみにしています。また、自分が世界に出て、世界選手権で戦っているところも、日本の皆さんにぜひ見に来て欲しいです」

「僕ら8号車としては優勝して、ランキング首位に対して差を詰めなければいけません。もう勝ちにいくしかないと思っていますし、チームとしても地元でのワン・ツーをしっかり獲れるよう、準備をしていきたいと思っています」

 富士では、自身初となる“世界タイトル”に向けて奮闘する平川の姿が見られるに違いない。

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