予約受注がスタートしたマツダの新しいクロスオーバーSUV「CX-60」のプロトタイプを世良耕太が取材。 後編では、新機能を解説する。
自動ドライビングポジションガイドの仕組み
新型マツダCX-60にとことん迫る!(前編)──居住性は感動レベル!
マツダの新型クロスオーバーSUV、CX-60が採用する新機能のひとつは自動ドライビングポジションガイド(グレード別設定)だ。「安全への第一歩はドライバーがストレスフリーで着座することから始まる」というのが、マツダの考え。この考えをサポートするのが自動ドライビングポジションガイドとなる。
正しい姿勢で座っているつもりでも、本当にそれが正しいのかどうか、自信がもてない人も多いだろう。自動ドライビングポジションガイドは12.3インチの大型センターディスプレイに表示されるガイドに従って設定を進めるだけで、マツダが推奨する正しいドライビングポジションに設定できる機能だ。納車時、ディーラーのスタッフがサポートする方向で準備を進めているという。
まず、センターディスプレイに表示されるガイドに従い、ダイヤルコマンダーを操作して身長を入力する。次にセンターディスプレイの右側にあるカメラを見て、目の位置を検出。入力した身長と目の位置から、ドライバーの体格を推測し、シートの前後位置とリクライニングの角度、ステアリング・ホイールの位置を導き出す。「オーケー」のコマンドを合図に電動シートと電動ステアリングが動き、推奨のポジションになる。
あくまで“推奨”なので、微調整は可能だ。たとえば、ステアリングの適正位置は腕を伸ばしたときに、ステアリングのリムに手首が掛かる程度の距離であることを示すガイドが表示される。これらのガイドを参考に、シートやステアリングの位置を調整すれば良い。
左右のアウターミラーやアクティブ・ドライビング・ディスプレイ(ヘッドアップディスプレイ)の位置も調整可能だ。調整する順番を間違えると堂々めぐりに陥ってしまうので、順番もガイドしてくれる。筆者が試したときは、シートの前後スライドとアウターミラーを微調整するだけで、最適なポジションがばっちり決まった。
この自動ドライビングポジションガイドに自動設定復元、乗降支援(エントリーアシスト)をくわえた3つの機能を総合して、マツダは「ドライバー・パーソナライゼーション・システム」と呼ぶ。自動設定復元は、顔認識によって車両設定やオーディオ、空調など200を超える調整/設定をおこなう。クルマに乗り込んでスタートボタンを押すと、カメラが自動的に顔を認識し、記憶した設定に復元。面倒な操作を必要とせず、エアコンの温度設定も、オーディオのイコライザーの設定も、オートライトが点灯するタイミングも、ターンシグナルの音量も、好みの設定に自動で瞬時に切り替わる。6名(+ゲスト)の設定を記憶できるというから、実用上十分だろう。
乗降支援(エントリーアシスト)はその機能名が示すとおり、乗り降り時にステアリングとシートを自動でスライドさせ、乗降性をサポートする機能。おもてなし機能の一種である。
安全性を高める2つの新機能
センターディスプレイの右側にあるカメラは走行時、ドライバーを常に監視している。ドライバーの状態から疲労や眠気を検出すると、ディスプレイの表示と警報音で休憩を促すドライバー・モニタリングは、2019年に発売された「MAZDA3」から採用している。CX-60はさらに一歩踏み込んだ。それが、ドライバー異常時対応システム(DEA:Driver Emergency Assist)だ。
DEAはドライバー・モニタリングと連動し、高速道路や一般道を問わず、ドライバーが体調急変などで運転できない状態になったとき、まずはハザードランプを点滅させ、ドライバーへの注意喚起を実施する。一定時間応答を待つが、ドライバーが運転に復帰せずDEAがキャンセルされないときは、ハザードランプとブレーキランプを点滅させると同時にホーンを吹鳴して周囲に危険を知らせながら、車両を減速~停止させる。停止後は必要に応じて自動で緊急通報をおこない、救助を要請する。
「重大事故につながりやすいドライバーの発作、急病など、体調急変による事故数は増加をつづけています。このような事故を減らしていくためには、ドライバーの体調急変や眠気に対する技術が必要だと、マツダは考えています。発作急病などの体調急変は、その95.8%が60km/h以下で起きているというデータがあります」と、先進安全技術を担当する技術者は説明する。この問題の解決につながる技術がDEAというわけだ。
昨今、発生が目立っているアクセルペダルの踏み間違いによる事故に対しても、そのときの被害を軽減する機能をCX-60で初めて導入した。ドライバーサポートプラス(DSP)という機能だ。
「ペダル踏み間違いの事故は、じつは発進時ではなく直進中、20km/h付近で多く発生しています」と、技術者は説明する。20km/h付近での踏み間違いをきっかけに加速し、高い速度で衝突しまうことによって大きな被害を生んでいるのが実態だ。
DSPはショップオプションの電子キーでドアロックを解除することによって起動。前進時30km/h以下、後進時15km/h以下で走行時、ドライバーの操作状況から踏み間違いがおこなわれたと判断すると、ディスプレイの表示と警報でドライバーに注意を促すと同時に、エンジンまたはEVシステム(PHV車の場合)の出力を抑制して加速を抑制し、被害軽減を図る。
誰しも事故の加害者にはなりたくないだろう。図らずも体調急変が起きたり、ペダルの踏み間違いを起こしてしまったりしたとき、クルマ側がサポートしてくれればありがたいし、そうなれば安心してクルマと付き合うことができる。天変地異とおなじで、いつその瞬間がやってくるかは予測をつけにくい。
新型CX-60はデザイン、パワートレイン、そして最新装備によって競争力の高いクロスオーバーSUVに仕上がっている。今年初秋の発売まで、残りわずか。気になる向きは、先行予約が始まっているディーラーへ早めに行ったほうが良いだろう。気づいた時には納車まで、相当な時間を要するかもしれない。
文・世良耕太 写真・安井宏充(Weekend.)
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