2019年の交通事故死者は統計開始以来最小人数となった
昨年、2019年の交通事故死者(事故発生から24時間以内)の統計が、新年早々の1月6日に警察庁から発表された。その数は3215人で、前年比317人の減少となり、なおかつ警察庁が1948年(昭和23年)に統計をはじめて以来最小人数となった。
【2021年以降に自動ブレーキ義務化は本当に効果ある?】高齢ドライバーによる悲惨な事故は減るのか
交通事故死者数がもっとも多かったのは1970年(昭和45年)の1万6765人で、それから比べると約8割減の死亡者数になる。とはいえ、昨年の死者数が小さいとはいえず、一人ひとりの命は尊い。戦後の累計では死者数が63万人を超えており、第二次世界大戦末期の本土空襲で死亡した52万人ともいわれる人命をすでに大きく超えているのである。
交通事故死者数が減少傾向となった背景に、クルマの安全性能の向上があるのは間違いない。1985年(昭和60年)以降、高速道路や自動車専用道路でのシートベルト着用義務がはじまり、92年(平成4年)には一般道でも同様となった。あわせて、車体の衝撃吸収構造の採用や、エアバッグの充実なども加わり、平成の30年間は、序盤を除き交通事故死者数の減少傾向を持続している。また、交通事故の負傷者数も過去15年間で半分以下となる約6割減となっており、事故発生件数も減少している。
交通事故を未然に防ぐため、自動ブレーキの装着と、その義務化が効果を上げる可能性は高い。事故件数が減ることで、搭乗者だけでなく巻き込まれる負傷者数も一層減らすことができるだろう。それでも、交通事故をゼロにするためには、クルマの根本的な安全性能の向上が不可欠だ。自動ブレーキの装着義務は、昨今目立つペダル踏み間違いなどの事故に対する場当たり的な対策でしかないからだ。義務化によって、自動ブレーキの性能の基準が定められたとしても、根本原因を改善しなければ、事故ゼロは目指せない。
自動ブレーキのみでなくクルマ全体の安全面を考える必要あり
そこで重要なのは、正しい運転姿勢をとれる運転席だ。ハンドルとペダル操作を正しく行えるようにする、座席とハンドルの位置を調整する機能の充実がはかられるべきだ。
座席については、前後スライドだけでなく、身長に応じた目線や操作を的確にするシートリフターが不可欠になるだろう。加えて、座面の前後長さの調整機能もあるほうが好ましい。
ハンドルでは、チルト機構に加えテレスコピック機構が不可欠だ。このテレスコピックが、軽自動車と登録車のコンパクトカーを中心にほとんど装備されていないのが実情だ。
自動ブレーキが、場当たり的な安全装備という理由がここにある。そもそも、ペダル踏み間違いを起こしやすい運転姿勢をさせておきながら、踏み間違えたらブレーキを自動で掛けますというのでは、本末転倒だ。また、センサー機能は万全ではない。
ペダル配置そのものも、クルマの進行方向に人が正対して着座できる配置とすべきであり、今日なおペダル配置がやや左に寄っているクルマがある。
視界においても、衝突安全性能や外観造形を優先するため、フロントピラーの太さや角度が良くないことから、前方視界を阻害している新車がいまでもある。
ここで取り上げたクルマ作りにおける基本的な不備を解消したうえで、自動ブレーキが義務化されれば、相当の効果を上げるに違いない。実際、ホンダのN-WGNは、既存のN-BOXのプラットフォームを活用しながら、ペダル配置の改善やテレスコピックの採用を行っている。開発責任者によれば、それは技術者の意志の問題だと語る。そのうえで、ホンダセンシングの充実をはかっている。
監督官庁の国土交通省も、自動ブレーキの義務化を推進するだけでなく、根本原因の改善へ向けた指導(テレスコピックの義務化など)を行えないままであれば、監督責任を問われても反論できないのではないか。
事故ゼロへ、大局での意思統一がなされているなら、原理原則にしたがい、強い意志を持って、人命重視へ向け、原価低減を超えた転換を果たさなければ、自動ブレーキの義務化も志半ばに終わる恐れがある。
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あくまで安全補助装置であって万能ではない。