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【ヒットの法則419】フィアット500には弱点さえも個性と感じさせてしまう魅力があった

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【ヒットの法則419】フィアット500には弱点さえも個性と感じさせてしまう魅力があった

2008年2月、フィアット500が日本に上陸した。日本でも今なお根強い人気を誇っているが、デビュー当時はどのような評価を受けていたのだろうか。Motor Magazine誌では特別企画を組んで、2007年ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した魅力と実力を検証している。今回はその試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)

新型500の登場はフィアット復調の象徴
いよいよ日本に上陸した新型フィアット500。プントにパンダ、グランデプントと「小さなフィアット」はこれまでも日本に度々やっては来た。けれども、昨今これほどまでに注目を集めたフィアット車は、他になかったと言っていいだろう。

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全長わずかに3.5mほど。全幅もほんの1.6mプラス。しかも、ボディタイプは「日本市場には向いていない」というのが定説である3ドアハッチバックしか用意されないこのモデルが、しかしこれほどまでに多くの人々の興味を引く理由は、このモデルが単なるパッと出の新型車ではなく、デビュー段階ですでに多くの人々の脳裏に特別なヒストリーが刻み込まれているモデルであるからに他ならないだろう。

1.2Lという排気量のエンジンを搭載するこのモデルが、しかし自ら「500」という車名を名乗るその理由は、1957年に発売され、その後およそ20年間にわたり400万台という数が世に送り出された先代500の存在ゆえだ。

愛らしく丸みを帯びたプロポーションに加え、軽量、コンパクトで圧倒的な経済性も備えるという、当時の実用車として不可欠な多くの特長を身に付けたこの往年のモデルは、母国であるイタリアはもちろん、ヨーロッパ全土、さらにはアメリカでも販売されて、長きにわたり多くの幅広い層の人々に愛されてきた。

そんな先代モデルのデビューから半世紀。そうした時の流れを経てフィアット500というモデルを現代に蘇らせようという思いから生まれたこの新型が、誰の目にも先代モデルの「復刻」を強く感じさせるルックスで登場したのは、当然過ぎるほどに当然と言っても良い事柄だろう。

同時にもう一点、この新しいフィアット500の今のタイミングでのリリースには、「フィアットの復活」というメッセージも含まれているであろうことも興味深いポイントだ。

ほんの数年前までのフィアットの状況は、決して好調と言えるものではなかった。それどころか、GMとの蜜月時代の後にも様々なメーカーとのパートナーシップの噂が絶えなかったこのメーカーの将来は、かつての栄光を知るイタリア人の心をも大いに心配させるものであったに違いない。

だからこそ、そんなフィアットがグランデプントのヒットをきっかけに往年の元気を取り戻したことを象徴する新型500のデビューには、単なる新型車のリリース以上の価値がある。新型フィアット500に対する各市場での盛り上がりの背景には、そんなフィアットの復活に対する賛辞と今後へのさらなる期待感も含まれていると見ても良いのではないだろうか。

もっともそうは言っても今の時代、世界の市場は単なるノスタルジーから生まれたモデルを無条件で受け入れるほどに生易しいものではない。アイデンティティのアピールと共に、現代のニューモデルとして人々が満足できるクオリティや最新レベルの安全性、そしてそんなモデルこその特長ある走りのテイストも期待されて然りであろう。

さらには、フィアット500のようなヨーロッパ生まれのコンパクトカーには、それなりの実用性の高さも不可欠になる。いかに過去の財産が後押ししてくれるとは言え、それだけでは再度の成功をもたらすには不十分だ。

ひと目で500とわかる作り込まれたデザイン
そうした観点からすると、新しいフィアット500の仕上がり具合には大きな価値がある。先に挙げたような様々なポイントをいずれも押さえているだけではなく、例えばサイドウインドウのフラッシュサーフェス度などは「プレミアムカー」を名乗るにも十分な高さと思えるからだ。

丸みを帯びたボディシェルや、サイド見切りのフロントフード。そこからスタートしてボディをグルリと取り巻くキャラクターラインに加え、愛嬌たっぷりの丸いヘッドライトなどはいずれも新旧500に共通するデザインの要素。絶対的なボディサイズでは従来型と比べるべくもなく大型化はしていても、単体で見れば「紛れもなくコンパクトな500に見える」のは、デザインを担当したフィアット・スタイルセンターの優れた仕事能力の証左だ。

本国仕様では全12色が用意されるボディカラーは、日本では全6色とその設定が半減してしまう。が、日本でのフィアット車の販売実績、販売網を考慮すれば、これでもかなり頑張ったと賞賛すべきかも知れない。

ちなみに、こうしたモデルでは「自分だけの1台を造りたい」と考えるのが人情というもの。となると、こちらもヨーロッパでは無限と思えるほどの組み合わせが可能となる外装ドレスアップアイテムを日本でどの程度充実させられるかも、今後の日本での販売成績を左右するひとつの試金石となりそうだ。

一方、そんなエクステリアのデザインに勝るとも劣らない、個人的にはむしろこちらこそが新型500のデザインのハイライトだと思えたのが、細部まで手を抜くことなく作り込まれたインテリアだ。

ベージュというよりも今ではちょっと懐かしい「象牙色」と表現した方がピタリときそうなカラーを基調にまとめられた500のインテリアは、そうしたレトロな部分とシフトレバーなどのメタル加飾がもたらすモダンな部分が効果的にまじり合い、このクルマだけの独特な雰囲気を表現。

機能性を突き詰めれば、メーターガラスへの映り込みはひどく、スピードメーターと同軸デザインのタコメーターも見づらい、といった文句は生まれるものの、ことこのモデルの場合にはそうしたポイントの優先順位が相対的に下がるのも、やむを得ないと納得できるところではある。

パッド中央に「FIAT」のエンブレムを配したステアリングホイールや、空調とオーディオコントロールを置いたセンターパネル部分の作り込みも、とても丁寧で好感が持てる。ちなみに、日本には右ハンドル仕様のみが導入されるものの、そのドライビングポジションはほぼパーフェクト。

そもそも、イタリア人の下駄として親しまれてきたのが従来型500だけに「そのアイコンがモチーフのこんなモデルは左ハンドルで乗りたい」という人の気持ちもわからないではない。が、せっかくのコンパクトボディを最大限に生かし、左側通行の環境下での安全性を考えれば、右ハンドルのみというインポーターの決断はひとつの見識と言える。

日本市場向けには1.2Lガソリンエンジンを搭載
ヨーロッパ市場に向けては1.4Lの4バルブエンジンやディーゼルエンジンの設定もある新型500も、日本市場向けには1.2Lの2バルブガソリンエンジンのみを搭載。が、そんなこのモデルはそうしたハンディキャップをさして意識させない。1010kgの重量に69psの心臓というスペックからの予想はしっかりと上回る加速のポテンシャルを味わわせてくれる。

もちろんそれは「強力」という言葉が使えるほどのものではない。けれども、東京の幹線道路でのそれなりに素早い信号グランプリにも遅れを取る気配はないし、また右足を深く踏み込めばそれをリードする事すらも難しくない。

ただし、デュアロジックを名乗る2ペダル式MTの仕上がり具合は何とも古典的。自動変速のモードではいつまでも2速ギアを引っ張り続けようとするし、マニュアル操作をしても変速時の空走時間が長く、いずれにしてもスムーズに走らせようとするにはそれなりのコツを必要とする。

正直なところ、東京都心をベースに一般道、そして首都高速と1時間ほどを走り回った今回の試乗中も、何度も「これならば普通の3ペダルMTを導入してくれれば良いのに」と呟くことに。もちろん、日本でより多くの数をセールスしようとすれば、現状の設定も理解はできる。が、坂道発進をサポートしてくれるヒルホールドシステムが標準装備となるのならばなおのこと、MT仕様の導入も切に希望をしたい事柄だ。

フロントがストラット、リアがトーションビームと、ベーシックなコンパクトカーでは定番でもあるサスペンションシステムを採用するこのモデルのフットワークのテイストは、「路面凹凸への初期の当たりは優しいものの、その先は余りスムーズにストロークをしてくれない」というのが率直な印象だ。

比較的入力の小さな低速域の乗り味は「なかなかいいナ」と思わせてくれる半面、速度の高まりと共に路面からの入力が大きくなり始めると徐々に上下Gが強まり、高速走行時のフラット感はいまひとつ。

加えて、微低速時を中心に電動パワステが生み出す反力は乏しく、操舵力設定のスイッチ位置にかかわらずステアリングフィールもいまひとつと言わざるを得ない。正直こちらは「これならば油圧式パワステにして欲しい」と感じられるもの。個人的には、このモデルの走り味で最も気になるポイントだ。

これまでに指摘をしてきたようないくつかの点、そして「足下も頭上も大人にはミニマムサイズ」の後席スペースに、後席を使用する時にはわずかに185Lという容量のラゲッジスペースなどと、単純に最新コンパクトカーとしての評価基準をあてはめてしまえば、そこでは問題山積ということにもなってしまいそうな存在が新型フィアット500だ。

しかし、そんなウイークポイントを「仔細な事柄」とすべての人に納得させてしまえそうなところこそが、このクルマならではの、歴史に育まれた特異なブランド力というものなのだろう。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年5月号より)



フィアット500 1.2 8V ラウンジSS 主要諸元
●全長×全幅×全高:3545×1625×1515mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:1010kg
●エンジン:直4SOHC
●排気量:1240cc
●最高出力:69ps/5500rpm
●最大トルク:102Nm/3000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:5速AMT(デュアロジック)
●車両価格:233万円(2008年)

[ アルバム : フィアット500 1.2 8V ラウンジSS はオリジナルサイトでご覧ください ]

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