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自転車用「電動改造キット」急増? 設置わずか60秒で時速32km──天使か悪魔か? 事故リスクの現実を考える

掲載 更新 34
自転車用「電動改造キット」急増? 設置わずか60秒で時速32km──天使か悪魔か? 事故リスクの現実を考える

電動化が揺さぶる自転車安全網

 かつてのホンダは、自転車に取り付ける外付けモーターの開発・販売からスタートした。終戦直後のことだ。この取り組みが、同社を「動くものをつくる企業」として際立たせるきっかけとなった。

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 やがて、モーターの出力が上がると、自転車のフレームがその負荷に耐えられなくなった。そこで、フレーム自体を再設計する必要が生じた。振動対策として、サスペンションの導入も不可欠となった。こうした改良を段階的に積み重ねることで、ホンダは二輪車メーカーとしての地位を確立していく。

 ときは流れ、エンジンはガソリンから電気へと主役を変えた。電動モーターは、日常使いに耐える性能を手に入れた。そして今、既存の自転車を生まれ変わらせる奇跡の外付けユニットとして再び注目されている。

 だが、この動きにはリスクもある。技術の進化と並行して、安全性や制度設計が追いついていない現実がある。注目の裏には、常に危うさが潜んでいる。

免許不要が生む需要拡大

 電動自転車が世界各地で普及している。ここでいう電動自転車とは、いわゆる電動バイクのことである。ペダルを漕がずともモーターが車輪を駆動するタイプの乗り物だ。

 国によっては、もはや人力の自転車よりも電動タイプの方が生活風景に馴染んでいるケースもある。例えば、当媒体が2023年4月22日に配信した記事「日本とケタ違い! 中国の「電動バイク」保有台数3.4億台突破、コスパ抜群&エコ貢献 なぜ爆売れするのか?」(喜多崇由氏執筆)では、中国での普及状況が詳細に解説されている。記事によれば、同国ではすでに電動自転車が3.4億台を超えて走っているという。

 人気の背景には制度設計の影響もある。2019年、中国では電動自転車に関する国家基準の改訂版が施行された。最高時速25km、バッテリーを含む車両重量55kg以内、モーター定格出力400W以内、バッテリー電圧48V以内??この範囲内であれば免許が不要という扱いだ。これが、普及を後押しする要因となっているという。

 電動自転車という定義は広く、当初からその仕様で販売された製品に限らない。既存の人力自転車に電動コンバージョンキット(別の機能や仕様に変換・改造するための部品セット)を後付けするケースも数多い。現に、通販サイトで検索すれば、さまざまな外付けモーターキットが確認できる。

 この動きは中国に限らない。米国でもアプリ連動型の電動コンバージョン製品が注目を集めている。代表的な製品として挙げられるのが「LIVALL PikaBoost」だ。すでに第2世代が登場しており、最大出力は500W。一般的な自転車に最大時速32kmの速度性能をもたらす。最大の特長は「60秒以内で設置可能」という簡便性にある。専門知識がなくとも、誰でも手軽に電動化できる点が支持されている。

 米国の都市は、土地をふんだんに使った水平型の設計が基本だ。広大な移動距離をカバーするには、漕がずに進めるモペット型モビリティが不可欠となっている。

ロゴ使用で浮上した規制空白

 既存の自転車に、モーターやバッテリーを外付けした車両は、日本国内でも見かけるようになっている。

 しかし、こうした改造自転車で公道を走行すれば、道路交通法違反として摘発対象となる。これは電動キックボードやモペットと同様、基準を満たさない自走車両が日本で走行できるのは、あくまで私有地内に限られるためだ。

 一方で、日本の法制度はこうした改造自転車の存在を十分に想定していない。規制の網が曖昧なまま、販売や使用が見過ごされている現状がある。2024年10月17日付の時事通信ノ記事『アシスト自転車の改造部品販売で初摘発 ロゴ無断使用、商標法違反―大阪府警』によれば、こうした法の隙間を巡って全国初の摘発事例も報じられている。

「改造した電動アシスト自転車の部品などを大手メーカーのロゴとともにオークションサイトに掲載したとして、大阪府警は17日までに、商標法違反容疑で、会社員の男(52)ら3人を逮捕し、2人を書類送検した。府警によると、電動アシスト自転車の改造部品販売を巡る商標法違反容疑での検挙は全国初という」

 注目すべきは、今回の摘発が部品そのものの違法性ではなく、無断でブランドロゴを使用した行為に対するものだった点にある。すなわち、問題視されたのは海賊品販売に該当する点であり、電動アシスト自転車の改造部品そのものが違法とされたわけではない。イい換えれば、電動コンバージョンキットを含む改造部品は、現行法上は明確な位置づけを持たない。自転車と原動機付自転車の境界線を曖昧にする、いわばグレーゾーンにある。

 このような法制度の不備が、結果として自己責任による設置を可能にしているともいえる。使用実態が規制の網をかいくぐり、無秩序な広がりを見せている現状がある。

3車種限定の市場投入

 電動コンバージョンキットは、日本の自転車文化と根本的に相いれない可能性がある。日本の自転車文化は、地域に根差した自転車販売店とともに発展してきた。どの町にも1軒は存在する自転車店が、その中核を担ってきた。一方で、欧米の自転車文化はDIYの延長にある。米国や欧州では、個人が改造した自転車がネガティブに評価されることは少ない。文化的な前提がそもそも異なる。

 ホンダが展開する電動アシストユニット『SmaChari(スマチャリ)』は、日本の自転車文化を前提とした設計思想に立つ製品だ。既存の自転車にモーターとバッテリーを取り付け、スマートフォンアプリで走行を管理・モニタリングできる仕組みを採用している。

 公式サイトでは「さまざまな自転車を電動アシスト・コネクテッド化する技術」と謳っている。ただし、そのすぐ下には

「※ユーザー様へは対応車種への取付済販売となります」

と明記されている。この一文が意味するのは、『SmaChari』が現時点でワイズロードの販売する3車種にしか装着できないという事実だ。そのうち1車種は2025年夏に登場予定であり、個人によるDIYでの取り付けは想定されていない。

 仮に個人での設置を許容すれば、日本全国の膨大な自転車をそのまま電動アシスト化できる可能性が開かれる。それでもホンダがDIYによる普及を避け、販売店経由にこだわるのは、安全性への確証が得られていないからだ。

『SmaChari』は、前述の『LIVALL PikaBoost』のように自転車を電動バイク化する製品ではない。あくまで人力を補助する「電動アシスト」機能にとどまる。それでも、安全性の担保には高度な検証が求められる。これは自転車部品メーカー、車体の安全認証を行う団体、自転車保険を提供する保険会社など、複数のプレイヤーを巻き込む必要がある領域である。

長距離通勤変革と課題の現実

 ここでひとつの仮説を立ててみる。電動コンバージョンキットが日本で広く普及したらどうなるか――。既存の自転車をそのまま電動化、あるいは電動アシスト化できるようになれば、

「都市の中央集中から郊外への分散」

が進む可能性がある。毎日、有料にもかかわらず混雑する電車に乗る必要がなくなる。身体的な負担を抑えつつ、比較的長距離の移動が可能になるからだ。こうした新たな交通手段が確立すれば、通勤や居住の選択肢にも大きな変化が生まれるだろう。

 ただし、その利便性と引き換えに、新たな課題も生じる。たとえば、駐輪場の確保である。これを放置すれば、違法駐輪の横行は避けられない。

 自転車は地球に優しい脱炭素交通手段として評価されてきた。しかしその一方で、違法駐輪は都市景観を損ない、社会的なコストを生む副作用でもある。この負の側面を軽視してはならない。

安全負担増と整備コスト問題

 電動コンバージョンキットの普及は、

「電動アシスト自転車の価格破壊」

を引き起こす可能性がある。この影響は立場によって評価が分かれるだろう。消費者にとっては恩恵となる一方、安全性への懸念も残る。外付けであるがゆえに事故リスクが増し、従来の電動アシスト自転車以上に整備が求められる可能性が高い。この整備負担が増すことも十分に考えられる。

 また、日本の各自治体がこの状況を黙って見過ごすことは考えにくい。電動アシスト自転車の普及に伴い、自転車レーンの整備が急務となるだろう。その整備には多額の費用がかかるうえ、安全面の課題も無視できない。

 こうした背景から、自治体が電動コンバージョンキットに対してライセンス制度を設ける可能性もある。

電動化進展と制度変革の狭間

 これらの流れを踏まえると、ホンダの『SmaChari』の販売戦略は日本の事情に合致しているといえる。日本の自転車文化は、周辺インフラの整備と一体で成り立っている。

 したがって、『SmaChari』は単独で強く売り込む製品ではなく、囲い込み戦略の一部として位置づけられている。この戦略は、もし日本で自転車版車検制度が導入された場合にも、スムーズに対応できる伏線となるだろう。

 さらに、『SmaChari』自体が、そうした制度創設のきっかけになる可能性もある。これは日本版ライドシェアの動きと似ている。本来のライドシェアとは内容が大きく異なるが、日本人はそれを理解した上で普及を目指している。

 DIY商品である電動コンバージョンキットも、日本市場ではこうした経緯を経て再構築されているのだ。

日本の規制と法整備の壁

 電動コンバージョンキットが米国で普及した背景は一筋縄ではいかない。

 まず、米国の自転車文化はDIY精神の上に成り立っている点が大きい。さらに、米国の道路は日本よりも広く、電動コンバージョンキットなしでは移動が難しい事情がある。米国では自転車は「自宅のガレージで整備するもの」という意識が根強いことも押さえておく必要がある。

 一方、日本人が海外のクラウドファンディングサイト『Kickstarter』や『Indiegogo』で電動コンバージョンキットに出資し、個人輸入することは現状でも可能だ。しかし、その製品を日本の法律に完全に適合させる道のりは極めて険しい。

 どの省庁がイニシアティブを取るのかも不透明だ。国土交通省か警察庁か、それともスマホアプリを用いる先端技術製品としてデジタル庁か。日本特有の責任の所在の曖昧さが大きな壁となる。それを乗り越えたとしても、

・保険開発
・車体規格の制定
・有識者会議による道交法改正の検討

が待ち受けている。

 さらに、日本では自転車は販売店で整備してもらうものという常識が根強く、この常識との衝突も避けられない。

オンカジ規制と法整備の現状分析

 いずれにせよ、日本は既に迫りつつある「黒船」への法的対応を急がねばならない。現在、総務省ではオンラインカジノの法規制に関する有識者会議が招集されている。これもまた、技術の進化が現行法制度を追い越した事例のひとつだ。

 賭博行為を禁じる法律は存在するが、現実には預金口座やクレジットカードを使い、簡単にオンカジサイトへ入金が可能だった。オンカジを明確に規制する法律がないため、オンカジはグレーゾーンで利用は自己責任という風潮が生まれてしまったのである。

 電動コンバージョンキットも、「第2のオンカジ」とまではいえなくとも、その存在をめぐり各省庁が対応に苦慮する事態となる可能性は否定できない。

 ただし、オンカジと異なる点は適切に扱えば日本人のライフスタイルを進化させる可能性があることだ。新たな製品が制度という枠組みを改良し、生活を豊かにする流れが生まれれば、電動コンバージョンキットは悪魔ではなく天使としてともに歩む存在となるだろう。(澤田真一(ライター))

文:Merkmal 澤田真一(ライター)
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みんなのコメント

34件
  • ghg********
    自転車に電動キットを取り付けたら、原動機付き自転車になる。
    取り付けたら、原付の保安基準満たす改造して、ナンバー登録して、自賠責加入
    して、免許保有者が運転しないと公道を走行できないよ。
  • f1g********
    下手すると人を跳ねた時に保険が降りないなんて事もあるんじゃないかな。
    一生賠償生活になるか自己破産になって悲惨な老後を迎えるか。
    ノーマルで乗るのが一番ですよ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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