カルロス・サインツが2025年の移籍先として最終的に選んだのは、ウイリアムズだった。来季に向けてのドライバーマーケットで常に話題の中心になっていたサインツには、アルピーヌ入りの可能性も十分にあった。なぜアルピーヌは、サインツを説得しきれなかったのだろう。
今季ここまで6戦で入賞し、11ポイントを上げたアルピーヌではなく、入賞わずか2回、4ポイントしか獲得していないウイリアムズをサインツが選んだことに、驚いた人も少なくないだろう。遡れば、去年のアルピーヌはウイリアムズより92ポイント、さらに2022年には165ポイントも多く獲得している。何よりアルピーヌは、ルノーのワークスチームだ(ついでに言えば、サインツは2026年からアウディワークスとなるザウバーも無視した)。そこには3つの要因があった。
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■アルピーヌは下り坂のチーム
まずウイリアムズがかなり上向きの軌道を示しているのに対し、今のアルピーヌは明らかに下降傾向だ。いくつかの数字を比較してみよう。2022年、ウイリアムズの8ポイントに対し、アルピーヌは173ポイントも獲得と、その差は実に20倍以上だった。それが去年は、120ポイント対28ポイントと、その差は4倍まで縮小した。
そして今季は、第14戦終了時点でウイリアムズの4ポイントに対しアルピーヌは11ポイントで、3倍以下になった。確かに短期的には、アルピーヌはウイリアムズより優れた選択肢だろう。しかしこれらの数字を見れば、サインツの目に映るアルピーヌは先行き未知数の存在だったはずだ。
■ウイリアムズが抱える問題点は修正が比較的容易
第二に、ウイリアムズの競争力欠如は、主として重量過多という大きな欠陥によって説明できることだ。ジェームス・ボウルズ代表によれば、今季のマシンFW46は開発中のさまざまな問題から十数キロ重くなり、これだけで1周あたりコンマ3~4秒の遅れになったという。
もしこの重量超過がなく、コンマ3~4秒の遅れが取り除かれていたら、トップから1秒以上ある今季のパフォーマンス平均値は0.7秒まで短縮され、アストンマーティンよりも上位に位置することになる(下の表参照)。そして重量超過によるハンデキャップは、空力上の欠陥よりも簡単に修正できる。
■アルピーヌの慢性的な不安定さ
3番目、そして最も重要な要因は、中期的な見通しだ。アルピーヌの将来は、控えめに言っても不透明である。戦闘力や開発力不足、あるいはチーム内の政治闘争によって、この数年の間に、多くの貴重な人材がチームから去って行った。ざっと羅列するだけでも、ダニエル・リカルド、シリル・アビテブール、マルチン・ブコウスキー、アラン・プロスト、フェルナンド・アロンソ、オスカー・ピアストリ、オットマー・サフナウアー、アラン・パーメイン、パット・フライ、ディルク・デ・ビア、マット・ハーマンなどなど、錚々たる面々だ。
さらに最近では、ルノーがF1エンジンの開発プログラムを終了し、ビリー-シャティヨンの敷地をアルピーヌブランドの開発センターに転換することが検討されていることが明らかになった。さらにその先には、F1チーム自体の売却も噂される。新たにアルピーヌの特別アドバイザーに就任したフラビオ・ブリアトーレが、その準備を進めていることはほぼ間違いない。そしてそれが、サインツの決断に大きな影響を与えたことは想像に難くない。
チーム内の人事の不透明さも、サインツが嫌われた要因の一つだ。最近ではアウディも、プロジェクトの中心人物だったアンドレアス・ザイドルとオリバー・ホフマンを解任した。そしてアルピーヌはブルーノ・ファミンに代えて、ハイテック代表のオリバー・オークスをチーム代表に据えた。わずか1年のうちに、3人目のチーム代表が誕生したわけだ。
対照的にウイリアムズは、金は出すが口出しは極力控える株主たちの下、ボウルズ代表はじめチーム上層部が比較的に自由に再建を進めている。ボウルズ代表は、アルピーヌを離脱したパット・フライをチーフテクニカルオフィサーに据え、献身的なアレクサンダー・アルボンと長期契約を結んだ。さらに一流エンジニアを次々に引き抜き、今や従業員数は1,000名を超える。
つまりウイリアムズの中長期戦略はアルピーヌとは桁違いに、明確で首尾一貫しているということだ。現時点ではアルピーヌより遅いとしても、野心的な開発計画と透明性、明確な経営を中心に構築されている。将来的な伸び代を見ると、はるかに魅力的といえる。
サインツのウイリアムズ加入は、アルピーヌとアウディのF1プロジェクトへの不信任投票だった。この動きからは、「自動車メーカーこそがF1の未来」とは断言できなくなる。
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