■不確実性に柔軟に対応する「マルチソリューション戦略」
マツダは6月16日に山口県にある「マツダ防府工場」の生産ライン見学会を行いました。
今回の見学会は、3月18日に行われた「マルチソリューション説明会」で話があった「ものづくり革新」の一例を知るためのものです。
マツダのものづくりはどのように進化しているのでしょうか。
1982年に稼働開始したマツダの防府工場は、乗用車を組み立てる西浦地区(第一工場、第二工場)とトランスミッションを生産する中関地区で形成されています。
生産されている車種は第一工場で「マツダ2」「マツダ3」「CX-30」。第二工場で「CX-60」「CX-70」「CX-80」「CX-90」を生産
今回はそのなかの第二工場生産ラインの一部を見学しました。
第二工場生産ラインは、大きく「プレス加工」「車体加工」「塗装加工」「車両組立加工」に分けられています。
この加工工程を余分なリードタイムをなくすマツダ独自の「計画順序生産」で運用しています。
今回の見学は、複数車種を同一ラインで生産する「混流生産」を支える物流の様子からボディを台車に載せて移動させる「トラバース台車」を見ていきます。
次に無人搬送車(AGV)を用いた生産工程として、吊られているボディにAGVに載せたバッテリーを搭載する様子、2台のAGVを使って1度にエンジン+トランスミッション、リア足回りを載せる様子を見学。
最後に車両制御デバイスのソフトウェアを「Factory OTA」という無線端末で書き込む手順の説明を受けます。
この無線端末と工場Wi-Fiを活用することで、車両の組立を行いながらソフトウェアを書き込むという効率の良い工程を実現しているようです。
このようにマツダが掲げる「ものづくり革新」ですが、どのような目的で行われているのでしょうか。
「電動化の進展には、世界各国の電源構成、環境規制、社会インフラ整備、そしてお客様の選択など多くの不確実性があります」と常務執行役員の弘中武都氏は次のように語ります。
業界の中ではスモールプレイヤーであるマツダは「マルチソリューション戦略」を採用しました。
エンジン車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、電気自動車(以下バッテリーEV)など、多様な技術を積み上げ、顧客に選択肢を提供していく方針です。
電動車については、2030年までの経営方針において「準備期間」「移行期間」「本格展開期間」の3つのフェーズに分けて計画的かつ柔軟に進めているといいます。
弘中氏によれば、「昨年度までにフェーズ1の準備期間を終え、北米ビジネスの力強い成長や防府工場で生産している大型商品の導入により、トップラインの成長を実現し、収益やネットキャッシュを積み上げるなど、概ね想定通りの結果となりました」とのこと。
しかし、今年度から始まったフェーズ2「移行期間」においては、電動化を取り巻く環境に多くの不確実性があると弘中氏は指摘します。
「インフレによる投資コストの増加、地域ごとの電動化進捗の違い、関税などを含む保護的通商政策、経済安全保障、資源調達リスクなどの高まりなど、多くの課題性を抱えています」
こうした状況に対応するため、マツダは「ライトアセット戦略」と「マツダものづくり革新2.0」を推進。保有資産の徹底活用とパートナーとの協業により資産効率を高め、レジリエンスの高い経営を目指すとともに、柔軟かつ効率的な開発生産プロセスを進化させることで、実態に即した電動化マルチソリューションを前進させる計画です。
マツダの「ものづくり革新」は、創業者の時代から脈々と続けてきたデジタル化の基盤を活かした、スモールプレイヤーならではの開発生産プロセス改革です。
2006年から「マツダものづくり革新1.0」として進め、2015年からは「ものづくり革新2.0」として、企業を超えたバリューチェーン、サプライチェーンまでを視野に入れた革新を進めているとのこと。
「ものづくり革新1.0」の時代、マツダは開発生産による5年から10年先を見越した一括企画をした上で、開発領域ではエンジンの燃焼特性など特性の共通化による高効率の開発を進めました。
生産領域では構造、工程の共通化によって、自社工場内で高効率な混流生産を実践。
弘中氏によれば、これは「主に企業内でのバリューチェーン、サプライチェーンを改革するもので、多様なニーズに対応する魅力的な商品とビジネス面での効率という、通常二律背反する課題のブレークスルーを実現してきました」と説明します。
しかし、電動車やハイブリッド車などの電動化に伴い、膨大なソフトウェアに対応する必要が生じました。
そこでマツダは開発生産プロセスをさらに進化させ、「ものづくり革新2.0」へと移行。
パワートレインなどものづくりの組み合わせの増加で生じるソフトウェア開発の爆発的増加を制するため、バッテリーEVとエンジン車を横断する開発生産の一括企画を行っています。
「この革新を組織や企業を超えバリューチェーンとサプライチェーンに広げていくことで、電動化、自動化時代にスモールの規模でもマルチソリューションを効率的に実現できる準備が整います」と弘中氏は強調します。
■なぜマツダはEV専用工場を作らない?
マツダの電動化戦略において特徴的なのが、バッテリーEVにおいても専用工場を持たず、既存の生産ラインを活用する点です。
弘中氏は「バッテリーEVを生産するなら、工程数が少ないので専用工場を作る方が効率的ではないか、とよく言われます。しかしマツダには専用工場は必要ありません」と説明します。
その理由として、「ものづくり革新1.0」ですでに生産ラインの工程数を4割削減していることと、バッテリーEVとエンジン車を混流生産できる生産基盤がすでに出来上がっていることを挙げています。
「また当社のようなスモールプレイヤーにおいては、混流生産で生産ラインの稼働率を100%にすることが最も賢いやり方だと考えています」と弘中氏は強調します。
マツダはこの既存の生産基盤を最大活用した「ライトアセット戦略」で電動化の黎明期を乗り越える方針です。
「ものづくり革新1.0」以前のマツダでは、開発がまず車種ごとの構造設計を行い、その後で生産が工程設計を行うという流れでした。
このため、車種ごとに生産工程や設備が異なり、新たな車種を投入するたびに新しい設備を導入する必要がありました。
弘中氏によれば、「生産ラインは非常に車種が限定されていて、また、そのライン内で全ての部品を組み付けていたため、非常に工程数が多く長いラインでした。そのため、車種が増えるたびに工場追加やラインを増設する追加投資が必要で、また車種の需要変動により稼働率が低下していく課題がありました」とのこと。
これに対し、「ものづくり革新1.0」では、5年から10年先に必要となる商品技術を一括で企画し、車種開発の構造設計段階から開発と生産が一緒になって、車種間で構造基準や部品の組み立ての順番、組み付け方法などの作業工程を共通化しました。
「それを前提にした生産設備を導入することで、車種あるいは世代を超えて混流生産できるメインラインを作ってきたのです」と弘中氏は説明します。
また、車種によって作業手順や工程数が異なるパワートレインや内装のインパネなどの部品群はサブラインでモジュール化し、メインラインで搭載する仕組みとしました。
こうした取り組みにより、メインラインは非常にシンプルで短くなり、工場数4割減を実現。生産ラインの柔軟性が圧倒的に高くなり、高い稼働率を実現できるようになったのです。
■「ものづくり革新2.0」で柔軟性をさらに高める
電動化や自動化の進展により、商品や技術が大きく変化する中、「ものづくり革新1.0」で取り組んできた効率化の取り組みをさらに広げる必要が生じました。
弘中氏によれば、「部品の種類の増加に対し、根の生えない生産設備を導入することで柔軟性をさらに高めた『ものづくり革新2.0』の混流ラインへと進化させています」とのこと。
例えば、サブラインを固定化された組み立てラインから、根の生えないAGV(無人搬送車)上で組み立てを行うラインに変えることで、作業方向の制約をなくし、作業性を向上させています。
また、AGVの台数を変えることで工程数を自由に変えられるため、作業量の異なる多様なパワートレインを組み立てることができるようになりました。
組み立てた各種パワートレインのメインラインでの搭載においても、搭載位置の異なる車種でも自動的に位置を調整して搭載できるAGVを導入。
バッテリーEV専用の電動ユニットも搭載することができます。これらの生産技術は既に防府第二工場で導入されており、今後、電動化の導入展開に合わせて本社工場や海外工場にも展開していく計画です。
バッテリーEVといった車種のラインナップが広がるだけでなく、各車種に求められる機能の幅も広がっていくため、パワートレインや電池、車両制御デバイスなどの種類に加えて、それに組み合わせるソフトウェアの数も飛躍的に増えていく見通しです。
これに伴い、材料や部品の調達構造も複雑になることで、顧客ニーズの変化へ柔軟に対応することが難しく、サプライチェーン全体の効率化が課題となっています。
弘中氏は、車両制御デバイスを例に挙げ、現在は海外の取引先でハードウェアを作り、ソフトウェアを書き込む方式を採用しているため、種類数の増加に伴いサプライチェーン上での在庫が増える課題を指摘します。
この課題に対し、マツダはまず商品の企画段階でパワートレインの種類数を削減。その上でハードウェアの種類は1つにして、車種共通のソフトウェアだけを取引先で書き込んで調達します。
車種ごとに種類が異なるソフトウェアは自社工場で「ファクトリーOTA」という無線通信での書き込みを実用化して対応しています。
「ソフトウェアの種類を工場内で決めることにより、お客様の需要変動に柔軟に対応できるようになり、またサプライチェーン内の在庫も1/4に削減できるようになります」と弘中氏は説明します。
また、取引先でも生産する部品の種類が圧倒的に減ることで取引先の固定費が削減でき、ひいてはマツダの原価低減にも繋がるとのこと。
これは「ものづくり革新1.0」のスコープを取引先との協業活動まで広げることで実現したものであり、今後はソフトウェアだけでなく、制御系ユニットをつなぐワイヤリングハーネスなどのハードウェアにも適用を広げていく計画です。
※ ※ ※
「これまで進化させてきたものづくり革新により、2027年に市場導入予定の新型バッテリーEV生産において、当社は既存の混流ラインを有効に活用するため、バッテリーEV専用工場新設に対して、初期設備投資は85%削減、量産準備期間は80%削減することができます」と弘中氏は強調します。
これが「バッテリーEV専用工場が必要ない」理由であり、ライトアセット戦略による効率化だと弘中氏は説明します。
マツダは電動化の黎明期において、多様化するお客様ニーズや商品の変化に柔軟かつ効率的に対応できる混流生産と、サプライチェーンの構造変革により、世界中のお客様に「走る喜び」を味わっていただけるマルチソリューションをタイムリーに届けていく方針です。
スモールプレイヤーであるマツダが、強みを最大限に活かし、効率的な投資と柔軟な生産体制で電動化時代を生き抜く戦略は、自動車業界における一つの革新的なアプローチとして注目されています。(くるまのニュース編集部)
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