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自衛隊の新装備「よく走る迫撃砲」の“弱点” ウクライナの教訓活かせず? アメリカは北欧製「迫撃砲システム」に熱視線

掲載 更新 42
自衛隊の新装備「よく走る迫撃砲」の“弱点” ウクライナの教訓活かせず? アメリカは北欧製「迫撃砲システム」に熱視線

陸上自衛隊に導入される新型自走迫撃砲

 2025年3月31日に成立した2025年度の防衛予算には、陸上自衛隊の新装備「24式機動120mm迫撃砲」8両の調達費として85億円が計上されています。これにより、機動性を重視した火力支援能力の強化を図る構えです。

【仰角攻めてる!!】アメリカ陸軍「新型迫撃砲システム」実射試験の様子(写真)

 24式機動120mm迫撃砲は、16式機動戦闘車の車体をベースに開発された、タイヤで装甲する装甲車ファミリー「共通戦術装輪車」の一つで、2024(令和6)年度から調達が開始されています。24式機動120mm迫撃砲は車内にフランス製の120mm迫撃砲「2R2M」を搭載しており、この種の車両は一般的に自走迫撃砲と呼ばれています。

 迫撃砲とは、攻撃目標が直接見えない状態で攻撃する「間接射撃」が可能な野砲です。陸上自衛隊は2R2Mの開発ベースとなった、車両牽引式の「120mm迫撃砲RT」を保有しており、2R2Mと120mm迫撃砲RTは同じ砲弾を使用できます。

 先進諸国の軍隊の多くは、迫撃砲を含む敵の野砲の発射位置を特定する「対砲レーダー」を保有しています。対砲レーダーを保有している敵と戦う場合、射撃後は迅速に射撃位置から移動(陣地変換)しなければ敵の反撃を受ける恐れがあります。24式機動120mm迫撃砲は車内からの射撃後、迅速に陣地変換できますので、車両による牽引が必要な120mm迫撃砲RTに比べて、生存性は高くなると考えられます。

 陸上自衛隊は1990年代後半から2000年代初頭にかけて、履帯(キャタピラ)で走行する装甲車に120mm迫撃砲RTを搭載した「96式自走120mm迫撃砲」を導入していますが、調達数は24両にとどまっています。それに対し24式機動120迫撃砲は100両以上が調達されるという報道もあります。

 24式機動120mm迫撃砲の配備が陸上自衛隊の火力支援能力を向上させることは確かだと思いますが、問題が無いわけではありません。

 迫撃砲を含めた砲は、砲身の中にライフリングとよばれる溝を彫ってあるライフル砲と、ライフリングが彫られていない滑腔砲に分類できます。2R2Mや120mm迫撃砲RTがライフル砲であるのに対し、アメリカ陸軍が保有している120mm迫撃砲「M120」などは滑腔砲です。

 防衛省・自衛隊は万が一侵略を受けた場合、敵勢力を排除するまで戦い続ける「継戦能力」を向上させるための取り組みを行っており、その一環として砲弾の調達数も増やしています。ただ、2022年に発生したウクライナ戦争の事例が如実に物語るように、有事の際には予想をはるかに上回る大量の砲弾が消費されることもあります。このため、ウクライナは欧米諸国から多数の砲弾の供与を受けています。

 日本で有事が発生し、砲弾が不足した場合は同盟国のアメリカなどから融通してもらうことになります。迫撃砲弾が不足した場合も、アメリカなどから融通してもらえればよいのですが、アメリカ海兵隊は迫撃砲を保有しておらず、陸軍の保有する滑腔砲型のM120 とライフル砲型の2R2Mには砲弾の互換性がありません。つまり、アメリカから不足分を融通してもらうことは不可能です。

アメリカが注目する北欧製の“新型自走迫撃砲”とは

 さらに、戦場における新たな脅威が24式機動120mm迫撃砲の生存性を脅かすかもしれん。

 24式機動120mm迫撃砲はキャビン内部に22R2Mを搭載しており、射撃の際は停車して車体上面のハッチを開いて砲弾を発射します。近年では、対砲レーダーの性能向上に加えて、ドローンを用いた迫撃砲発射位置の特定も行われており、24式機動120mm迫撃砲のような停車して射撃を行う自走迫撃砲の生存性は低下しています。

 また、ウクライナ戦争では発射後いったん上昇してから車体上部を攻撃する「トップアタック」能力を持つミサイルや、徘徊型弾薬(自爆型ドローン)などによる、装甲車両で最も装甲の薄い車体上部への攻撃が両軍で多用されています。前に述べたように24式機動120mm迫撃砲は射撃時に車体上面のハッチを開きますので、車体上面の防御力は走行中よりもさらに脆弱になります。

 こうしたウクライナ戦争の戦訓などを踏まえて、アメリカ陸軍では戦車のような全周旋回式砲塔に迫撃砲を搭載する装甲車の導入を検討しており、2024年9月にフィンランドのパトリアが開発した滑腔砲型120mm迫撃砲システム「NEMO」をAMPV装甲車に搭載して試験を行っています。

 迫撃砲は本来、移動しながらの射撃や、目標が見える状態での「直接射撃」には適していないのですが、NEMOはこれらの能力も備えているだけでなく、ほぼ同時に6発の砲弾を命中させる能力も備えています。

 アメリカ陸軍は、履帯で走行するAMPVにNEMOを搭載して試験を行っていますが、NEMOは陸上自衛隊が導入する「AMV XP」のようなタイヤで走行する装甲車にも搭載できます。防衛省・陸上自衛隊が継戦能力と操作する隊員の生存性の向上を重視するのであれば、幅広いプラットフォームに搭載が可能なNEMOを装備する自走迫撃砲の導入も検討すべきなのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

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みんなのコメント

42件
  • jpgawd
    ドローンへの対抗策は対抗策として別に考えるしかないのでは?5.56mmクラスのミニガンのようなものとか、レーザーなど、高エネルギーのビーム兵器とか。開口部があるからやられる、を言い出したらキリがない
  • kuro-koucyou
    装甲兵員輸送車としてパトリアを採用しながら、ファミリー車の全周式砲塔を持つ迫撃砲車を考えていないとか、そもそも共通装輪戦闘車両の開発で兵員輸送型がない (競作コンペで落ちたアレがそうなの?) とか、陸自の装備はツッコミどころ満載に見える。"いいものが欲しい" と "国内開発・生産能力維持" のテーマの折衷策を取って現場を見てないのではという気もするが、安くはない国費投入がそれでいいのか?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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