文・神尾 成/写真・伊丹孝裕
80年代のバイクブームを牽引したひとつに片岡義男の小説がある。片岡義男の小説は筋書きを楽しむというより文章が作り出す空気の中に身を浸すイメージがあり、走っていくバイクの動きをリアルに伝えることで人気を博した。感情を排した客観的な描写は湿っぽさがなく、カメラで風景を切り取ったような文脈は「乾いた文体」と評され、物語を彩ったライダーに憧れた多くの若者を、男女を問わずバイクの世界へと導いたのだ。
そんな片岡義男の世界を遺したいと、『クラクショN vol.2 片岡義男と僕らの夏。』が先ごろ発売された。この雑誌はクラウドファンディングで目標額の2倍に当たる400万円を集めて出版されることになったのだ。発起人の河西啓介さんは、これまでも2013年と2015年に自身が編集長を務める『MOTO NAVI』で片岡義男の特集を組んでおり、さらに2021年には同じくクラウドファンディングを通じて『片岡義男と旅する一冊。』という片岡義男が関連する記事だけを集めた雑誌を制作している。今回は河西さんにとって4冊目の〝片岡義男誌〟ということになり、これまでの集大成と言える内容になっているのだ。
「夏」をタイトルに入れた今回の号は、片岡氏が夏をテーマにした新たな短編小説を書き下ろしたうえに、写真と小説を融合して女性ライダーの夏を描いた『幸せは白いTシャツ』も再編集されている。そして物語の最後に主人公のモデルだった三好礼子さんが、当時を振り返りながら今の心境を語っているのだ。他にも「あの夏の風景の中へ」と題した小説の島へのツーリングレポートや、「オートバイとクルマの登場する20作品」の解説など、『MOTO NAVI』の頃からの記事を交えて構成しているのである。個人的には片岡義男の小説を原作とする映像作品に対しての批判的な意見や感想に共感を覚えたのと同時に、その事実を忖度せずに掲載した編集姿勢に潔さを感じた。また、バイク劇画『キリン』の作者として有名で昨年の夏に亡くなった東本昌平と片岡義男の意外な接点について書かれたページは、東本ファンにこそ読んでもらいたい記事でもある。
『クラクショN vol.2 片岡義男と僕らの夏。』は、片岡義男の小説の世界に憧れてバイクに乗り始めた自分たちのような〝片岡チルドレン〟だけでなく、これまで片岡義男を知らずにいた人にも伝わるものがあるはずだ。この〝本〟は、ふとした時にページをめくるだけで、赤い背表紙の文庫本よりも短い時間で〝カタオカワールド〟へトリップするチカラがある。夏は単なる季節ではなく心の状態であるということを、これからも忘れないために手元に置いておく価値のある1冊だ。
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みんなのコメント
渋いとかイケオジとか・・・?