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【中野信治のF1分析/第18戦】フェルスタッペン3連覇の歴史的価値。初のタイヤ周回数制限とドライバー体調不良の背景

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【中野信治のF1分析/第18戦】フェルスタッペン3連覇の歴史的価値。初のタイヤ周回数制限とドライバー体調不良の背景

 ロサイル・インターナショナル・サーキットを舞台に行われた2023年第18戦カタールGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が決勝をポール・トゥ・ウインで制し、スプリント終了時点で3年連続のドライバーズタイトル獲得を決めました。今回はフェルスタッペンの強み、前代未聞のタイヤ制限レース、決勝で続出した体調不良や、代役参戦を終えたリアム・ローソンなどについて、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

【F1カタールGP決勝の要点】夜でも30度超、周回制限で3ストップ必至。レースに適さない環境での開催が生んだ過酷な戦い

 カタールGPでは決勝を前にしたスプリントで2位に入ったフェルスタッペンが3年連続のドライバーズタイトル獲得を決めました。3度目の王座獲得となった今年、フェルスタッペンはバトルでの強さに加え、自分自身をマネジメントする術のようなものも少しづつ身につけている印象ですが、さらにドライビングスタイルに関しても、対応できる幅が広がっていたように思えます。

 昨年2022年シーズンに車両規定が大幅に変更され、グランドエフェクトカーが導入されたことで、フェルスタッペンも当初のドライビングスタイルから少し修正する必要があったように見えました。ただ、それもこの2年で修正し、完璧に自分のものにした結果、ドライビング面でも幅が広がり、厚みが増したという印象ですね。

 3度目のドライバーズタイトル獲得により、フェルスタッペンは、ジャック・ブラバム、ジャッキー・スチュワート、ニキ・ラウダ、ネルソン・ピケ、アイルトン・セナの記録に並びました。時代背景も大きく異なり、一概に比較することはできませんが、今のフェルスタッペンの強さは、ライバルとしてどんなドライバーが現れても倒すことができそうな、とてつもなく高い水準に達していると思います。

 シーズン中盤よりセルジオ・ペレスが苦戦していることもあり、フェルスタッペンの凄さが際立っています。ペレスの走りを見るに、レッドブルのクルマはそこまでライバル勢から大きなアドバンテージを持っていません。それでもフェルスタッペンはシンガポールGPまで連勝を重ね、前人未到の10連勝という記録も更新しました。

 メルセデス一強時代に6度の王者を獲得したルイス・ハミルトン(最初のタイトルは2008年のマクラーレン在籍時)、マクラーレン・ホンダのセナの頃は、圧倒的にクルマが速かったという要素も、タイトル獲得の背景にありました。それらの時期と比べると、今のレッドブルはそこまで圧倒的に強く、速いクルマではありません。フェルスタッペンというドライバーがクルマの限界を引き出した結果、ライバル勢を少しづつ凌ぐことができた。その末の3度目のタイトル獲得という見方もできるかもしれません。

 まだまだ成長し続けるフェルスタッペンのドライビングの幅の広さゆえに、レッドブルのクルマが圧倒的に速いという印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそうではないと思っています。多少劣るクルマでも勝てるところまで持ってくる。これまでのF1の歴史を見ても、こういったことができたドライバーはそういなかったでしょう。

 そういう観点から、もし今のF1ドライバーたちがワンメイク車両でレースをする機会が実現したら面白そうだとは思いましたね、実現は難しいですが(笑)。ただ、もしワンメイクでのレースが実現したとしても、ライバルたちが今のフェルスタッペンを倒すことは容易ではないでしょう。今のF1には本当に素晴らしいドライバーが揃っています。そのなかにあっても能力が際立つのがフェルスタッペンというドライバーですね。

■前代未聞のタイヤ制限レースと続出した体調不良

 今回のカタールGPでは、サーキットの大改修により新たに設置された50mmの“ピラミッド型”縁石が起因し、金曜日の走行終了後のタイヤのサイドウォールに剥離が発見され、急遽ターン12~13のトラックリミットが変更されることになりました。

 変更されたターン12~13はタイヤの表面、ショルダーといったさまざまな部分が限界値に達する高速の右コーナーです。そんな状況下でタイヤが何らかの衝撃を受けるとタイヤが壊れてしまう、というのはどこのレースでも起こり得ることです。今回、実際に壊れていたかは別にして、タイヤが壊れる兆候となる剥離が見られたなか、ドライバーの安全を最優先し、すぐにトラックリミット変更などの対応が取られたのは正しい判断だったのではないかと感じます。

 縁石が直接的な原因でタイヤが壊れるということはあまり聞きません。ただ、国内レースなどでもタイヤの内圧が低いときに縁石にドカンと乗ってしまうとタイヤを痛めるので、内圧が低い際には縁石を使わないのが一般的です。レースをリードしている車両は、そういったリスクも鑑みて、できるだけ縁石を使わない走りをします。ただ国内レースの場合だと、内圧が適正値であれば、縁石に乗ったとしてもそこまでの影響はないかなと。

 決勝に関しては、さらに安全性を確保するべく、直前に使用タイヤの総寿命が18周に制限されました。私はDAZNで解説を務めていましたが、見ている側としては面白かったですね。解説者としては、ピットストップの回数も多く、誰がいつ、どのタイミングで何周走れるタイヤに履き替えたのか、情報を確認するのが本当に大変でした(笑)。ただ、実況のサッシャさんがパソコンを6台ほど用意し、多方面から情報を取ってくださったので大変助かりました。

 今回のタイヤ制限レースは安全に配慮した結果実施されたものですが、F1側としても今回のようなテストケースを試してみたかったのかもしれませんね。タイヤに優しいレッドブル&フェルスタッペンは2ストップでそのまま勝ってしまう。そこで実質3ストップが必要となる状況にし、タイヤのデグラデーション(性能劣化)が大きいマクラーレンやフェラーリとのギャップがいかに縮まるのか、それがどうレースを面白くするのかを見てみたかった、なんてこともあったかもしれません。

 実際に、見ている側としては面白みが増した週末でした。ただ、ドライバーとしては2ストップ時よりもプッシュすることになるので、体力的にもハードだったでしょう。さらに、決勝で体調不良が続出した理由は、低速セクションのほぼないサーキットレイアウト、そしてナイトレースといえど気温、湿度の高い中東の気候が合わさった結果ですね。

 なかでも、体調不良の一番の要因は暑さでしょう。休む場所のないコースレイアウトではありますが、気温や湿度が低い状況であれば体調不良が出ることはなかったかと。気温、湿度の高さに加え、タイヤ1本分レコードラインを外すと砂の影響でバランスを崩してしまう、さらにいえばトラックリミットも気をつけなければいけないというミスに対する許容範囲が狭いレースとなったことで非常にタフなレースとなったとのではないかと思います。

■スプリントを制したピアストリと、代役参戦を終えたローソン

 今回、ピアストリがスプリントでF1初トップチェッカーを飾り、決勝でも6番手スタートからチームメイトの猛追を退け2位という素晴らしい走りを見せました。FIA F2参戦初年度からタイトルを掴み、その才能は疑いようのないものだとは聞いていましたが、まさかここまでやれるとは正直思っていませんでした。

 レース中盤、2番手ピアストリ、3番手ノリスとなると、マクラーレンは「確実に2台でフィニッシュするんだ(編註:ピアストリにプレッシャーをかけずにリスクを減らそうの意味だと推察される)」というチームオーダーをノリスに出しましたが、ノリスは無視してピアストリにプレッシャーをかけ続けていました。

 ただ、ロサイルは高速サーキットのため、ノリスはピアストリの後ろに着こうとするも、乱気流の影響でそこからさらには近づけない。それでも前に出ようとすると今度はノリスがタイヤを痛めることに繋がる。そうなるとピアストリにギャップを開けられる可能性もあったという状況でしたので、ノリスも勝負した末の完敗だったでしょう。

 ピアストリが先行したことでノリスがものすごい追い上げを見せましたが、これはマクラーレンというチームにとってはいいことです。ピアストリがいることでノリスのレベルが上がり、本来の力を取り戻しつつありますし、同時にピアストリもノリスに負けないようにレベルの高い走りを見せる。

 それでいてクルマを降りてからは余計な駆け引きもないですし、お互いにとって、特にピアストリにとっては一番戦いやすい状況となっていると思います。ノリスにとっては新人相手というプレッシャーもありますが、自分の力を引き出して、ふたりでチームのレベルを上げる走りをするという部分でも最高のコンビではないでしょうか。

 どこのチームもノリス、ピアストリのような関係性のコンビがほしいと思っていますし、私はこうあるべきだと考えています。アルファタウリのようにドライバーのひとりはベテランを入れないといけないというチームもありますが、若いドライバー同士がお互いを高め合いながら、チームとしてのレベルを上げていくというのが正しいかたちであり、私はマクラーレンらしいなとも思いました。

 さて、次戦アメリカGPからダニエル・リカルドが復帰するに伴い、リアム・ローソンの代役参戦はカタールGPで終了を迎えました。オランダGPから5戦に参戦し、しっかりと自分のやるべきことをほぼ100点の近いところでやりきり、テストの時間もない状況を考えれば立派でした。そして、その能力の高さをチームやF1関係者に印象づけたのではないかと思います。

 今後どうなるかは定かではありませんが、またF1で見てみたいドライバーであることは確かですね。今月はスーパーフォーミュラの最終戦も控えており、ローソンはF1からスーパーフォーミュラに乗り換えることになりますが、実は速いクルマから遅いクルマに乗り換えることは簡単なことではなかったりします。

 馴染みやすさという意味では、遅いクルマから速いクルマに乗り換える方がスムーズにいく場合が多いので、そこでの難しさがタイトルへの挑戦権を残したローソンにどういう影響を与えるか。もし、鈴鹿でスーパーフォーミュラに乗り換えたローソンが走り始めから速かったら、それはローソンというドライバーの突出した器用さの現れですので、そこに注目したいと思います。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。2023年はドライバーとしてスーパー耐久シリーズST-TCRクラスへ参戦。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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