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開幕圧勝のGRスープラとTRDのGT500エンジン開発最前線「結果は出せたが他社がこのままとは思えない」

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開幕圧勝のGRスープラとTRDのGT500エンジン開発最前線「結果は出せたが他社がこのままとは思えない」

「最後にチャンピオンを獲らないといけないので、良いスタートを切るという意味では『今日、絶対結果を出して帰ろう』と、トヨタさんやGR(TOYOTA GAZOO Racing)のみんなで話をしていました。そういった面からするとホッと一息です。このオフにやってきたことが成果として出せたのは良かったかな」

 スーパーGTの2021年開幕戦、2年ぶりとなる岡山国際サーキットの決勝後にそう振り返ったのは、GRスープラデビューイヤーの昨季からTRDのエンジン開発責任者として職務に戻った佐々木孝博氏だ。

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 昨季2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に翻弄され、7月の富士スピードウェイでようやく開幕を迎えたシーズンとなったが、その“遅れたデビュー戦”を戦った新型GRスープラは、予選ポールポジション獲得から決勝1-2-3-4-5独占の衝撃デビューを飾った。

 しかしその約半年後。開幕戦と同じ富士スピードウェイでの最終戦にタイトル候補として挑んだ37号車KeePer TOM’S GR Supraは、土曜予選からコースレコード更新でポールポジションを奪い、決勝65周のほぼ全域でリードラップを記録するも、ファイナルラップの最終コーナーで力尽き、その瞬間にシリーズチャンピオンを失う深い痛みと喪失感を味わった。トヨタ陣営としての2021年向け車両開発は、まさにそこから始まった。

 参戦3メーカーで共通形状のフロアを採用した2020年から、2021年に向け外板を含めたエアロ形状は開発凍結となり、車体側で進化させられるのは特徴的な“レイクアングル”を採用するセットアップ面での理解向上と運用の部分。

 その点は「ブレーキング時の安定性に難があった」のを克服するべく解析が進み、セットアップのバリエーションを増やす対策を施すと同時に、1年間のシリーズ戦で得たデータを踏まえ、改めて失われたフロント荷重をタイヤ開発で補う方策も採り入れた。

 そして「あの負け方」から攻めるべきは“エンジン開発”ということになるが、シリンダーヘッドやブロック、オイルパンにクランクなどの大型鋳物部品は、こちらも3年間の登録制で開発に規制が掛かることから、それ以外の点で性能向上を図る必要があった。

 つまり変更可能なピストン、コンロッド、カムシャフトなどや一部の加工、そして吸気ポートの形状に、アンチラグを含めた制御と燃焼の開発こそ焦点になる。さらに「つまらない部品の不具合」により、性能面で抑えた運用をせざるを得なかった反省を踏まえ「年間2基ともにパワーベストで運用できる設計面での対策」を施し、TRDとして大きな敗因と捉える“燃費”を、再び最重要項目と位置付けた。

 現在の2リッター直列4気筒直噴ターボのNRE(ニッポン・レース・エンジン)では、燃費が良いエンジンは『最も効率が良く、最もパワーが出ている』エンジンと同義になる。

 こうして開幕前の段階で「アンチラグも見直し、ドラビリ(ドライバビリティ)を一切犠牲にすることなく燃費向上を果たした。ピットウインドウの項目も重視し、戦略面でもより幅のある戦い方ができるはず」だと評された新エンジンは、昨季であれば「Q2でしか試せないような領域も、しっかりQ1から出せていけた」ことで、GRスープラの6台全車が岡山の予選Q1を突破。開幕戦でグリット上位5台を占拠することになる。

「午前の走り始めから『僅差だろうなぁ』というところは感じていた。ただGT500の占有が終わった時点で『予選はイケるな』って。イケるというか『午前中の順位のままでは終わらないな』という手応えはあった。我々、エンジン担当者側は準備に関して自信を持っていたので、じゃあ『しっかり戦おうか』と」すでに戦前から手応えを得ていたという佐々木氏。

■「素直に喜べない」車両開発で感じた“負け感”
 その言葉どおり、決勝ではポールシッターの37号車KeePerこそ展開的な不運に見舞われたが、14号車ENEOS X PRIME GR Supraが36号車au TOM’S GR Supraとの死闘を制し、GRスープラが表彰台以下トップ4を占める結末となった。

「当然クルマもタイヤも良かったですし、そこでエンジンが足引っ張らないように(笑)。それで決勝でも、Q1とQ2みたいに去年よりもエンジンを使い切る、っていう部分では“ワンステップ上で運用”できているので、当然レースでもひとつ上の段階で戦えました。去年は予選で落としていたようなところでも、高い位置からレースを戦えていますので、そこも決勝で性能を発揮できた要因かな」と、その成果を振り返った佐々木氏。

 一方で、GRスープラの車両開発を指揮するTRD湯浅和基氏は、喜びを表現しながらも隠せない“ある懸念”を抱えていると明かした。

「もう去年の負け方からしたら、今回は目一杯行くしかないわけで。いろんな見方はありますけど、それが予選結果であり、決勝結果であり、あとは簡単に見れる最高速とか。そういったところで『ちゃんとリードできてますか?』というのが、みなさんにわかりやすい指標にはなるので、そこで結果が残せたのは良かったです」と続けた湯浅氏。

「良かったんですけど、何かこう……素直に喜べない(笑)。でもGRスープラとして去年取りこぼして、みなさんに『大丈夫かな?』って心配されたことに対しては、ちゃんとオフシーズンの仕事はできたんじゃないかな、とは思いますし、ウエイトを積んでいないガチンコの、素の状態で走って『ちょっと速かったかな?』っていうのは単純にうれしいです」

「でも“ウエイトを積んだときと似たような条件”で、予選Q2などでは昨年のチャンピオンの方が断然速かったという“負け感”が我々にはあるので、今回はこちらも頑張ってくれよ……とは思っていましたけど、実際は『おや?』と」

 そう湯浅氏が語る“ウエイトを積んだときと似たような条件”とは、開幕戦だけの特別BoP(性能調整)として課された燃料流量制限のことで、通常95.0kg/hで運用される基本数値が、今回は90.2kg/hにまで絞られていた。この条件は今季からサクセスウエイト制と呼ばれることになったテーブル上の、68~84kg加算の2ランクダウン措置に相当する値となる。

 その条件が「とくにエンジン側でダメージや懸念点があるかというと、それはない」と両氏ともに断言するが、第2戦のレース距離500kmを予定する富士では、通常の95.0kg/h運用に戻る。

「前回の(公式)テストでも、今回ここで使うエンジン(2021年仕様)を載せていたクルマはしっかりとタイムを出してくれていたので、最高速も含めこのまま行ければ良いと思います。ただ、他社さんがこのまま終わるとは思えないので……(笑)。我々は富士も今回の延長線上では行きますが、サクセスウエイトも積みますし、どうなるかは未知数ですね」とは佐々木氏。

 アクシデントがらみで本格的な競争力判定は持ち越しとなったニッサン陣営も含め、この厳しい開発凍結下の2021年シーズンにおいても、GT500の熾烈な開発競争は揺るぎなく健在のようだ。

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みんなのコメント

4件
  • しかし、エンジン共通化が寂しいな。

    実際に共通4気筒エンジンにしてコストが下がったのだろうか?
  • 市販車のエンジンを使った方が、
    各車本来の延長線上で、オーナーも
    自分の車には、これほどの潜在能力が
    あるんだ!と言う悦びになると
    思うんですけどね…

    市販車が直6やV6なのにレース専用の
    直4では、私は何か違う気がします。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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